暮らしの中の殺虫剤

初めに

(一財)日本環境衛生センター 客員研究員 新庄五朗

1.私と殺虫剤開発(1)

 今般殺虫剤に関する話題で執筆するようにとのお話があって、皆様にとって有益な話を披露できるか不安ですがお受けすることに致しました。しばらく、お付き合いいただきますようよろしくお願い致します。殺虫剤について、いろいろな面から、経験したこと、知っておきたいことなどを述べさせて頂く所存です。よろしくお願い致します。
 最初に自己紹介的な話をいたします。
 私は諸事情により、30歳の時に化学会社(S社)にトラバーユ致しました。それまでは家庭薬の製造販売会社で安全性・薬理学的研究に従事しておりましたが、S社では農薬研究部門と様変わりいたしました。最初の具体的な配属は試験農場で、農薬、農業に関してまったく知識も技術もない私に対して、新入社員教育を実施していただき、初めて農業害虫、農薬、農業に接することになりました。
 試験農場では、当時ペルメトリン(アディオン®)、フェンバレレート(スミサイジン®)の開発中であり、種々の果樹や蔬菜類に両試験農薬を散布して、効果を観察しました。シンクイムシ類、グンバイムシ類、ハスモンヨトウなどの害虫も主要な農業害虫であることを知りました。稲の害虫ウンカ・ヨコバイ類やニカメイチュウなどの発生予察にも従事させていただきました。チャドクガの試験も担当させてもらいました。

 農場には茶畑があり、この年に自然発生的に発生したチャドクガを供試して各種有機リン系殺虫剤の効果を観察しました。農場には試験用にお茶の木が1本ずつ単独に十数本植えてありましたので、発生したチャドクガ幼虫を個々の木に適当数放虫し、定着を待って、供試薬剤を散布して、効果を評価することを行ったのですが、供試虫の放虫の時、薬散後の供試虫の生死観察の時には放虫した茶の木の下にもぐり込んで観察しました。幸い何にも被害を受けずに済みましたが、今思えば大変危険なことをしたと思っています。拙宅にサザンカが郵便受けの取り出し口の近くにあって、家族がチャドクガに苦しめられた時があり、サザンカの葉を食害しているチャドクガを葉ごと慎重に切り取り、焼却するとともに殺虫剤を散布しました。このような場合には、殺虫剤の適正使用が、その後の安心を得ることができることを確信しました。
 その他様々な経験を積み重ねることができましたが、冬場に試験管、脱脂綿とピンセットを片手に畔に座り込んで、凍えながら徘徊性のクモを一匹ずつ捕まえ、農薬の非標的生物に対する影響についても検討したことを思い出します。

 1年の農場での訓練を終えた後、ハエ、蚊、ゴキブリを対象とする主としてピレスロイド系殺虫剤を用いた家庭用・防疫用殺虫剤の開発を行っている研究室が配属先でした。ピレスロイドが何か分かってない時でした。最初の仕事は、スミチオンNP乳剤の再評価でした。該乳剤はフェニトロチオン(スミチオン®)5%とフタルスリン(ネオピナミン®)0.5%混合の乳剤で、すでに薬事法承認を得ておりましたが、有機リン抵抗性発達がみられるごみ処分場や鶏・畜舎で発生のイエバエ防除剤として活用できるかを調べる仕事です。具体的には有機リン抵抗性が顕著に発達したイエバエを飼育して、フェニトロチオンとネオピナミンの種々配合した混合液を用いて、配合することによる相乗効果があるか、ある場合にはその混合比率はいくつかを調べることです。幸いなことにフェニトロチオンとフタルスリンの配合比率がスミチオンNP乳剤の配合比率と同じ10対1が相乗効果を示すことが明らかになり、また、NP乳剤が抵抗性イエバエに良好な効果をもたらすことも分かりました。

 これらの成果を上司に報告したところ、驚いたことに近々日本環境センター(神奈川県川崎)で殺虫剤研究班があり、緒方一喜先生に了解を取ったので、これらの結果を説明してくるように命じられました。スライドを作る間もないので、模造紙に試験法方法や試験結果などを書いて、発表しました。加えて、翌年の2月(?)に開催されたペストコントロールフォーラム長崎大会でも話をするよう命ぜられて、長崎市の体育館で講演いたしました。
 本研究が「スミチオンNP乳剤は2種の有効成分を10対1に混合乳剤で、その混合と混合比率は相乗効果を根拠に設計され、有機リン抵抗性イエバエに有効な乳剤である」ということを喧伝した発表を行うことができました。殺虫剤の歴史に漕ぎ出した私の第一歩ではないかと思っています。なお、後日単味の既承認有機リン剤の殆どにフタルスリンとの混合乳剤が申請剤として市場に出回ることになりました。 (つづく)

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