ペストワールド2008:ワシントン大会から②

鵬図商事株式会社 顧問 岩本龍彦

インタナショナルメンバー向け1日ツアー


海外からNPMA大会に参戦した人たちに1日ツアーが用意された。アメリカのPMPはこんなサービスを提供していますよという、いわば先進の技術を見せてあげましょうという試みである。NPMA本部スタッフの一人、Entomologist(昆虫学者)のケーシーさん(Kathleen Heinsohn、Dr.)が案内する1日バス・ツアーである。9時にホテル前出発のバスに40人ほどが乗り込んだ。
 まず、地元のPCO2社、コナーズ・ペスト・プロテクション(Comer’s Pest Protection))社とウエスタン・ペスト・サービス(Western Pest Service)社を訪問のあと、この8月に新築のNPMA本部でランチ休憩をとる。ホテルへの帰途に、The Pentagon(バージニア州にあるアメリカ国防総省ペンタゴン)近くのペンタゴン・モールの傍らを通るので、寄り道してお買い物という盛り沢山の内容だ。
 コナーズは、現社長の娘がケーシーさんの友達。ウエスタンの方は、彼女が以前に働いていた会社だったという。前者がコンピューター・ディペント(デジタル)の、後者は典型的なマニュアル(アナログ)な会社というところにも選定の妙がある。
 両社ともに、社長や責任者が会社概要を説明した後、カンパニーツアー(社内見学)では担当者が自席で自分の仕事をプレゼンする。アメリカ的なやり方に好感が持てる。

コナーズ社

 最初の訪問先、バージニア州スプリングフィールドにあるコナーズペスト・プロテクションには9時30分に到着。社屋に入るとき、ひとり一人に本日のプログラムが渡された。かぜか、赤や黄色と、いろいろな色の色紙にコピーされている。
 会議室に皆さんが着席すると社長のエド・コナーズさんが登場。歓迎の挨拶。コナーズは父親が創業した。今はテクニシャン18人の会社。後刻、ケーシーさんが会長さん(創業者)を「He is 86 years young!」と紹介し、片目をつぶって見せた。(本来、年齢をいうときはyears oldというべきところを、years youngと茶目っ気をだしたのだ)
 プログラムはトコジラミのThermal Heat Demo(トコジラミの熱処理デモンストレーション)、注文受け部門のやり方紹介、および建築物の湿気管理とくん蒸処理について、とある。カンパニーツアー(社内見学)が始まった。「ピンクの紙をもっている人こっちよ。青は二番目のグループです」。入り口で配られた色紙はグループ分けするためだった。

 この会社で実演してくれたトコジラミの高熱処理(Thermal Heat Teratment)について書いておこう。トコジラミの高熱処理は華氏140度(60℃)で2時間密閉する。この処置で、環境温度がほぼ華氏110度(約43℃)に保たれ、トコジラミは2時間以内に致死するという。
 防除実践中は部屋の外から時間を追ってパソコンで温度調節をする。パソコンの画面に処理室内の温度がグラフ化されて記録に残る。のぞき見ると処理時間内、華氏110度以上に保たれていた。この温度であれば、経験的に、トコジラミの卵までも殺すことができるそうである。(実験に使った部屋に入ってみたが、暑くてとても長くは居られない)
 重篤な被害があるときに(くん蒸が許される建築物と条件が整えば)、くん蒸剤バイケーンが併用されることもある。IPMの在り方の一法として、ずっと以前から提唱されていた熱処理(高温または冷却処理)が、いよいよ実用化のだんかいにあることを知った。日本のPCOも遠からず検討が必須になるだろう。
 同社はBed Bug Dog(トコジラミ検出犬)を使って調査に役立てることにした。みせてくれたスニフ・ドッグ(嗅臭犬と呼ばれ、シロアリの被害個所を嗅ぎ出すように訓練されたものもある)はビーグル種だった。

ウエスタン社

 28年、フェアファックス(バージニア州)に設立。その後、ニューヨーク、バルディモアなどに進出しあ。現在はニュージャージーを中心に21の営業所展開で総額$100mil(100億円)を売り上げるまで成長した(07年PTC誌トップ100によると、この企業は第7位、売上額96億円である)。3年前にターミニックス社と1,2を競う、オーキン社に買収されたが社名はウエスタン・ペスト・サービスのままにしてある。
 60%が食品施設など相手のコマーシャル部門。ホームサービス部門は主として樋掃除のルーティン化と、シロアリ用ベイト剤・セントリコンの管理である。
 訪問したブランチはテクニシャン13人(14人いるが1人分はローテーション休暇用に空けてある)、セールス(コミッション制)4人とロジティック(事務員)8名の計25人で6億円の売り上げがある。31ブランチ中で、大きい方の3営業所のひとつという。
 ホームサービス部門の一般住宅管理ではガタ―(樋)掃除が興味を引いた。筆者は樋掃除でいくら請求するか訊いた。この近辺の2階建て1軒家(たぶん4ベッドくらいの広さに見えるが)全部の樋の掃除で$225請求するという。
 シロアリ対策や樋掃除の売り込みと顧客管理のセールスマンが4人いる。商談に使うサービス品(ノベルティ)の紹介や割引クーポン、施工説明書などセールスツールが山のように揃えられている。新顧客を日に2件獲得を目安にしている。ただし、セースルのテリトリーはあらかじめ決められているコミッションセールだ。

NPMA本部訪問

 PCO2社訪問後、バスは新築なったNPMA本部へと向かう。バージニア州フェアファックスの瀟洒な住宅街の一角に本部はある。まだペンキの香がするような2階建住宅が、切り開かれた林のなかにあり、一般の住宅なら5ベッドくらいの広さだろうか。1メートル半ほどの高さの石積みのうえに建てられているので見栄えがする。
 早速に招き入れられ、本部ツアーが始まった。レダラー専務理事の部屋は2階にある。屋根の三角部分は上手に取り入れた入り口ドア付近は書庫兼会議室のようだ。その先に応接セットがあり、いちばん奥まった部屋に巨大なレダラーさんの机がある。調度品もなかなかなもので、どっしりとした重みで趣味もいい。日本の一流上場会社の役員室に負けないだろう。
 入り口の飾り棚には(多分)到来ないものと思える品が飾られているコーナーがあった。ふと見ると。時間ごとに小鳥が囀る丸時計がある。たしかこの品は林(庄一)さんが会長時代に、NPCA(当時)に贈ったものだったと思う。日本PCO協会がNPCAの団体会員になるので、挨拶にいったときの記念品だったはず。残念ながら電池が切れたままだった。
 1階に下りて昼食。近くに住むNPMAスタッフの奥さんの、心づくしの串焼肉、サラダとスパゲッティのビュッフェだった。大変おいしかったです。
 少し雨が強くなった頃、(すでに3時は過ぎていたと思うが)本部を辞することになった。と、レダラーさんと新会長のカーターさんが玄関に手を振っています。いつの間にホテルから戻ったのか、外国からのお客さんを逸らさないところなんか見習わなければなりません。

エキジビション・ホール

 ゼネラルセッションやエデユケーショナルセッションと並んで、逃してならないのが、エキジビション(展示会)だ。薬剤メーカーや機器製造企業が軒を並べて新製品や防除法の新しい提案などに躍起である。今年も延べ170以上ものブース(展示場)が出た。
  
 筆者が今年、真っ先に目指したのはEPAのブースだ。政府の機関がこのような商業的な場面にブースを出陣することなど、日本ではあまりないが、このNPMA大会にはEPAが店を出すことが間々ある。NPCAの頃、まだインターネットが普及していなかったときは、このブースで名前を登録しておくと、新しい規制情報などが自動的にエアメールで送られてきたものである。
 筆者は今年のブースでさまざまなEPA製ノベルティ・グッズを責った。薬剤の安全使用に関する磁石つき警告シート、”殺虫剤を安全に使いましょう”物差し、の類の小学生向けグッズだ。EPAは子供達に小さいときから、薬剤の正しい使用習慣をつけさせようとしている。中でも参考になるのが”Pest Control In the School Environment-IPMの導入”という小冊子である。小学校でIPMを教えている。ねずみ駆除協議会がホームページを立ち上げたとき、筆者が主張して子供向けページを加えたのも、このことが頭にあったからだ。

 EPAがピレトリン(除虫菊エキス)の安全性宣言を出してから、天然ばやりで、ナチュラルだとかグリーンだのが俄然脚光を浴びることになった。ウエストナイル熱対策の家庭用ピレスロイド自動ミスト器も、除虫菊エキス剤が主流になったようだ。
 トコジラミのリサージェンスが話題になる中で、今回の展示で出てきたのが、プロテクト・ア・ベッド社のベッドマット・カバーだ。織り目の細かい綿布で作ったジッパーつきカバーでベッドをすっぽりと覆う。それだけで、トコジラミが(ベッドに)潜り込めず、出られず、カバー越しでは寝ている人を刺せない、という。
 バードコントロールではバードバッファーの展示(GBS, Inc.)が人を集めていた。バード・バッファー機は一種の電動煙霧機で、間欺的にメチル・アンスラニレート液(MA) の煙霧を時速90マイルで噴射し、ノバトなどが集まるのを防ぐ。鳥類は凧の眼に見えない細粒で眼粘膜を刺激され、機械の設置箇所から別の場所に飛び去る。MAはチュウーインガムなどの添加剤として知られ、FDAがGRAS (通常使用で安仝) と認定する成分。ノバトなどが致死することは無く、メーカーはリペレントであると説明している。

スミソニアン・国立自然博物館とファイナル・バンケット

 2 4 日の7 時半には、ホテルからスミソニアン博物館行きのバスが連なった。国会議事堂とワシントン・モニュメントの間に、ナショナル・モールと呼ばれる緑が濃い公園があり、その両脇に16もの博物館や美術館などがある。当日は75周年記念のデザート・レセプションを博物館で行うという趣向だ。目玉はオーキン社(Orkin、アメリカ第2位のPC0企業)提供のインセクト・ズーと呼ぶ昆虫館。
 展示フロアーで、ソフトドリンク類やアルコール飲料にクッキーなどが振舞われた。客は食べこぼしながら、ファンタやコークを振りまきながら見て歩く。周囲の植栽からアルコールや砂糖に惹かれた昆虫類が入ってきはしませんかね、と老婆心ながら思う。この催しのために2時間の貸しきりなので、お客が帰ったあと、入念な掃除をするのでしょうね。おそらくこのような催しはしょっちゅうやっているんでしょう。

 ナイサス社がスポンサーのファイナル・バンケットについても少し書いておこう。ベストワールドのプログラム案内に、今年のドレス・コードがブラックとあったのを見て、75周年記念ならさもありなんと考えた。しかしタキシードに蝶ネクタイなんて衣装は持って無いし、困ったなと思いながら、えい 、ままよ、と黒の替上着で出かけたら、何のことは無いTシャツ姿の連中がずいぶんといた。
 パーティの演し物がよかった。ドク・スカントリン(あちらでは有名なんでしょうね) と1 5 人編成のインペリアル・バルムズ・オーケストラが、30、40年代のヒットチャートを奏でる。チャールストンやスタンダードジャズの散々に映画音楽まで、NPMAが通ってきた時代を振り返る。マリリン・モンローそっくりさんの歌もよかったです。

 筆者が参加したセッションをいつも通りにリポートした。ニデュケーショナル・セッションの項では、ワシントンで何が起きているや、グリーン規制や食品施設でOIPMなど、厳しさを増す規制の状況に重点を置いたリポートになってしまった。これは、NPMAがことさらに、このような問題ばかりを取り上げているわけではなく、筆者が現地のPC0の表情を知りたくて、これらの講演を選んで聴取した結果であることをお断りしておく。

 これからの4年間を民主に政権をゆだねることになるアメリカでは、環境保護の課題がこれまで以上に取りざたされるようになるのが眼に見えている。冒頭に書いたように、コンプライアンス不況も免れることが無いだろう。オバマ氏が掲げる気候変動への再取り組み計画は、グリーン変革の嵐が経済大国たるアメリカに吹き荒れることを予見してもいる。
 開会式で上映された歴史フィルムは、世界が同時不況に陥る状況を今に重ねて、強く印象付けるものだった。当時の不況はイギリスポンドの暴落に始まったが、今回はアメリカドルである。不況時に登場するのが強い大統領だ。オバマ氏がルーズベルトの再来と待ち望まれるのも理由はそこにあった。
 今次の不況はかなり長く続くであろう事を考慮しなければならない。とくにPC0産業のようなサービス業にあっては、業容回復が産業界のなかでも後回しにされる公算が大きい。アメリカのPCOたちの心配事も、その辺にあると感じられる大会だった。
 ワシントン・ポスト紙(25日付)は日経平均7000円割れ目前を報じる夕刊フジの写真を掲載した。部屋のテレビは誘拐事件や子殺しなど、暗いニュースを流し続けていた。そのなかで日本版「料理の達人」は笑わせる。なにせ小林カツ代が大口開けて、料理人の息子が中華の達人陳建一に挑戦するのを英語で応援する。もちろん吹き替えなのだが、最近はこのような日本製番組がそのまま輸出されているという。

キーノート・スピーカーのカル・リプケン真摯な講演には好感が持てた。最近のペストマネジメント・オンラインによれば、例のベンツ製スマートはワシントン州のバッグ・レディ・ペスト・ソリューションのオーナー社長テリ・グレンさんが引き当てた。彼女は「この08年型スマート・パッション・クーペを仕事に使うわ」と言っているそうだ。なるほど、リプケンさんの”パッション”は車の名前でもあったのだ。出来すぎの企画ですね。筆者は全米ペストマネジメント協会にまたまた1本とられた感がする。

第76回大会ペストワールドは、2009年10月26~29日に、ラスベガスのベネチアン・リゾート・カジノで開催される。(龍)

商品紹介

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