ペストコントロールの基礎知識と知って得する技術ノウハウ・情報 第11回

鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾

出典元:月刊HACCP291号より

アメリカのペストコントロール展示会に参加してきました

 前前号・前号はゴキブリの生態や調査方法について解説させて頂いておりましたが、世界で一番大きなペストコントロールのイベント「Pest World」に2019年10月15日~18日まで参加させて頂きましたので、その中で興味深かった講義を今号でご紹介させて頂きます。ゴキブリの物理的防除、化学的防除については次号以降ご説明させて頂きます。

Pest Worldとは?

 全米ペストマネジメント協会(National Pest Management Association)が主催する、世界一参加者が多いペストコントロールのイベントです。世界80ヵ国、4,000人以上のペストコントロール関係者が集結し、ペストコントロールビジネスに関わる仲間達との結束を高めています。イベントは4日間に亘り開催され、基調講演の他に50を超える講演、200社を超える展示ブース、パーティーなどが催されます。米国のPCOにとっては、ペストコントロール作業を行う為の免許更新に必要な単位を取得する研修会という意味も併せ持っています。日本からも害虫駆除業者(PCO)、殺虫剤メーカー、商社などが50名弱参加し、最新の害虫駆除、衛生管理について情報収集を行いました。その中で、大手食品サービス業の方が食中毒とPCOについて講義されていたので、ご紹介させて頂きます。

     
写真左:開会セレモニー          写真右:展示会の様子

食品サービス業はどのような害虫駆除業者(PCO)を探しているか?

 講義タイトル原文:What Is Your Food Service Client Looking for in a Pest Management Service?
 講師紹介:DAN BALDWIN , YUM!BRANDS,INC.
 ヤム・ブランズ社は世界中に5つのファーストフードチェーン店を展開する会社です。
 日本でも知られる主なブランドは、ケンタッキーフライドチキン、ピザハット、タコベルなどです。ファーストフードチェーンの中では世界最大規模で、125の国に店を持ち、総売上は1兆円以上になります。そんなファーストフードチェーン大手は、自社の衛生管理についてどのように考え、どんなPCOを探しているのでしょうか?

背景

 米国疾病センター(CDC)によると、毎年米国の4,800万人が食中毒を発症し、128,000人が入院、3,000人が死亡しています。フードサービスを提供する当社にとって食中毒を予防する事は重要な課題です。その中で、害虫を駆除する事は公衆衛生を改善し、害虫を予防する事は食品の安全性を高める事だと考えています。

食中毒に関するデータ

 アメリカでの食中毒は、ノロウイルス58%、サルモネラ11%、その他31%となっています。入院の必要がある重篤な症状を発症したケースでは、ノロウイルス26%、サルモネラ35%、その他39%となっています。また、死亡者の原因を特定すると、ノロウイルスが11%、サルモネラが28%、その他61%となっています。※リステリア菌は食中毒による死亡の19%を占めています。米国農務省(USDA)の分析では、食物由来による病気にかかる治療費は年間約1兆6,000万円〜5兆円以上にのぼります。その中でノロウイルスは約24億円、サルモネラは約395億円です。

食中毒のレストランへの影響

 食中毒の発生はレストランに多大な悪影響を及ぼします。特に多店舗展開しているファーストフードチェーンの場合(売上は下表を参照)、SNS・メディア報道によるブランドイメージ低下、食中毒被害者への補償、店舗閉鎖による売上減少などの影響は計り知れません。また、1店舗平均15.3人の従業員がおり、店舗が営業休止中はアルバイトが働く事が出来ず、給与が支払われない為、彼らの生活にも悪影響を与えます。米国人口の35%がファーストフードで週に1回は食事をしています。2019年中期人口推計による利用者は3億2,900万人です。フードサービス業は美味しい料理を提供する事はもちろん、安心して食事が出来る環境を提供する事も重要な役割と認識し、最大限の予防策を実施する事が求められています。


写真左:$表記 写真右:日本円換算表記(為替レート 1$=108.0円で計算)

これら食中毒による被害が害虫駆除にどのように関係するか?

 食中毒を予防する為に、多大な費用をかけ、様々な対策を実施していても、店内に生息する害虫達が食中毒菌を拡散させてしまっては、食中毒による危険を排除する事ができません。食中毒を防ぐ為にも害虫駆除及び予防の実施は非常に重要です。害虫類は食中毒菌を運搬します。
●サルモネラ菌とネズミ
 ネズミなど齧歯類が菌を運びます。ネズミ類の糞便や尿で汚染された食べ物や水を食べたり飲んだりする事でサルモネラ菌に感染します。

●サルモネラ菌とゴキブリ
 サルモネラ菌の付着した食物をゴキブリが食べた場合、サルモネラ菌はゴキブリの消化器官の中で1ヶ月以上生存する事ができ、ゴキブリの糞により食べ物がサルモネラ菌に汚染されます。サルモネラ菌はゴキブリの糞内で数年間生存する事が示されています。

●サルモネラ菌とハエ 類
 ハエ類は腐敗した食品やネズミ類の糞を食べ、その後、徘徊し、食品に卵を産みつける過程で、サルモネラ菌を運びます。

●リステリア菌とハエ類
 ハエ類はリステリア菌も拡散させる要因となります。リステリア菌は排水溝で頻繁に検出され、ハエ類がそのエリアを徘徊した後に食品と接触する事でリステリア菌を運びます。

 リステリア菌はサルモネラ菌と比較して症例数は少ないのですが、死亡率が高い為、予防が非常に重要です。

※サルモネラ菌症例数:約100万件/年、リステリア菌症例数:1,400件/年

※リステリア菌は食中毒による死亡件数全体の19%を占めています。

ヤム・ブランズ社が害虫駆除業者(PCO)に求める事

 害虫駆除はレストランの食中毒を予防する為に重要な事です。私達フードサービス業はPCOと協力関係を結ぶ必要があり、PCOに以下の事を求めています。

① 食中毒菌に対する知識
② 優れた訓練を受けた、熱心な作業員がいるか
③ 何の為に、どのような作業を行うか明確な駆除プログラム
④ 駆除だけでなく、予防的手法の提案
⑤ 徹底的な生息調査と合理的な分析
⑥ 店舗・本部・PCOでコミュニケーションが出来る事
⑦ 害虫が急増した時にどうするか事前に駆除プログラムを決めておく事
⑧ 質問に対する正確な回答
⑨ 駆除・予防に対する客観的な評価体制

上記 害虫駆除業者(PCO)に対する要求を日本で実施する為にはどうすればいいか?

 私の主観になってしまいますが、上記要求を満たす事は、難易度が高いと感じます。正直どんな害虫駆除業者(PCO)でも出来る内容ではありません。また、害虫駆除業者(PCO)と契約している場合、現在の契約内容が上記要求事項の内、何点を満たしているか確認した方が良いでしょう。「調査のみ。駆除のみ」といった契約をしている会社が意外と多いです。

害虫駆除業者(PCO)を選定する際、何を目安にすれば良いのでしょう?

 依頼先の害虫駆除業者(PCO)が高い技術・知識を有しているか確認する為には、資格取得、研修受講を確認する事が一つの目安になると思います。害虫駆除の代表的な資格だと、公益社団法人日本ペストコントロール協会が主催している資格認証制度「ペストコントロール技術者1級・2級・3級」もしくは、「ペストコントロール技能士」などが該当します。

最後に

 フードサービス業の衛生管理(害虫駆除)担当者は、害虫駆除業者(PCO)の技術や知識が一定水準以上有しているか確認した上で、害虫駆除業者(PCO)を選定する事が重要です。しかし、その為には害虫駆除の知識も必要となってきます。当連載が害虫駆除の基礎知識として読者の方々の参考になれば幸いです。

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