エデュケーショナル・セッションから(3)

■トコジラミの調査と防除の新手法:フィリップ・G・ケラー(フロリダ大学)

「探し物がなかなか見つからない」。そんなとき「見つけたいのに見つけたくない」のがトコジラミ。トコジラミの調査から防除まで、ケラーさんの講演は語り口が面白い。

1.トコジラミ発見法6つ

(1)目視

トコジラミの排泄物(血糞)を探すことのほか、血糞中のヒト血清を波長455nm(ナノメーター)の青色光による蛍光反応で探す方法がある。このとき、青色蛍光色がブルーライトで消えてしまうので、オレンジ色の眼鏡を着用して観察する。記録のため、撮影する際はカメラのレンズにオレンジ・フィルターを装着する。
血糞跡のディテクションには、“Bed Bug Fecal Spot Detection Kit”(PCO専用)を使うと良い。このキットにはディテクション・テープ、検出液と綿棒が入っていて、2年前までに付着した血糞を検出できる。生息が疑われる箇所に無色の検出液を塗りつけると、1分後に青色に変わる。ただし、それが古いか新しいものかの判断はできない。

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(2)DNAディテクション

トコジラミのDNAを検出する方法で、ほぼ1年以内の生息であれば感知できる。サンプルを郵送、フェデックス、UPSなどで送付すると24時間以内に返事が来る。
DNA法の利点は、99%の精度で検知できるうえ、ダニなどほかの生物と区別が可能なこと。ただし、防除したかあるいは以前に繁殖があった箇所の再発かなどの判定は不能。

(3)探索犬(嗅臭犬)

探索犬はほぼ98%の精度でディテクションできる。死んだトコジラミ、血糞、生きているトコジラミ、生きている卵、脱皮がら、対照の順に並べたサンプルを嗅がせるテストを行った。その結果、生きているトコジラミには100%の反応、生きた卵に約90%の、血糞には3.33%反応し、その他のサンプルには反応しなかった。

(4)インターセプター・トラップ(待ち伏せトラップ)

腹ペコのトコジラミは容易に二酸化炭素ガス(CO2)に反応する。CO2カートリッジ(カクテル用の小容量のものや、タイヤのパンク直し用エアゾールなど)を開けると、隠れ家からベッドへ飛び移ってくるほど。CO2利用のディテクションは吸血源を求めているトコジラミ専用といえる。寄主(ヒト)が出す炭酸ガスや、ドライアイスがトコジラミのアトラクタント(誘引剤)になる。

(5)パッシーブ・ディテクター(受動型ディテクター)

アトラクタントなしのディテクターをパッシーブと呼ぶ。ベッドの下などトコジラミの隠れ家になっているところなどで、たまたま引っ掛かる。

(6)アクティブ・ディテクター(活性型ディテクター)

トコジラミの行動には寄主(吸血源)を求めているときと、隠れ家を求めているときがある。アクティブ型は、その双方のトコジラミの状態に、それぞれ対応するように作られている。そして、この双方を同時にディテクションするのがデュアル・アクション・ディテクターだ。
Volcanoは、吸血源を探すトコジラミ用で、なるほど火山のような形をしている。ボルケイノは炭酸ガス発生、カイロモンとしてのヒトの臭い、加熱剤、器具表面の色や溝の形などにトコジラミが好むような工夫がある。誘引性能を炭酸ガス発生装置と比較したところ、24時間比較でボルケイノの方が9.5倍ものトコジラミを集めた。
Verifiはデュアルアクション・ディテクターで、ベリファイにはカイロモン(ヒトの臭い)、CO2、フェロモンに加え、 隠れ家とピットホール(落とし穴)が組みこまれている。実験ではベリファイから5フィート(約1.5m)も離れたところに居るトコジラミまで誘引することができた。

2.防除法の実際

(1)使ってはいけない薬剤7つ

トコジラミ防除はプロの仕事。やってはいけないことを顧客に教えよう。;引火性の殺虫剤をつかうこと。衣類防虫剤(パラベン)を撒くこと。EPA未登録の殺虫剤には毒物が入っている恐れ。芝生や樹木用薬剤の利用。園芸用粉剤の使用。ベッドのマットレスへ殺虫剤を使うこと。トータルレリーズ・エアゾール殺虫剤をつかうこと。以上、7つ。

(2)タイプ別トコジラミ対処法

・ノン・ケミカル防除法;加熱処理、衣類乾燥機、バキューム、マットレス・エンケースメント(ベッドのマットレスをすっぽり包み込むカバー)、各種トラップなど。
・ケミカル防除法;液剤、粉剤、蒸散剤、くん蒸剤などがある。

(3)蒸散性殺虫剤の利用

トコジラミ防除には、さまざまな蒸散性化学物質が利用された歴史がある。たとえばガソリン(1910年)、シアン化物や青酸ガス(1935年)、ジクロルボス(DDVP、1958年)だ。ジクロルボスはEPAによる20年間にわたる再評価後、トコジラミの適用が改めて登録された。
ヌーバン(プロ・ストリップ)樹脂には1枚あたり18.5gのジクロルボスが包埋されている。ヌーバンの一般的な使用法;1200立方フィート(約32㎥;高さ3mとして約3坪)あたり1枚のヌーバン樹脂を使用。クローゼットや部屋を2~3日密封すると、成虫とニンフ(幼虫)は防除できるが、卵には7日間の密閉が必要だ。防除後は7日間開放し、換気につとめること。以上は一般的なヌーバン樹脂殺虫剤の用法だが、今回紹介されたのが熱風処理との併用法である。
・ヌーバン樹脂蒸散剤と熱風処理の併用法
処理する部屋の入り口に熱風を吹き込むファンを配置。そのすぐ前にヌーバンを吊るしたハンガー・スタンドを置き、熱風によって蒸散したDDVPを、室内に吹き込む。この方法はジクロルボスを通常より60倍も早く蒸散させ、普通なら7日間必要なトコジラミを1日で駆除できた。ただし、処理後の換気にはより周到な配慮が必要になる。
実はこの用法はNuvanのラベルには記載されていない(登録が無い)。しかし「そのような使い方をしてはいけないともラベルに書いてない」というのがケラーさんの言い分。これは単なる実験であって、PCOの皆さんには「EPAが新しい使用法を認めるまでは、あくまでも現行品のラベルの用法を遵守してほしいと思います」と、ケラーさん。

(4)トコジラミ用殺虫剤の紹介

(ⅰ)Suspend SC(デルタメスリンSC製剤)

サスペンドSCを直接噴霧したときの、ピレスロイド抵抗性トコジラミ24時間後死亡率は83%だった。木部表面に残留処理し、連続72時間接触後死亡率は、感受性系統で100%、ピレスロイド抵抗性系統では30%にすぎなかった。

(ⅱ)Temprid SC(イミダクロプリドとβ‐シフルトリンの混合剤)

テンプリッドを木部表面に残留処理し、連続72時間接触後死亡率は感受性系統で100%、ピレスロイド抵抗性系統では67%だった。直接噴霧の24時間後死亡率は双方共に100%。

(ⅲ)Transport(アセトアミプリドとビフェントリンの混合剤)

木部表面に残留処理し、連続72時間接触後死亡率は感受性系統で100%、ピレスロイド抵抗性系統では47%。直接噴霧の1時間後死亡率は100%。その後の蘇生も無かった。

(ⅳ)Invader(プロポクスル1%含有のエアゾール製剤、C&C処理のみに使用)

インベーダーを木部表面に吹き付け処理し、2時間接触後のピレスロイド抵抗性系統死亡率100%、感受性系統は1時間接触で100%致死。
(プロポクスル1%剤の復活については、オハイオ州農務省がこれを必要と認め、ワシントンに打診。EPAはこれを受けて、2010年1月6日付けの官報に公示し、プロポクスル3製剤復活の是非をパブリックコメントにかけた経緯がある。民意は得られたものの、いったん禁止された成分の製造再開を目論むメーカーが、当時はなかった)

(次号にはペストワールド2012:ボストン大会から②として、飛翔性昆虫モニタリングの最新情報や新製品情報ほかを中心に掲載の予定です)

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