台湾におけるヒアリの実態 – 始まり、そして現在 –

Chin-Chen Yang (Scotty) Ph.D.
Junior Associate Professor
Kyoto University

 台湾の公式発表では、ヒアリ(Solenopsis invicta)発生の確認は2003年10月である。

 2003年9月のごくありふれたある日、桃園郡に水田を持つ農家の男性がその当時 国立台湾大学に在籍していたアリの研究者Chung-Chi Lin博士を相談に訪れた。
 農家の男性は、畑で今まで見たこともないアリが大量に発生し畑を放棄しなければならないとLin博士に話した。農家の男性の話を聞いたLin博士は、アリの大量発生で畑を放棄するとは妙な話だと感じる一方で、もしかしたら見たこともないアリとは外来種、ヒアリはないかとの想いがよぎった。台湾国内を隈なく調査したLin博士の経験上、ヒアリの発生は確認されていない、しかし驚いたことに農家の男性が持ってきたアリは紛れもなくヒアリであった。このような状況でヒアリ発生が確認されるとは、Lin博士の想定外だった。その後、Lin博士が男性の畑を訪れると、事態は博士の想像よりはるかに深刻な状況であった。男性の畑だけでなく、隣接する何ヘクタールもの土地がヒアリの塚だらけであった。

 このようにして台湾でのヒアリ発生は確認された。

 特に発生が蔓延しているのが台湾北部の桃園から台北にかけての地域、中南部の嘉義地域の二つの地域であることが台湾全体を詳しく調査し判明した。それら二つの蔓延地域はほぼ同じ時期に発見、報告された。面積的に桃園地域は4万ヘクタール、嘉義地域は2千ヘクタールと大きな差があった。翌年、台湾評議会(COA: Council of Agriculture) によりヒアリ(R.I.F.A: Red Imported Fire Ant)は検疫対象病害虫に指定されるとともに、即応体制の一環として検疫が強化された。様々な対策が講じられる中でも特筆すべきは同年12月に移動制御法が施行されたことである。ヒアリの拡散には種苗業界が大きくかかわっており、同法が施行されたことにより苗床、建築廃材、重機の検査及び発生が確認された際の即時薬剤による駆除が可能になりヒアリの新たな地域への拡散を最小限におさえるのに有効であった。


(写真1)桃園地域で学校の鉢植え下で発見されたヒアリのコロニー

 全ての調査個所での取集データの質と確実性を向上するために、調査、モニタリングの手法がマニュアルされた。重要調査地点ではヒアリの生息、個体群レベルを評価するために、ポテトチップと湿らせたホットドッグをスライスしたものをトラップのルアーに用いた。一連のヒアリ対策の中で最も重要だったのは、防除、調査、モニタリングにおける行政、民間など異なるセクター間の調整を行なうこと同時に技術支援、教育を目的としたNational Fire Ant Control Center(国立ヒアリ対策センター)が2004年の年末に設立されたことである。

 防除にはInduvial Mound Treatment (IMT:個々の塚に対する駆除施工) とArea-Wide Treatment(AT:全範囲駆除施工)の2つの手法が用いられた。学校、都心の公園など低許容値エリアではIMT防除を実施し、手法としては、効果的な駆除方法である塚への接触剤注入後に1回から2回のベイト剤散布を行う。AT防除の場合は広範囲に対してベイト剤散布を年間3回から4回実施する。最初にヒアリ発生が確認されて以来、毎年徹底的に継続して防除活動を実施しているにもかかわらず、ヒアリは台湾国内で拡散し続けている。特に台湾北部の桃園から台北にかけての地域ではヒアリ発生面積が2017年以降8万5千ヘクタール以上に拡大している。


(写真2)ヒアリの巣の位置を示す旗が無数に立つ桃園地域の公園。


(写真3)国立台北大学 三峡キャンパスで見つかったヒアリの巣。

 北部でヒアリの発生が拡大しているのに対して、台湾中南部の嘉義地域では13年かにわたる国と地方行政の連携した防除活動が功を奏し、ついには2017年にヒアリ根絶を宣言するにいたった。北部と中南部における防除活動の成果の違いからあるヒントを得ることができる、それは桃谷から台北にかけての地域で最初にヒアリ発生が確認された時点ですでに蔓延の規模が防除可能な域をこえていたためである。蔓延規模が一定水準を超えると、駆除効果より拡散する勢いが勝るからである。

 理論的には、ヒアリの発生初期段階もしくは蔓延規模が防除可能レベル且つ再定着の可能性が低い場合でのみ根絶は可能であるとおもわれる。台湾におけるヒアリの実情は理論をうらづける実証研究ともいえる。ヒアリの日本侵攻はまだ初期段階であり根絶は十分可能である。そのためにまずは、ヒアリ発生国からの輸入コンテナを介しての繁殖体の侵入を防ぐことと同時に調査、モニタリングのシステムを画一し精度を上げることが優先されるべきである。

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