ペストコントロールの基礎知識と知って得する技術ノウハウ・情報 第10回

鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾

出典元:月刊HACCP290号より

ゴキブリの「繁殖力」より「早く駆除」出来なければゴキブリは増える一方

 前号でゴキブリは1年で10,000匹以上に繁殖していてもおかしくないとお伝えさせて頂きました。今よりもゴキブリを減らす為には、その繁殖力を上回る速さで駆除をしていくしかありません。その為、害虫駆除業者(別名PCO、Pest Control Operator)に駆除を依頼する事も多いと思います。
 しかし、何を目的に、どのような作業を実施しているかを知っている人は意外と少ないのではないかと思います。PCOの作業が科学的根拠に基づいて実施されているか確認する為にも、今号よりPCOがどのような手法を用いてゴキブリ防除を行っているのか順を追って説明させて頂きます。

ゴキブリ防除の流れ

 ゴキブリ防除でも重要な事は、コツコツと継続し続ける事です。一時的に完全駆除が出来たとしても、再度侵入してくる可能性があり、いつ侵入してくるかわかりません。再侵入後、発見が遅れてしまうと、繁殖してしまい駆除が難しくなります。その為、生息調査、計画立案、駆除作業、侵入予防、効果判定を継続し続ける事によって、早期発見と早急な対策の実施を行う事が重要です。

大量発生時のみ駆除依頼 VS 年間管理

 ゴキブリが大量発生した時だけPCOに駆除依頼するといった事を聞く事があります。しかし、その方法では、駆除作業を実施した時だけゴキブリは減りますが、数か月すれば生き残ったゴキブリが繁殖し、元の状態に戻ってしまいます。(図1)また、生息数が増えると日中も徘徊するようになるので、異物混入・顧客に目撃されるなどの危険度が増加してしまいます。そういった危険を排除する為には、年間計画を策定し、定期的な調査と発生時の駆除作業を速やかに実施し、生息数の低い水準で維持管理する事が重要です。(図2)


図1:大量発生時のみ駆除依頼                      図2:年間管理による防除

ゴキブリの生息調査

 ゴキブリは本来夜行性で、1日の大半は巣の中に潜んでいるので、営業時間中に目撃する事は極まれです。それでも、ゴキブリを見かけた場合は既に大量発生している事を示します。
 その為、営業時間内にゴキブリを見かける時は早急に駆除を実施する必要があります。
 また、営業時間内にゴキブリを見かけない時、それはゴキブリが居ない状態なのか、ゴキブリが居るが少ない状態なのか、状況を把握するのが非常に難しく、技術とノウハウが必要となります。PCOは目視調査、現場の人への聞き取り調査、トラップ調査という3つの調査を実施しています。

目視調査

 ゴキブリは0.5㎜程度の隙間があれば侵入してきます。0.5㎜とは食品製造施設でどのような隙間を指すのか考えてみましょう。下記写真の〇がついている場所は全てゴキブリが好む侵入箇所になり得る場所です。こういった場所を1箇所ずつ点検し、ゴキブリの住処になっていないかを確認していきます。

 厨房什器を並べて設置している場合、什器と什器の隙間がわずかに空いていると侵入されますしシーリング剤などで固定していても、経年劣化で剥がれてしまっている事もあります。

写真左:什器を並べて設置  写真中:什器の隙間 写真右:劣化し剥がれかけたシーリング剤

 また、施設の老朽化などによる、亀裂・ひび割れ、合板の剥がれなどの隙間もゴキブリが侵入し営巣します。定期的に目視調査し、ゴキブリが侵入しそうな隙間を穴埋めするなど補修を行う事も重要です。また、補修にガムテープを用いる現場をよく見かけるのですが、ガムテープの一部が裂け、侵入口になっている事を多々見かけますので使わないようにして下さい。
写真左:合板の一部が剥がれた状態
写真右:ガムテープで補修したが、裂けて隙間が出来た結果、侵入された。

ゴキブリの糞と卵の抜け殻もゴキブリ生息の証跡

 ゴキブリ自体を見つける事が出来なくても、ゴキブリ生息の証跡となる物があります。それはゴキブリの糞、卵の殻です。これらの姿を覚えておく事で、ゴキブリを見かけていなくても生息を知る事が出来ます。ゴキブリの糞はチャバネゴキブリで約約1mm程度、茶・黒色の糞をします。茶黒色の粒粒なので、ゴミと間違えてしまう事が多いですが、独特の臭いを発しています。ゴキブリの卵の抜け殻は、ゴキブリの巣で見つける事がます。その場所で繁殖していた証跡です。


写真左:ガス台奥にゴキブリの糞 写真中:ゴキブリの糞 写真右:ゴキブリの卵の殻と糞

プロのノウハウ ①ゴキブリの臭いを嗅ぎ分ける

 ゴキブリはゴキブリ自身、ゴキブリの糞からフェロモンを発しており、それは独特の臭いです。
 PCOは厨房什器などの臭いを嗅ぐ事で、ゴキブリのフェロモン臭を嗅ぎ分け、ゴキブリの営巣箇所を探索します。※普段現場で調理をしている人は、鼻が慣れてしまい、感じにくくなっています。

プロのノウハウ ②目視調査にはエアゾールを活用する

 厨房什器奥にいるゴキブリを探すのは容易な事ではありません。そこでプロのノウハウをご紹介すると、エアゾール型の殺虫剤を用いる事です。一般的にエアゾール殺虫剤と言うと、目の前のゴキブリをすぐに殺す為に使うだけと思いがちですが、このエアゾール殺虫剤に配合されている有効成分(主にピレスロイド系殺虫剤)はゴキブリを速やかに殺すだけでなく、殺虫成分に触れたゴキブリが飛び出してくる(一般的にフラッシング効果と呼ばれる)効果が期待できます。その為、厨房什器の隙間からエアゾールを注入し、数分待ち、ゴキブリが出てこないか調べる事で、その厨房什器の奥にゴキブリが生息していないか調査する事が出来ます。

プロのノウハウ ③照明を消し、少し待ってから調査する

 ゴキブリは夜行性ですので、照明を落とし暗くした方が徘徊しやすくなります。その習性を利用し、照明を全て消し20分待ってから、走って中に入り照明を付けると、ゴキブリを発見しやすくなります。照明を付けると暗い什器の下などに逃げてしまうので、スピード命の方法ですが、手っ取り早く生息を確認する事ができます。

聞き取り調査

 ゴキブリの生息状況を知る為には、毎日現場で作業している人への聞き取り調査が欠かせません。何処で見かけたのか具体的な場所(例:厨房のガス台付近等)を教えて貰えるとその場所付近を重点的に調査・防除作業が実施できます。また、前号で紹介したゴキブリの幼虫や卵鞘を保持したメス成虫を見かけた場合、その至近距離に巣がある可能性が高いです。

トラップ調査

 ゴキブリの生息数を定量的に調査するには、ゴキブリ調査トラップを用いて調査をします。
 定期的に調査トラップを設置し、捕獲数を調べる事で、生息有無や発生の傾向などを知る事が出来ます。

ゴキブリ指数

 ゴキブリ指数は1991年に水谷澄博士によって提案されたもので、ゴキブリの生息状況を客観的に評価できる手法です。生息状況の調査や駆除作業後の効果判定に用いる事が出来ます。手順と計算方法は以下になります。

① 調査トラップの設置
 粘着面が 8cm×20cm程度のゴキブリ用粘着トラップを、ゴキブリが活動しそうな場所を中心に、厨房など発生しやすい場所では 5㎡に 1 枚、事務所など通常発生源がない場所では25~50 ㎡に 1 枚を目安に 3~7 日間設置する。

② トラップ回収と捕獲数カウント
 回収後全てのトラップの捕獲数を数える。※捕獲された雌の卵鞘から明らかに孵化したと考えられる幼虫で、粘着面に捕獲されたものは捕獲数に加えない。

③ 1 日 1 トラップあたりに換算したゴキブリ指数を算出する。

④ 防除後の効果判定の際には、1 匹以上捕獲のあった場所に配置する

● ゴキブリ指数の計算方法
総捕獲総数÷設置トラップ数÷設置日数
例:総捕獲数100匹÷設置トラップ数10÷設置期間5日= ゴキブリ指数「2」

ゴキブリ防除における維持管理水準 1)

 公益社団法人日本ペストコントロール協会では、ゴキブリ防除の手法としてIPM(総合的有害生物管理)を推奨しており、維持管理水準を規定していますので、参考に記載させて頂きます。

●許容水準:以下の全てに該当すること。
①トラップによる捕獲指数が5 未満。
②1 個のトラップに捕獲される数は 2 匹未満。
③生きたゴキブリが目撃されない。

●警戒水準:以下の全てに該当すること。
①トラップによる捕獲指数が5 以上 1 未満。
②1 個のトラップに捕獲される数は 2 匹未満。
③生きたゴキブリが時に目撃される。
※その他、①~③の条件について許容水準及び措置水準に該当しない場合は
警戒水準とする。

●措置水準:以下の状況のいずれか1つ以上に該当すること。
①トラップによる捕獲指数が1以上。
②1 個のトラップに捕獲される数が 2 匹以上。
③生きたゴキブリがかなり目撃される。
注:捕獲指数は、配置したトラップ 10 個までは上位 3 つまで(0を含む場合もある)、それ以上配置した場合については、上位 30%のトラップを用いて、1トラップに捕獲される数に換算した値で示す。

ゴキブリ調査トラップ

 ゴキブリ調査トラップとは、いわゆる「ゴキブリ〇イ〇イ」の事です。一般家庭では捕獲の為に使用しますが、PCOは生息調査の重要なツールとして使用しています。ゴキブリ調査トラップは基本的に紙製で、床面に粘着剤を塗布しており、粘着剤によってゴキブリを捕獲する事が出来ます。粘着面のサイズは80㎜×200㎜が基本となっています。ゴキブリ調査トラップを設置する場所=ゴキブリの発生が多い現場は、水場が多いので屋根を付ける事で粘着力が弱まる事を防いでいます。特に水が多い現場ではプラスチック製の調査トラップを用いる事があります。また、狭所に設置する時は、粘着面が半分のサイズ80㎜×100㎜(ハーフサイズ)の物もあります。

写真左:調査トラップ「ローチモニターJS」  写真右:ハーフサイズ調査トラップ「ハーフトラップHO」


写真左:プラ製調査トラップ「ドームプロPP」 写真右:プラ製調査トラップ「樹脂製ゴキプロハーフ」

最後に

 ゴキブリはわずか数mm~数十㎜の小さな存在です。しかし、夜行性で隠れている時間が長い為、正確な発生状況を把握する事が難しい害虫です。正確な発生状況が把握できないと、物理的防除方法、化学的防除方法の選択において、誤った判断をしてしまう可能性があります。必ず生息調査を実施して頂けるようお願い申し上げます。
 次号以降、物理的防除方法、化学的防除方法などについて説明させて頂きます。

引用・参考文献

1)田中生男、PCOの為のIPM 害虫別・施設別IPMマニュアル、公益社団法人日本ペストコントロール協会、2009、P10~P11

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