PMPのための微生物制御とビジネス化のヒント(2)

生物医学研究所・PCJ研究会 代表 青木 皐

汚染・感染・伝染

 微生物が体表面や衣服、あるいは食品に付着している(場合により混ざっている)状態を「汚染:contamination」といいます。その微生物が人間や動物の体表面や組織に付着して安定して増殖し続けるようになった状態を「感染:infection」といい、感染を受けた人(あるいは動物)のことを「宿主:host」といいます。この宿主が微生物に対しさまざまな反応、例えば発熱、悪寒、倦怠などの症状が病的なまでに達し、いわゆる臨床症状をあらわした場合を「発病」といい感染症患者とよばれます。そして、この感染した人から次の宿主に病原微生物が伝搬されることを「伝染」といいます。同じ微生物(病原体)であっても、宿主により感染したり感染しなかったりするのは、その宿主の持つ抵抗力の違いによるもので、発病するかどうかは個人差があります。
 PMPとして、この感染症に対してどのように対応することが社会貢献・ビジネスにつながるのでしょうか?感染症は医師が治療しますが、医療の専門ではないPMPが対応できるのだろうか?という疑問があるかも知れません。我々は感染症患者さんに、直接何かを提供するのではなく、コ・メディカルとして医療の周辺の立場で、医師や患者さんをサポートします。あるいは微生物汚染を除去・予防し、環境品質マネジメントすることで感染症の起きにくい環境を実現させてゆきます。

感染はなぜ起きる?

 人への感染の仕組みは、「感染源」→「感染経路」→「宿主」という経路で起こります。感染源とは、感染を起こす微生物が存在する保菌者、動物、排泄物、汚物、水、土壌、食品、器具などのことです。この感染源から、何らかの形(感染経路)で、まだ感染していない宿主に伝搬されます。この「感染経路」をよく知ることがPMPとして最も大切なポイントです。PMPが感染防止対策としてシステム化・商品化するのはこの感染経路対策です。

感染経路の分類

1)接触感染

a:直接接触感染:人と人が接触して感染
b:間接接触感染:汚染された無生物的媒介物と人は接触して感染

 「人と人が直接接触して感染する代表的な疾病は性病です。そのほか微生物ではありませんが0癬、ヒゼンダニ感染も直接感染といわれてきましたが、布団や衣服からも感染することが分かり、間接感染として対応します。間接接触感染として代表的なのは不潔な医療器具・資材からの感染です。滅菌・消毒が不完全で感染を起こしたり、清潔な医療資材に不用意に触れることにより汚染原因となります。PMPとして、清潔環境で作業をする時の道具類の滅菌・消毒、作業者の清潔行為が問われるところです。微生物汚染は見た目に分からないので、衛生意識をもって行動できるかどうかです。」

2)飛沫感染

くしゃみ、咳、会話による飛沫を吸い込む・接触して感染

3)空気感染

病原体を含む飛沫が気化したあとの5ミクロン以下の粒子か粉塵粒子を吸い込む・接触して感染

 「以前は飛沫感染としてlつに区分されていましたが、現在は空気感染という新しい概念が入ってきています。飛沫とは病原体の周りに水分があることで、おもに口・鼻(唾液・くしゃみ)から排出されています。この飛沫が空中を漂っている間に、水分が蒸発して病原体だけになって、これが呼吸により吸い込まれて感染した時、空気感染といいます。特に結核菌やウイルスは乾燥に強く周りに水分が無くても死滅しないことがあります。空気感染を防ぐためマスクをしますが、通常のマスクではこれらの病原体は通過します。そのため結核菌対策としては高性能のマスp(N95)が用いられます」

4)一般媒介物感染

汚染された水、食品、薬剤、装置、器具を摂食・接触して感染

 「水道水は安全!とはいいきれません。大きな施設は貯水槽を備えていることが多く、何らかの汚染を受けていることがあります。食品汚染もしかりです。これらを摂食した人に感染の可能性が高くなります。特に水に病原体が存在すると被害は大きくなります。施設内の装置や器具だけでなく床や廊下手すりなどの汚染もここに分類され、感染防止のため清潔管理することが求められます。

5)動物・昆虫媒介感染

ネズミ、ハエ、カ、ゴキブリなどに病原体を伝搬されて感染

 「衛生動物・昆虫が直接宿主に影響するのは、カ・ノミ・ダニなどの吸血動物です。多くは動物や昆虫が病原体を媒介して、間接的に感染を招きます。これらの防除は不快害虫防除と違い、絶対数管理を目指さねば意味がありません。本来病院は病原体を保有した患者さんが多い環境です。その患者さんから病原体が排水系に流れていると、病院周囲のゴキブリは多種の病原菌を保有することになります。外国では病院周辺から採集されたゴキブリに多種の病原体保有が確認・報告されています。院内の環境品質マネジメントとして、媒介動物・昆虫防除システムをもう一度見直す必要があります」

1OO年目の新法誕生

 100年にわたって施行されてきた伝染病予防法に代わって、1998年10月に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」 (感染症新法)が制定されました。 (ベストコントロールの薬剤散布量なども古い伝染病予防法で定められていました) 1994年4月に施行されたこの法律はその後改正されています。新法の大きな特徴は、感染症の重症度によってl類から5類に分類され、1類が最も重駕な感染症です。新たな感染症が確認されると追加されます。結核をのぞくすべての感染症はこの法律の中に含まれています。
 もうひとつの特徴は、人権保障と感染拡大防止です。旧来の伝染病予防法では、法定伝粂痢患者は強制的に隔離されましたが、新法では1類であっても、原則的に保健所所長が入院を勧告し患者本人の同意を得て入院となります。入院勧告に従わない場合は72時間強制的に入院させることができますが、入院した場合、人権が侵害されていないかを第三者の審査協議会が審議をします。1~5類の代表的な疾病は次の通りです。
1類:エボラ出血熟、ペスト、ラッサ熱、SARSなど

2類:コレラ、細菌性赤痢、腸チフス、パラチフスなど

3類:腸管出血性大腸菌感染症(0157・0126など)のみ

4類:ウエストナイル熱、エキノコックス症、オウム痢、A型肝炎、高病原性鳥インフルエンザ、レジオネラ症、日本脳炎、ボツリヌス症など

5類:(全数把握対象)アメーバー赤痢、A・Eを除くウイルス性肝炎、後天性免疫不全症候群(AIDS)、破傷風、梅毒など:(定点把握対象)インフルエンザ、百日咳、感染性胃腸炎、MRSA、流行性角結膜炎、淋菌感染症、麻疹など

院内感染と市中感染

 院内感染とは、 「病院に収容された患者が、新たに感染を受けて発症すること」を意味していましたが、今では「病院の中で感染すること」と、より広い概念でつかわれています。病院の外で感染することは「市中感染」とよんでいます。老人介護施設内などの施設内で感染した場合は、院内感染と同様に「施設内感染」とよんでいます。病院や施設内で感染する人は、収容されている人だけでなく、施設内で定期的に施設に入る仕入れ業者、 リネン関係者、清掃業者、警備の方、不定期に来られる外来患者、お見舞い客も感染する可能性があり、これらの方が感染しても、院内感染・施設内感染といいます。どちらも共通しているのはその施設内に感染源となる患者がいることです。あるいは病原体を持ち込んだ人がいたということです。
 施設内に感染者がでるということは、施設内に「感染経路」があるからです。その経路は空気なのか飛沫なのか、あるいは接触感染なのかによって対応が違ってきます。患者に対しては医師が治療を行いますが、我々はコ・メディカルとして、 どう対応すればいいかが問われます。そのため、その施設で起こっている感染症についてある程度の知識を持つ必要があります。微生物学的な知識、感染に至る臨床から見た知識、微生物制御の方法、微生物制御から見た薬剤の知識が必要です。

貴方が汚染源です!

 「貴方は汚い!」といわれると多くの人は「ムッ!」とされるでしょう。しかし、環境品質マネジメントに携わる以上、この事実に目をつぶるわけにはいきません。人の体は細菌だらけです。例えば、顔面l平方センチあたり1000から1千万個、唾液1mlに1千万から100億個、腸内には100兆個の菌が普遍的に存在します。体表面はどこをとっても細菌が存在します。便の固形物(水分を除いた)の60パーセントは腸内細菌の死骸と一部生きている細菌です。もちろん鼻腔にも耳の穴にも細菌は存在します。殆どは常在菌といわれ、特に悪さもしないで人と共存して、むしろ人にメリットを与えてくれています。
 人の体すべてに細菌が存在するということは、もし、悪玉の細菌が付いても死滅せず時には繁殖するかも知れません。繁殖すると発症しますが、抵抗力があると発症せず(自覚症状がない)保菌し、時には他にばらまくかも知れません。このとき貴方は「感染源」になります。あるいは、健康な人にとってまったく影響のない細菌(日和見菌といいます)でも、体力の弱ったお年寄りや病人に悪影響(日和見感染)を与えることがあります。そうすると普通の状態で我々は感染原になっているということです。

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