ペストコントロールの基礎知識と知って得する技術ノウハウ・情報 第2回

鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾

出典元:月刊HACCP282号より

ペストコントロールの第一歩は「油断」を無くす事

 ペストコントロールを実施する上で、大事な事は「油断」を無くす事です。有害生物は人と比較したら非常に小さい生き物です。「小さいクセに」と無意識のうちに油断しているかもしれません。有害生物は適切な駆除を行えばすぐに死に至りますが、わずか数mmの隙間を見つけ隠れてしまえば、人間は生息に気づく事が出来ず、いつの間にか大繁殖してしまいます。チャバネゴキブリを例にしてみますと、1日に必要な餌は約3.5㎎と非常に少量です。人間から見たら床に落ちた「たった一つの野菜の切れ端」で何日分もの餌となります。そのように「たかが虫」かもしれませんが、種を存続させる為に、形態を変えたり、繁殖力を高くしたり、様々な進化を経て今日まで生き残っている生き物に油断する事は出来ません。施設ごとに有害生物の種類や環境が異なるので、絶対に有害生物を防げる予防策はありませんし、1回の駆除で全滅できるとも限りません。また、施設が老朽化し、有害生物が隠れられる隙間・割れ目が増えてしまう時もあります。様々な対策をいくつも組み合わせ、続けていく必要があります。ペストコントロールは「絶対」も「終わり」もありません。

鼠(そ)族・昆虫の防除とは何をすればいいの?

 HACCPを導入する上で、前提条件として整備する「一般的衛生管理プログラム」の項目内に「そ(鼠)族・昆虫の防除」があります。防除という聞き慣れない言葉はどういう意味でしょう?答えは「駆除と予防」両方の対策を行う事です。何故駆除だけでは駄目かというと、有害生物は繁殖力が非常に強い種も多く、繁殖力を上回る速度で駆除していかないと、全滅させる事が出来ません。また、駆除というと殺虫剤の使用をまず思い浮かべる方も多いですが、残念ながら殺虫剤は万能ではありません。駆除に殺虫剤を乱用してしまうと、殺虫剤が効かなくなってしまう現象(抵抗性の獲得)が発生する可能性が増えますし、無闇に殺虫剤を散布すると、殺虫剤が混入してしまう危険性を増やしてしまう事にもなりかねません。そういった危険性を減らす為にも、有害生物の発生や侵入を防ぐ「予防」も併せて行う「防除」を行う事が重要となります。防除を行う際、参考にして欲しいのがIPM(総合的有害生物管理)という考え方です。

IPMとは・・・

 IPMとは「Integrated Pest Management」の頭文字を取った言葉で、日本語で「総合的有害生物管理」となります。人の健康リスク、環境への負荷を最小限にとどめながら、様々な手法を組み合わせる事によって、防除効果を最大限にする手法です。この手法は手間が多くかかりますが、長期的にみると有害生物の繁殖や侵入を予防するのに最適な方法です。
※IPMの定義
 害虫等による被害が許容できないレベルになることを避けるため、最も経済的な手段によって、人や財産、環境に対する影響が最も少なくなるような方法で、害虫等と環境の情報をうまく調和させて行うこと

引用:厚生労働省, 建築物環境衛生管理基準について,      https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/

鼠(そ)族・昆虫防除の流れ

 鼠(そ)族・昆虫防除の基本的な流れは、下記の様になります。

①事前調査
 建築物の構造、環境状態、有害生物の生息状況、被害状況を調査します。

②年間計画の策定
 調査区域の分類、目標水準の設定、実施時期、頻度の設定をします。

■年間計画の策定例

項目 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
1 徘徊性昆虫の生息調査
2 飛翔昆虫の生息調査
3 鼠(そ)族の生息調査
4 徘徊性昆虫に対する薬剤処理
5 飛翔昆虫に対する薬剤処理
6 設備〇〇の重点清掃
7 排水溝の高圧洗浄
8 記録の提出
9 全記録のまとめ

■目標水準の設定例

水準 状態 措置
措置水準 既に大量発生してしまい、混入の危険などが高い。すぐに防除を行う必要有り 清掃、発生源対策、殺虫剤など化学的防除方法(以下、薬剤処理)を行う
警戒水準 放置すると大量発生してしまう
可能性が高い。
清掃などを中心に発生源対策や環境整備を行う
許容水準 良好な状態 定期調査を継続する

※対象種によって処置が異なる為、目標水準は対象種別に設定する。

③建物全体の調査
 定期的に統一的調査を行います。調査方法としては目視、現場で作業する人に対する聞き取り、調査トラップの設置、捕虫器の設置などを行います。また、調査結果に基づき発生を防止する為の措置を講じます。


写真左:調査トラップ 写真右:捕虫器

④有害生物の同定
 調査トラップや捕虫器で捕獲した有害生物の同定を行います。完璧な虫の同定が出来なくても問題ありません。まずは対象場所の衛生状態を把握しましょう。しかし、種によって発生源や対策が異なる可能性が高い、チョウバエ類、ノミバエ類、ショウジョウバエ類、大型ハエ類、クロゴキブリ(成虫・幼齢虫)、チャバネゴキブリ(成虫・幼齢虫)、貯穀害虫類などは種の特定を行った方が適切な対策を考える上で必要です。自分達で実施するのが、難しい場合はPCO(害虫駆除業者)に依頼する事をオススメします。

⑤有害生物が発生しやすい箇所の調査
 有害生物が発生しやすい箇所については建物全体よりも頻繁に調査(例:月1回)を実施します。調査結果に基づき、発生を防止する為の措置を講じます。例:鼠(そ)族の調査 無毒餌を用いる。粘着板を用いる、センサー感知式暗視カメラを用いるなど
※センサー感知式暗視カメラとは・・・
 動物がカメラの前を通った時のみ、自動的に動画もしくは写真を撮影してくれる機器です。
 設置しておく事で、有害生物の生息確認や、生息していない証明にもなります。


写真:センサー感知式暗視カメラで撮影したクマネズミ(左:スーパー、右:一般家庭)

⑥発生を防止する為の措置

 発生を防止する為に、基本的には複数の防除方法を組み合わせて決定します。

A) 物理的防除
 物理的に有害生物を捕獲や殺す手法です。例:ネズミ用粘着板、ネズミ用パチンコ式トラップなど


写真左:ネズミ用粘着板 写真中:ネズミ用パチンコ式トラップ 写真右:捕虫器

B) 化学的防除
 化学的物質を用いて駆除や予防をする方法です。殺虫剤、殺鼠剤、忌避剤、IGR剤(昆虫成長抑制剤)など様々な方法 があります。殺虫剤というと危険なイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、近年は人体への安全性が高い殺虫 剤や特定の虫にしか効果を発揮しない殺虫剤なども開発されてきています。また、殺虫剤の効果・混入リスクは有効成 分の残留性や、散布方法によっても異なるので、定期的に様々な情報を入手し、総合的に検討する必要があります。


C) 環境改善による防除
 有害生物の生態を考慮し、生息できない(しにくい)環境整備を行う、施設を補修する事によって侵入を予防するなどといった防除方法です。有害生物は繁殖する為の条件というのが必ずあります。例えばチャバネゴキブリの場合、「温度・餌・水・隠れ家」のどれか一つでも完全に無くす事が出来れば繁殖できません。ハエの場合、発生源に汚れた水域が絶対に必要となりますので、一つ一つ改善していく事が重要です。什器の下にゴミや食物残渣が落ちている事も多く、有害生物の隠れ家や餌になってしまう事もありますので、定期的な清掃を行いましょう。割れ目や裂け目など有害生物が侵入する場所を穴埋めするなどの補修を行う事も重要です。


写真左:見えない場所こそ定期点検する必要がある。 写真中:パテで補修 写真右:什器下のゴミ

⑦効果判定(検証)
 調査結果、防除施工の報告書を作成します。また、捕獲があった有害生物に対する対処方法を予め決めて文書化すると、目的、調査手法、対策方法が明確になってきます。

原則 内容 防除の具体例
1 危害要因分析 コバエ類の混入
2 重要管理点の決定 グレーチング及び排水溝
3 管理基準の設定 ■措置水準(以下のいずれか1つ以上に該当する事)
・調査トラップによる捕獲指数が5以上
・1個の調査トラップに捕獲される数が10匹以上
・生きたコバエが多数目撃される
■警戒水準(以下の全てに該当する事)
・調査トラップによる捕獲指数が5未満
・1個の調査トラップに捕獲される数が10匹未満
・生きたコバエが目撃されないか、僅かに目撃される。
■許容水準(以下の全てに該当する事)
・調査トラップによる捕獲指数が3未満
・1個の調査トラップに捕獲される数が3匹以下
・生きたコバエが目撃されない
※捕獲指数
配置したトラップに捕獲された全数から1日1トラップ当たりの
平均捕獲数を捕獲指数として算出する。
全捕獲数÷設置日数=捕獲指数
4 モニタリング方法の設定 調査トラップの確認
5 改善措置の設定 ■措置水準
・グレーチング及び排水溝の清掃
・薬剤を用いた成虫対策、幼虫対策を実施する
(事前通知を必ず行う事)
・発生源を調査し、対策を行う(高圧洗浄など)
■警戒水準
・グレーチング及び排水溝の清掃
・環境負荷の少ない薬剤(IGR剤)を用いた幼虫対策を実施する
・警戒水準が連続した場合は発生源を調査し、対策を行う
■許容水準
・定期調査を継続する
6 検証方法の設定 改善措置4週間後に調査トラップの確認
7 記録と保存方法の設定 報告書の作成

⑥関係者との打ち合わせ
 報告書を基に品質管理担当者、製造現場、PCO(害虫駆除業者)で協議を行い、社員教育(月々の防虫ミーティング、半年に1回の研修会の実施など)や今後の対策内容を検討します。

 今回は全体の流れを解説させて頂きましたが、次回以降、各項目の詳細を解説させて頂きます。

参考文献

公益社団法人日本ペストコントロール協会(2008),『PCOの為のIPM害虫別・施設別IPMマニュアル』.

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