HACCP vs. IPM

Orkin
国際技術、教育担当部長
フランク・ミーク

IPM

 IPMには長い歴史と、深い背景があります。ニューヨーク州のコーネル大学の調査によると、記録に残る最古の殺虫剤の使用は紀元前2500年頃とされます。古代シュメール人が虫硫黄化合物をダニの駆除に使っていました。それから約1000年後の紀元前1500年頃に計画的な作付けを行うようになり、薬を使わない栽培的防除の最初の痕跡みられます。人類の努力により害虫駆除方法は更なる進歩を続けます。紀元前1200年頃、中国でシラミの駆除に水銀とヒ素の化合物が使われ始めます。

 紀元前324年頃には中国で農民が果樹園にアリを放し、柑橘類を荒らす毛虫や大型の穿孔害虫対策を行うことを始めます。それから約600年後の西暦300年頃になると果樹園の木々に竹の渡りをつけてアリが木から木へ簡単に移動できるような工夫がされるようになります。薬剤を使う防除法、その他の防除法ともに近代まで進歩を続けていきます。そして1880年に最初の業務用殺虫剤噴霧器が登場します。

 しかしその進歩も1908年に最初の障壁にぶつかります。ナシマルカイガラムシ(San Jose scale insect Quadraspidiotus perniciosus)が抵抗性を発達させ、それまで駆除に効果があった石灰硫黄化合剤(Lime Sulfur)が効かなくなりました。これにより人類はそれに代わる薬剤、その他の駆除を模索せざるおえなくなりました。この状況は1940年代に奇跡の薬剤organophosphates 有機リン系)、carbamate(カーバメイト系)がドイツ、スイスで発明されるまでつづきました。DDT(Dichlorodiphenyltrichloroethane)はそうした奇跡の薬剤の1つです。しかし、新たに発明された奇跡の薬剤に陰りが見えるまで長くはかかりませんでした。1946年にイエバエ(Musca domestica)のDDT抵抗性が報告されますが、人々は1962年にレイチェル・カーソンの著名な作品、沈黙の春(Silent Spring)が発表され社会の殺虫剤の使用や存的に対する関心が高まるまでDDTと使用しつづけます。その後の20年でIPMはより体系化され広く受け入れられるようになりました。

 IPMを語る上で最も重要なのはIPMの真の意味を正しく理解することです。IMPとはIntegrated Pest Management(総合的有害生物管理)の略です。IPMの意味を100人の専門業者に質問するとおそらく70以上の異なる答えが返ってくるでしょう。一般の方々に同じ質問をすると更に多くの異なる答えが返ってくるでしょう。

 私共ORKINはIPMを次のように定義付しております。
 “あらゆる技術を駆使し管理を行うことにより、最も経済的且つ環境負荷の少ない有害生物の侵入・発生を予防、防除の実践”
IPMを実践するプロであれば有害生物予防の真価にご賛同いただけるはずです。仮にある食品工場で有害生物の駆除が必要な場合、それは既にその工場の製品が汚染の危険性に曝されていることを意味します。もし有害生物の外部侵入が防止されており、内供発生であれば汚染リスクは大きく低減されたといえます。

 全ての生物は食べ物、水、快適な温度環境、棲み処の4つの要素がなければ生存できません。もし有害生物から4つの生存要素のうち1つ以上の要素を取り除くことができれば、有害生物の防止、駆除において大きな効果を得ることができます。しかしそれには有害生物の生態、習性を知り、理解していなければなりません。

HACCPとIPM

 前号のHACCPにおける必須条件を振り返ってみましょう。HACCPにおいて有害生物管理は必要且つ必要条件であり、IPMは必須条件を満たすことができます。薬剤に依存するのではなく、有害生物の生存必須要素を取り除くことに着目し正しくIPMを実践すればHACCPにおいて求められるその他の必須条件も満たすことができます。

 HACCPは食料に対する化学的、生物的、物理的汚染の防止を目的としていることを思いだしてください。殺虫剤は細心の注意と正しい理解のもとに使用去らなければ汚染物質となりえます。

 IPMに基づく予防法の実践により虫やその他の有害生物による生物的汚染から食品工場を護ることができます。有害生物の多くはバクテリア、ウイルス、菌類を伝播、媒介する能力にたけています。 世界的にチャバネゴキブリ、イエバエの2種は有害な病原体を媒介することで知られています。チャバネゴキブリ(Blattella germanica)は50種類以上、イエバエは100種以上の秒検体を媒介します。もちろんその他にもネズミやアリ、貯穀害虫など多くの生物的汚染源となる有害生物がいます。

 適切な訓練を受けたPMP (pest management professional) であればGMP(Good Manufacturing Practice)のコンセプトも理解しており、物理的汚染物のシステムへの混入予防についても熟知しているはずです。ヘアネットの使用、ポケット内の物、服装その他の規定を理解することにより物理的汚染を予防することができます。

 IPM自体は正しく実践したとしてもHACCPに取って代わるものではありませんが、IPMにより顧客独自に解決できない多くの問題を解消し、HACCPの必須要件を満たす大きな助けとなります。

参考資料

Steven J. Dick and Roger D. Launius (editors) 2007. Societal Impact of Spaceflight. Washington DC. US Government Printing Office
G.B. Orlob (1973) Ancient and Medieval Plant Pathology, Pflanzenschutz-Nachrichten 26: 65-294
Cornell IPM CSS 4440/Entom 4440 course material
US FDA – https://www.fda.gov/Food/GuidanceRegulation/HACCP/ucm2006801.htm#app-a

筆者紹介

Frank Meek
Global Technical and Training Director
Orkin, LLC

 1986年にOrkin入社。
 ジョージア州カレッジ・パーク支店のシロアリ営業を担当し業績を評価され1990年に同支店マネージャーを経て、全米各地の地区、地域本部のマネジメント、同社のカリブ海地の事業責任者を務める。

 1999年、活躍の場を同社技術部門へと移し、2003年に技術担当役員に就任し、同社使用の薬剤、機材の評価採用の責任者を務めると同時に北米の400以上の支店、海外支店に対しての技術支援を担当。

 Meek氏は講演者としてNPMA、各州、地域のペストコントロール業界会議、またAmerican Society for Healthcare Environmental Services (ASHES:米国ヘルスケアサービス協会)やその他異業種の会議に参加。講演の他、業界紙及びWall Street Journal、NY Times、CNN、MSNBCへの寄稿、出演もこなす。

 2005年、ASHESとの共著で、ヘルスケア業界における有害生物管理の規範となったIPM Recommended Practiceを執筆。2010年にはMallis Handbook to Pest Control Operation 第10版のOccasional Invader Pestを執筆。

 2015年、Chinese Pest Control Association の要請で同協会Scientific Committeeのアドバイザーに就任。

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