ネッタイトコジラミ駆除方法の一例

足立雅也

 俗に「スーパートコジラミ」とか言われていますが、近年わが国で発見されるトコジラミのほとんどがピレスロイド系殺虫剤に対して抵抗性があり、それを知らずにピレスロイド系殺虫剤を使用して駆除に失敗することがありました。完全駆除を成功させるには、有機リン系殺虫剤を使用するとよいことが、2010年あたりから知られるようになりました。
 
 今回、沖縄県内の某ホテルでトコジラミが発生し、地元PCOと駆除をすることになりました。もちろん、セオリー通りに有機リン殺虫剤を使用しました。ところが数時間経って様子を見てみると、いつもと様子が違い、全く死骸が見当たりません。か弱いはずの孵化後の1齢の幼虫でさえ、元気よく歩き回っていました。これは「有機リン抵抗性トコジラミ」ではないかと疑いました。

 いつもお世話になっている研究者に相談しようと電話をしたところ、沖縄という地域もあって、「ネッタイトコジラミ」ではないかとアドバイスをいただきました。ネッタイトコジラミはその個体によって、殺虫剤抵抗性に違いがあり、中には有機リン系殺虫剤抵抗性もあるそうです。

 早速、成虫を捕獲して調べることにしました。トコジラミとネッタイトコジラミの違いは、胸部の形が少し違うだけです。わずか5mm程の虫の一部を観察するには肉眼ではきびしいので、持参したルーペで確認したところネッタイトコジラミでした。おそらく、ピレスロイド系殺虫剤の抵抗性も獲得していると思われます。その日のうちに宅急便で、ネッタイトコジラミを生きたまま研究機関に送り、種類の再確認と薬剤抵抗性の確認をお願いしました。後日、有機リン系、ピレスロイド系両方の殺虫剤で簡易的な試験をしたところ、十分な効果は得られなかった報告を受けました。

 さて、回答が届くまで数日掛かりますので、ピレスロイド系殺虫剤も十分な効果が期待できないと想定し、殺虫剤を使用せずに駆除を行いました。用いるのは清掃用のスチームクリーナーです。100度近い蒸気を、ネッタイトコジラミの潜伏していると思われる隙間や隅々に当てていきます。しかし、蒸気の吹き出し口から5cm離れると蒸気の温度は60度まで下がります。隙間の奥に潜んでいる生体や卵に到達する頃には、さらに温度が下がってしまうために、生き残りが生じてしまいます。

 できればコーキング剤で、隙間や窪みをできるだけ埋めていきます。奥に潜伏しているものを閉じ込めると同時に、潜伏場所をなくすことが目的です。また、熱乾燥車にて、調度品を熱処理するとより確実でしょう。

 そして、生き残りの対策は、ネズミ捕獲用粘着板を部屋一面に敷き詰めて、歩き回っているところを捕獲します。活動を活発にするために、エアコンで室温をなるべく高くしておきます。1週間に一度くらいの間隔で、粘着板を1枚ずつ手にとって、捕獲の有無を目視で確認します。捕獲がなくなれば終息とみなします。

 今後、このようにネッタイトコジラミや、有機リン抵抗性トコジラミが、国内のどこに発見されるか予測ができません。現場調査にはルーペを持参して種類の同定を行い、現場からトコジラミを数頭持ち帰って簡易的でも薬剤抵抗性試験を行ってから、駆除の方法の計画と見積書作成をすることが必要になるのではないかと思います。また、殺虫剤だけに頼らず、スチームクリーナーやコーキングの手法も、今から取り入れていきましょう。

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