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(2)ツマアカスズメバチと闘うニホンミツバチ

九州大学農学研究院生物的防除研究施設 上野高敏

 ツマアカスズメバチが対馬に侵入し定着してしまったことを前回に紹介しました。対馬では、今、何が起こっているのでしょうか?
ネット検索をすると、ツマアカスズメバチのせいで対馬にいるミツバチが絶滅しそうだ、といった情報が出回っています。では、実際のところはどうなのでしょうか?去年の春頃までは、自信を持って以下のように断言していました「ツマアカスズメバチのせいで、対馬のミツバチが減少しているという事実はまったくない」。これは今でもほぼ断言していいのですが、「まったく」から「ほぼ」へと答えが変わった理由はこのニュースの最後で触れるとして、まずは対馬におけるツマアカスズメバチとミツバチの攻防について紹介します。

 日本にはヨーロッパ原産のセイヨウミツバチ(外来種)と在来のニホンミツバチが生息していますが、対馬には後者しか分布していません。対馬では伝統的に養蜂が盛んだったのですが、セイヨウミツバチを誰も持ち込まなかったのですね。土着のニホンミツバチを利用した伝統的な養蜂が今でも対馬には受け継がれていて、中をくりぬいた丸太状の「蜂洞(はちどう)」にニホンミツバチの巣を作らせます。まめに手をかけることなく、自然に近い状態で蜂洞を管理して、ミツバチが貯めた蜂蜜の一部をもらうというやり方です。この伝統養蜂は6世紀(!)にまでさかのぼるらしいのですが、今でも島内のあちこち、いや、そこら中に、蜂洞を見ることができます。ほとんどの蜂洞は空ですが、ミツバチが入っている蜂洞からはミツバチたちが盛んに出入りしています。

 そこに外来種のツマアカスズメバチが来襲するようになりました。ツマアカスズメバチは執拗な捕食者で、ずっと蜂洞の前に張り付いているって感じなのですが、よくよく観察してみると、ミツバチとの攻防がとても興味深いことに気がつきました。まずミツバチの働き蜂の出入りが少ない蜂洞や早朝など気温が低くてミツバチの活動が弱い時間帯では、ツマアカスズメバチは巣の入り口周辺に降り立ち、外出しようとするミツバチを捕らえにかかります。

 「待ち伏せ型」の捕食行動を取るわけですが、するとニホンミツバチは前衛個体を一気に増やし、巣の入り口を防衛しだします。最初のうちは待ち伏せ型の捕食を試みますが、だいたいは撃退されてしまうので、今度は空をホバリングしながら隙を見せたミツバチを襲いにかかります。健全な巣であれば、さらに前衛個体を増やすので、こうなると簡単にはミツバチを捕獲できず頻繁に撃退されます。それでも執拗にミツバチをねらい、勢い余って仲間はぐれになったミツバチをかっさらっていきます。

 一方、ニホンミツバチもツマアカスズメバチをただ一時的に撃退するだけではなく、返り討ちにする機会を狙い出します。蜂球攻撃という、多数の働き蜂がスズメバチを団子状に取り囲んで熱と窒息により殺してしまう必殺の防御法によりツマアカスズメバチを倒しにかかるわけですね。

 この蜂球はニホンミツバチの防衛法として有名なのですが、ツマアカスズメバチにはほとんど効果がありません。なぜなら敏捷性に優れるツマアカスズメバチは巣や防衛中のミツバチにお尻を向け、今度は帰巣するミツバチをホバリングしながら捕獲しにかかるからです。距離を取られると蜂球攻撃を仕掛けることができません。ツマアカスズメバチはミツバチの防衛法を熟知しているがのごとく、ミツバチの防衛力に応じて柔軟に捕食法を変えてくるのです。


 最初からホバリングしながらミツバチを狙わないのは、この捕獲法はミツバチの防衛をかわせる一方で捕獲効率が低いからです。つまり獲物の防御力が低いと効率の良い方法を採用し、防御力が高くなってくると効率が悪くても安全な方法でミツバチを狙うわけです。ミツバチたちにとっては、実にいやらしい敵ということになるでしょう。

 さらに興味深いのが、ホバリングによる捕獲効率が低い理由です。なんとニホンミツバチがツマアカスズメバチの存在を事前に察知し帰巣スピードを変えてくるのです。ニホンミツバチは普段であればもっとゆっくりとしたスピードで巣の入り口へと降り立つのですが、巣前にツマアカスズメバチが張り付いていると猛スピードで巣に突撃していくわけ。そして捕食されちゃうのを回避しちゃうのですね。実際、ツマアカスズメバチが巣前に張り付いていても、なかなかミツバチを空中キャッチできず空振りの連続であることが普通です。

 つまりニホンミツバチは、一方的にツマアカスズメバチにやられているわけではないんです。対馬ではオオスズメバチがとても多く、このスズメバチに襲われミツバチが絶滅した蜂洞を時々見かけます。オオスズメバチは巣の中にまで深く侵入し、幼虫から女王蜂から、ミツバチ全部を一気に攻撃してしまいます。一方、ツマアカスズメバチは、巣に侵入することは非常に稀で、基本的に巣から一部の働き蜂をかっさらうだけです。しつこいほどに来襲するツマアカスズメバチによってストレスは受けるでしょうが、その程度で絶滅するほどニホンミツバチはやわではありません。2015年の初夏の頃まではそう断言していました。

 ところが2015年の夏頃になると、1つの蜂洞に20匹近い数のツマアカスズメバチが同時飛来して、もう信じられないくらい蜂洞前が騒がしいことになっている地域もいくつか出てきました。ツマアカスズメバチの故郷でも、このような光景を見たことがありません。とにかく激増していることが分かりました。当然、ニホンミツバチとツマアカスズメバチの間で激しい攻防が繰り広げられているのですが、そのレベルがとんでもなく上がっていたのです。さすがにこうなってくると、ミツバチが受けるストレスは相当なものになるはずで、心配になってきました。

 幸いなことに今年から環境省や対馬市が中心となってツマアカスズメバチの本格的な駆除が全島で展開されるようになりました。その成果なのか、今年の夏はツマアカスズメバチがとても少なくなっていました。これはたまたま今年が異常だったからなのか駆除対策のおかげなのか、まだ結論を出せませんが、とにかく一息付けることができました。しかし油断はできません。相手は高い増殖力を持つ種です。来年以降もツマアカスズメバチの駆除を対馬で継続すると同時に、本土への侵入阻止のためのモニタリングも続けていく必要があります。

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