ペストコントロールの基礎知識と知って得する技術ノウハウ・情報 第3回

鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾

出典元:月刊HACCP283号より

ペストコントロールの難敵「ねずみ」

 ペストコントロールの現場で防除が難しい代表格とも言えるのがねずみ類です。特にクマネズミは警戒心の強さ、高所にも移動できる登坂能力によって、防除を難しくしています。そこで今回は屋内に生息する家ねずみ「クマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミ」の生態、駆除の流れ、駆除方法、侵入予防について説明させて頂きます。

家ねずみ「クマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミ」の生態

 家ねずみと呼ばれるクマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミは屋内に生息し、種によって警戒心や生態が異なる事から、対策が異なってきます。種の同定を必ず行い、正しい防除方法を選択できるようにしましょう。

クマネズミ ドブネズミ ハツカネズミ
写真
樹上、倒木、建物内 土中、建物内 荷物の隙間
体長 約15~20㎝ 18~26㎝ 6~9㎝
体重 100g~200g 140~550g 10~20g
頭胴長より 長い 頭胴長より 短い 頭胴長より 少し短い
体毛色 胸部:黄褐色
足甲:背と同色
胸部:白、灰色
足甲:白
褐色・灰色
食性 植物質(種子、穀類、果実類)動物質(昆虫類) 植物質
動物質(獣肉、魚介類)
植物質(種子、穀類)
動物質(昆虫類)
繁殖 妊娠期間21日
平均産子数5~7子
12~16週で性成熟
妊娠期間21日
平均産子数8~9子
8~12週で性成熟
妊娠期間21日
平均産子数4~7子
8~12週で性成熟
寿命 約1~2年 約1~2年 約1.5年
分布 温暖な地域 乾燥地帯以外の寒冷地から熱帯 世界的に分布
約1㎝           1~1.5㎝ 約0.5㎝

●ねずみの警戒心
 ねずみは種毎に警戒心が大きく異なります。クマネズミは警戒心が非常に強く、縄張り内に設置された新しい物・餌を警戒します。例えば無毒餌の場合、慣れるまで数日は様子見し、その後少量だけ採食します。その際、嫌悪を感じると、その餌を避け続ける傾向があります。また、成獣ほど警戒心が強くなる傾向があります。対策としては餌に慣れさせる、普段食べている物に近い餌を与える事です。反対にハツカネズミは警戒心が弱く、縄張り内に設置された新しい物・餌に好奇心を持ちやすいので、毒餌、パチンコ、粘着板での捕獲が成功しやすいです。

●何故クマネズミは登坂能力が高いの?
 クマネズミは東南アジアの森林地帯が原産で、樹上生活が生活の中の重要な要素であったこともあり、登坂能力が高く進化しました。クマネズミとドブネズミ・ハツカネズミの肉球を比較するとクマネズミはひだ(指紋のような皺)が深く発達している事がわかっています。
 また、ひだには汗腺があり、汗が滑り止めの効果を発揮している事が分かっています。

●アメリカは何ねずみの被害が多い?
 日本ではクマネズミが多いのですが、アメリカではハツカネズミの被害が最も多いそうです。アメリカのねずみ研究者Dr. Bobby Corrigan氏が2017年にペストコントロールの展示会「Pest World」での講義「プロのネズミモニタリングのためのエレクトロニクス」によると、アメリカの食品工場で発見されたネズミを集計すると「ハツカネズミ60%、ドブネズミ15%、クマネズミ15%、その他10%」との事です。原料を海外から輸入した場合などにネズミの混入があった際は、日本と分布の異なる種のねずみが混入する事も考えられますので、慎重に種の同定を行いましょう。

ねずみ防除の流れ

 ねずみ防除で重要な事は、コツコツと継続し続ける事です。一時的にねずみの完全駆除が出来たとしても、再度侵入してくる可能性があり、いつ侵入してくるかわかりません。再侵入後、発見が遅れてしまうと、繁殖してしまい駆除が難しくなります。その為、生息調査、計画立案、駆除作業、侵入予防、効果判定を継続し続ける事によって、早期発見と早急な対策の実施を行う事が重要です。

ねずみの調査方法

 事前・事後に調査を行う事で、ねずみの生息確認や、防除による効果がどの位であったか判定する事が出来るようになります。また、ねずみはいつ侵入してくるかわからない為、継続して調査し続ける事が重要です。

●被害調査
 どこで被害が多いか、何が食べられたか?などを現場の方達に聞き取り調査し、生息している場所を推測します。

・一般家庭で出没が多い場所
 天井裏、排水溝、台所、浴室、壁の中や空間など

・ビルで出没が多い場所
 空調機、断熱材内部、壁の中、ゴミ置き場、棚の内部、厨房、食品の取扱場所、排水溝、
植木鉢周辺、植え込み、パイプスペース、出入り口シャッター周辺など

・食品工場で出没が多い場所
 倉庫、食品保管庫、壁の中、ゴミ置き場、食品の取り扱い場所、グレーチング、排水溝、天井裏、施設外周、機械室、休憩室、パイプスペース、トラックヤード、出入り口シャッター周辺など

●目視調査
 目視にてねずみの生息している証拠を見つけます。代表的な例はラットサインと言われる壁沿いに付着する黒ずんだ汚れです。ねずみは壁に沿って走る習性がある為、壁に体の汚れが付着して、黒ずんだ汚れのような跡が残ります。また、糞、尿、体毛などもラットサイン付近に落ちている事が多いので生息の証拠となります。


写真:飲食店におけるねずみ営巣例 ※業務用冷蔵庫 機械室内の営巣はレアケースであり実際は厨房什器奥部や壁内などに営巣するケースの方が多いです。

●生息調査(無毒餌)
 ねずみが好む餌(無毒餌)を設置し、喫食状況を確認し生息調査を行います。

●生息調査(粘着板)
 強力な粘り気のあるトリモチのような物を厚紙に塗布した「粘着板」と呼ばれる物を利用します。ねずみが走りそうな場所(壁沿いや床面など)に設置し、捕獲と生息の調査を行います。しかし、クマネズミの強い警戒心もあり、粘着板による捕獲率はあまり高くはありません。捕獲無し=生息無しとは必ずしも言い切れない事をご理解下さい。


写真左:粘着板  写真右:粘着板で捕獲されたクマネズミ

●生息調査(センサー感知式暗視カメラ)
 動物がカメラの前を通った時のみ、自動的に動画もしくは静止画を撮影してくれる機器です。夜間など明かりが無い状態でも鮮明に写す事が出来ます。複数台を近距離に設置する事で、ネズミの生息範囲を絞り込み、侵入口を探す事にも役立ちます。ねずみの生息確認や、生息していない事の証明にもなります。


写真左:飲食店で撮影されたクマネズミ 写真中:一般家庭食卓で捕獲されたクマネズミ
 You tubeでねずみ捕獲の動画を公開しています。写真右のQRコードを読み込み、URLをクリックするか、検索サイトYahooで「トロフィーカム撮影動画 渋谷区一般家屋 粘着版でクマネズミ捕獲」と検索して頂ければ動画を再生する事が出来ます。

ねずみの防除方法(粘着板)

 生息調査でも用いる粘着板をねずみの生息が見られる天井裏や床面に設置し、捕獲する事で生息数を減らす方法です。


写真左・中:粘着板設置例 写真右:粘着板捕獲例

ねずみの防除方法(捕殺)

 はじき罠(圧殺式トラップ)を用いてねずみを圧殺する方法です。警戒心の強いクマネズミの場合、最初バネを引かず、無毒餌を置いて慣れさせ、クマネズミが餌を食べるようになったらバネを仕掛ける事が効果的です。誤って作動させてしまい、指を挟むと骨折してしまう可能性があるので、取り扱いに注意して下さい。


写真左:圧殺式トラップ

ねずみの防除方法(殺鼠剤)

 殺鼠剤はねずみを殺す事を目的にした方法であり、急速に生息数を減らす事が出来ますが、
死に場所の特定及び、回収がしづらい事から、最近では殺鼠剤を使用したくない施設が増えています。(ねずみが多数生息する現場では寿命で死ぬ個体も多くいる為、殺鼠剤を使用しなければ問題が無いという事ではありませんが・・・)重要なのは、ねずみが多数生息する不衛生な環境と殺鼠剤を使用して生息数を急速に減らす。どちらを重視するか合理的に考える事です。殺鼠剤は抗凝血性殺鼠剤と急性殺鼠剤の2種類に分類され、特別な場合を除き、安全面から抗凝血性殺鼠剤が多く用いられています。家ねずみの駆除には、厚生労働省から防除用医薬部外品の承認を得た殺鼠剤を用いる事が薬機法で定められています。殺鼠剤は現場状況に合わせ使い分け出来るよう粉末状、粒状、パラフィンで固めたブロック状などの剤型があります。

●粉末、粒状の殺鼠剤
 現場で喫食の多い食物と一緒に配置するなど喫食を向上させる為の工夫を用いる事もあり、天井裏などで使用します。

●ブロック状の殺鼠剤
 ねずみの好む穀物飼料を配合し、耐水性のあるパラフィンで固めている為、下水道や排水溝など水場での使用に適しています。


写真左:粉末状 写真中:粒状 写真右:ブロック状

 また、殺鼠剤を用いる時は人やペットなどに誤食が起きないよう注意する必要があるので、
毒餌の設置場所を図面に記入し、関係者に周知徹底する。毒餌皿(誤食防止の為、目立つ赤色にしている)、毒餌箱(イタズラ防止の為、専用の鍵がついており、アンカーなどで固定できるようになっている)などを併用します。


写真左:毒餌皿 写真右:毒餌箱

●死鼠の事後処理について
 殺鼠作業が終了したら死鼠を探します。その際は物陰や隙間だけでなく、什器の下や裏など様々な場所を探すようにして下さい。死鼠は放置するとハエ幼虫(ウジ)が発生しますし、腐敗すると悪臭を放つ事があります。また、ねずみはイエダニが寄生しているので、ねずみが死ぬと、巣からイエダニが分散して一時的に刺される事があるので、巣を除去した後はその周辺や活動していた場所にイエダニ用の殺虫剤を散布します。

ねずみの防除方法(侵入予防)

 クマネズミは1.5㎝の隙間があれば侵入してきますし、石膏ボードや板などを齧り、自ら侵入口を作り出す事も出来ます。その為、定期的な侵入口の調査と閉塞(防鼠工事)が必要となってきます。防鼠工事は資材費がかかりますが、様々な資材を適材適所に使用する事で侵入予防効果を最大限に発揮でき、抜本的な解決方法となります。

●防鼠パテ(充填剤)
 穴埋めの充填剤にカプサイシンを配合し、ねずみに齧られにくくしています。

●防鼠ブラシ
 パイプや柱に巻き付け、閉塞に使用します。また、パイプ上を移動させない為にも使用します。


写真左:防鼠パテで閉塞 写真右:防鼠ブラシをパイプに巻き付けて使用

●金属板
 齧られにくい材料(金属板、耐火ボードなど)で大きな侵入口を塞ぐのに用いる。

●パンチングメタル
 齧られにくい材料(ステンレスや厚めのアルミ)で侵入口を塞ぐのに用いる。ねずみが侵入できない大きさの穴を開けている為、通気性を確保しつつ、壁面へのビス止めや、折り曲げるなどの工夫がしやすくなっています。


写真左:閉塞前、写真右:パンチングメタルで閉塞後

●ドア隙間対策用ブラシ
 ドア下部の隙間から侵入されるのを防ぐ為に、本体がステンレス箔フレームで出来たブラシを取り付け、侵入を予防します。


写真左:ドアに設置 写真右:ドア隙間対策用ブラシ本体

最後に

 繰り返しになりますが、ねずみ防除で重要な事は、コツコツと継続し続ける事です。絶対に大丈夫という事は無く、もし一時的に居なくなっても、再侵入に備えなければなりません。PDCAサイクルを実行する事と同様の考えで、生息調査、計画立案、駆除作業、侵入予防、効果判定を継続する事をお願い致します。

参考文献

財団法人 日本環境衛生センター(2015)『改訂板 住環境の害虫獣対策』

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