トコジラミが発生したらどの範囲まで防除すべきか

鵬図商事株式会社 足立雅也

 旅館やホテルでトコジラミが発生した場合、生息が確認された部屋はもちろん防除作業の対象となりますが、PCOの皆様はどの範囲までを防除作業の対象としてご提案されているでしょうか。旅館やホテル側としては、発生が確認された部屋だけ防除すればよい、とお考えになるのは普通でしょう。しかし、いくつもの旅館やホテルの発生現場に立ち会ってきた結果、私の見解は、生息が確認された部屋と両隣と向い3部屋の6部屋(角部屋だったら4部屋)は、必ず防除の対象にすべきだと思います。可能ならば、少なくも発生のあった階の全部屋を目視点検し、さらに隅や隙間だけでも残留噴霧をした方がよいかと思います。それは、トコジラミがどのように広がっていくのかを見てきた結果、行き着いた結論です。

自ら歩いて広がっていくのか?

 2010年頃はトコジラミに関する情報が少なく、アメリカの事例を参考にしていました。それによると、壁の中の電気配線等を通じて隣の部屋や、上下の階層まで自分で歩いて行くとありました。
ですから、私はPCOから同行依頼で、トコジラミが複数の部屋で確認された旅館やホテルを訪問したときには、生息のあった部屋のすべてのコンセントのカバーを開いて確認していました。ところが、コンセントの中でトコジラミが見つかることはあまりありませんでした。わが国ではアメリカと違って建物構造も異なることから、電気配線を通じて広がっていくことが少ないように思います。

 何かしらヒントはないかと、旅館やホテルの清掃の様子を観察していました。清掃員がチェックアウトした部屋に入ると、ベッドから掛け布団用とマットレス用の2枚のシーツを剥ぎ取って、ドアを開けた状態で入口の床に一時的に置くことがあります。後で端の部屋から順番にシーツを拾い集めて、リネン屋の回収袋に入れます。皆様もお気づきだと思います。シーツにトコジラミが付着したままの状態で入口まで運ばれ、床に置いたときにトコジラミがシーツから離れ、入口付近の隙間に逃げ込んでいるのではないでしょうか。夜になると隙間から出てきて、ドアの周辺を歩き回るのです。

 もしかすると、ドアの下の隙間から廊下に出て、隣の部屋や向かいの部屋のドアの隙間から侵入することもあるのではないかと考えました。確認するために、深夜になってトコジラミの生息する部屋たちの前を何度も往復して監視しましたが、廊下でトコジラミを見つけることはほとんどありませんでした。よく考えてみると、トコジラミが積極的に廊下に出てくるわけがありません。夜間の廊下は照明が点きっぱなしです。光を避けようとする習性のトコジラミが、明るい廊下を積極的に歩き回ることはないでしょう。

人に運ばれて広がっていくのか?

 掛け布団は目立った汚れがなければ再利用します。ベッドメイクのときは、折りたたんで膨らんだ掛け布団を、抱きかかえて机や椅子の上に一時的に置きます。実は掛け布団の表面や縁の縫い目に、トコジラミが付着していることがよくあります。抱きかかえたときに、清掃員の衣類に移ることがあるのではないかと思います。そして、次の部屋でも同じように掛け布団を抱きかかえますが、今度は清掃員の衣類から掛け布団にトコジラミが移ってしまうのではないかと思います。

 これが実際にあるのであれば、広がり方に大きく影響してきます。清掃員の導線上にトコジラミが運ばれることになります。そこで、清掃員に掃除に入る部屋の順番を尋ねます。すると、順番は統一的に決まっておらず、清掃員によって異なることがわかりました。
パターン1:隣、隣へと水平移動型
パターン2:向い、向いへとジグザグ移動型
 また、移動方向も右回り派と左回り派と分かれます。出発地点と終着地点も人それぞれでした。旅館やホテルによっては、その日のシフトで担当場所が決められるということもありますので、いつも同じ清掃員が同じパターンで移動するとは限らないことがわかりました。
 これらのことから、トコジラミの生息が確認された部屋を中心に、水平移動の右回り派と左回り派の対応として両隣、ジグザグ移動の右回り派と左回り派の対応として向い3部屋の、合計6部屋を防除対象にする必要が見えてきました。

 しかし、現場は甘くありません。実は第3のパターン、ランダム移動型があるのです。これは“ステイ”と呼ばれる連泊宿泊客が1フロアに複数存在するときに起きます。連泊される方の中には、清掃を断る方も少なくありません。すると、飛ばし飛ばしに清掃することになります。トコジラミが生息している部屋の次に、2、3軒隣の部屋を飛ばしてさらに向い側の部屋を清掃することもあります。もっと極端な実例を挙げますと、トコジラミが同階の3分の2を占めるほどの部屋数に生息域を広げていたときに、入室禁止部屋が多いためにその階の清掃が早く終わるので、他の階に手伝いに行くことがありました。残念ながら後日、手伝いに行った階でトコジラミが広がりました。

 団体客が連泊した場合、宿泊者同士がお互いの部屋を行き来します。複数の人がひとつの部屋に集まると、みんなでベッドに腰掛けることになるでしょう。和室の場合だったら、畳に寝転がることもあるでしょう。そして、それぞれがトコジラミを衣類に付着させて、自分の部屋に戻ると、トコジラミが一気に拡散されることになります。こうなっては広がり方に法則がありません。
 
 このように言い出したらキリがありませんが、このように隣接している部屋だけに移り広がるとは限らないことがわかりましたので、確率は低いかもしれませんが可能性はゼロではないということで、発生がある階の全部屋の目視点検や局所的な残留噴霧をした方がよいのではないかと思います。

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