HACCP vs. IPM

Orkin
国際技術、教育担当部長
フランク・ミーク

 IPM (Integrated Pest Management) の長所、有用性についてお話しさせていただく際に、IPMはHACCP (Hazard Analysis Critical Control Point)にいかに適合し、運用する上で役に立つのとの質問を受けることがよくあります。それにお答えするにはまずはHACCP、IPMを分けて考察する必要があります。

 HACCPは1950年代に宇宙飛行士が宇宙滞在中に食べる安全な食糧の生産の必要性に気付いたNASA(National Aeronautical and Space Administration:米航空宇宙局)により開発されました。宇宙滞在中に病気になった宇宙飛行士に治療処置を施すことは到底不可能であす、またそのような事態の発生は決して許されません。宇宙飛行士の健康だけでなく、更には任務そのもの安全性をも脅かす事態にもなりえます。そこでNASAは食品大手Pillsbury社に100%無菌の宇宙食開発に興味があるかとの打診をしました。宇宙食開発プロジェクトは同社の微生物部門責任者であるハワード・バウマン博士が指揮をとることになります。バウマン博士の最初の発見は、NASAが求める水準達成するための手法が現状一切存在しないことです。後年のインタビューでバウマン博士は当時の様子を「開発のかなり最初の段階で、従来の品質管理手法では確実な安全性が得られないことがわかりました。」と述べているように、当時の食品製造会社では安全性を確認するために大量の最終加工品を用いていました。試験に必要な量が大量であるために莫大な費用を必要とするだけでなく、ほんの僅かな量の製品しか飛行ミッションに提供出できません。

 バウマン博士の開発チームはプロジェクトに応用できる潜在的危険性を解析する技法がないか模索し、最終的に”Mode of Failure”を食品に適用するよう修正し活用しました。
 この技法に基づき食品学の専門家チームはどの原材料にウイルス、病原性微生物、重金属、有害化学物質やその他の危険要素が含まれるのか特定するためにあらゆる文献、資料を入手し精査しました。その結果に基づき全ての納入業者に微生物学的、物理的基準を満たすことを求めました。製品が基準に満たない場合は、その業者の製品は使用することができません。さらにNASAのFlight Food and Nutrition Coordinator(糧食、栄養学担当者)ポール・ラチャンスにより全ての納入業者にたいして危険予測と予防策を含むPrediction Model (モデル予測)の策定が義務付けされました。また原材料の生産地産工程から最終製品加工工程に至るまでより厳格な証拠書類作成とその分析がラチャンスは義務化しました。危機を予測、分析する技法を画一したことによりNASAが求める安全な糧食の提供が可能となりました。しかし技法はこの時点で食品業界に用いられることはありませんでした。開発者であるバウマン博士は開発した技法は食品業界にとって必要との信念に基づき、1971年4月の第一回全米食の安全会議にて発表しました。それは皮肉なことにPillsbury社が同社製造のベビーフードへのガラス混入によるリコールを発表した数日後でした。また同じく1971年後半に発生した食品事故によりバウマン博士が画一した技法を食品業界は導入することとなります。その事故とは、ニューヨークに住むサミエルとグレース・コクラン夫妻が ビシソワーズ(冷静スープ)の缶詰を夕食に食べたところ、古くなっているような味がしました。夫妻は二口程食べて食べるのを止めましたが、翌朝夫サミエルは重篤となり午前11時に死亡しました。妻グレースも危険な状態でしたが何とか命を取り留めました。発生原因調査により製造工場の安全管理に重大な問題があることが判明しました。そこでFDA(Federal Food and Drug Administration)はFederal Register(米官報)に食品衛生に関する勧告を掲載しそのなかでHACCPに言及します。

 HACCPの基礎は複数の必須条件からなり、必須条件はHACCP導入前に満たさなければなりません。業種により異なりますが、全ての産業にはそれぞれの必修条件があります。食品業界においての必須条件とはGMP(Good Manufacturing Practice)です。

・サプライヤー・コントーロール
各施設は材料納入業者が有効なGMPに基づく食品安全管理を実施していることを確認しなければならない。サプライヤーHACCP検証並びに継続的管理状況の確認

・原材料仕様書
全ての原材料、製品、梱包材に対する仕様書

・生産設備
全ての生産設備は衛生設計原理に基づき製作、設置されたものでなければならない。予防的メンテナンス及び再校正スケジュールが管理されていること。

・清掃、衛生管理
生産設備の清掃、衛生管理手順は書式化され、順守されなければならない。

・パーソナル・ハイジン(個人衛生)
全ての従業員及び生産施設入室者は個人衛生の必須条件を順守しなければならない。

・教育
全ての従業員に対し個人衛生、GMP、清掃、衛生管理手順、労働安全及びHACCP順守における個々の果たす役割について教育を施さなければならない。

・化学薬品の管理
洗浄剤、燻蒸剤、殺虫剤および施設内外で使用するベイト剤が確実に食品から隔離され、正しく使用されるための手順書が整備されていること。

・搬入、保管、搬出
全ての原材料、製品は衛生的で適切な湿度、温度管理された環境下に保管されなければならない。

・トレーサビリティ及びリコール
製品回収の必要が生じた際、迅速な対応の為に全ての原材料、製品はロット管理され且つ、リコール・システムと連動できなければならない。

・ペスト・コントロール
ムシ、ネズミに対する発生防止策、防除手順、スケジュールを含む効果的なペスト・コントロールを実施しなければならない。

・その他必須条件
HACCPの技法、手順は食品業界では比較的新しく導入されたものです。また新たな発想、知見に基づき刻々と変化します。どの業界にかかわらず、HACCPは最終製品を護るための基準となるものです。     (次号へつづく)

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