徘徊性害虫の生態とその対応

一般財団法人日本環境衛生センター 環境生物・住環境部 橋本知幸

 徘徊性害虫とは飛翔によらず、専ら脚力で移動する害虫をいいます。昆虫でいえば、ゴキブリ、アリ、ハサミムシ、ゴミムシ、シミ、トコジラミなども徘徊性が強いですが、今回はこれらの昆虫ではなく、ムカデ、ゲジ、ヤスデ、ワラジムシ、ダンゴムシなど、昆虫以外の節足動物について、生態について紹介しましょう。

1.ムカデ・ゲジ・ヤスデ

 ムカデやヤスデは細長くて脚がたくさんあり、分類的にはどちらも節足動物門の多足亜門というグループに属しますが、その下のレベルでムカデ綱(=唇脚綱)とヤスデ綱(倍脚綱)に分かれます。
 ムカデでよく知られているのはオオムカデ目のトビズムカデやアオズムカデですが、セスジムカデ、アカムカデ、イッスンムカデも家屋周辺の石の下や土壌中でよく見られます。ムカデが有毒であることはよく知られていますが、特に毒性の強いのはトビズとアオズで、他の種類では毒性は低いとされています。昆虫、クモ、ミミズなどを捕食する肉食性で、主に夜間活動します。雌成虫は産卵から幼体孵化後2ヶ月くらいまで、体に覆うように、飲まず食わずで、保護します。住宅内にもしばしば侵入し、私が以前住んでいたアパートではよく出没し、天井に現れたり、就寝中に寝具の中に入ってきたことがありました。アパート周囲には廃材と落葉があったので、そこが潜み場所になっていたのです。
 
 ムカデの仲間であるゲジ(ゲジゲジという地方が多い)はゲジ目に属し、日本ではオオゲジと、より小型のゲジが家屋に侵入して問題となります。食性はムカデと同じ捕食性で、脚がムカデよりもはるかに長く、徘徊速度も速いです。体長(胴体部の長さ)はオオゲジでも4cm程度ですが、脚を前後に広げると全長は10cm以上になります。しかし、この脚は非常に取れやすく、鳥などの天敵に襲われた時に、自切といって、トカゲの尻尾のように、脚を身代わりにして本体が逃げることに役立ちます。ゲジは北海道以南に広く分布しますが、オオゲジのほうは東京以南に分布します。以前、横浜本牧の海沿いの公園で、備え付けのゴミ箱の下部に、数十匹のゲジが群れているのを発見し、実験で使うために捕まえようとしましたが、悉く逃げられてしまい、捕まえたのも脚がぼろぼろに取れてしまった個体ばかりで実験にならなかったことがありました。ゲジはムカデと同様に毒牙を持ちますが、咬む力は弱く、非常に敏捷なので、人に接触する以前に逃亡してしまうことが多いです。ムカデもゲジも比較的長寿命で、ゲジは5年、トビズムカデは7年も生きると言われています。ムカデもゲジも、住宅内に侵入する要因としては餌となる虫がいること、家屋周囲に潜み場所や発生源があるということがポイントです。家庭用エアゾール剤はムカデに対しては、ゴキブリのようには速効性が発揮されず、不要になった菜箸やトングなどで咬まれないようにつまみ出すか、叩き潰す方が早いようです。
 
 一方、ヤスデはムカデとよく混同されますが、腐った植物質や菌類を食べます。体長はオオムカデのように大きくなる種類はありませんが、それでもババヤスデのように体長6cmを超える種類があります。人家周辺でよく見かけるのはヤケヤスデで、5〜7月に家屋内への大量侵入がしばしば発生します。これは高いところに登ろうとする、ヤスデ類に時々見られるクライミング習性によるもので、湿気が高くなる時期に発生期が重なり、集団で一斉に侵入するように見えるのです。家の垂直な外壁も登ってしまい、森を切り開いて新しく造成された宅地でこのような被害が増えています。一方、中央線、小海線などでは、夏から秋にかけて、鉄道線路上に大群が出現して列車をスリップさせるという事故が起きたこともありました。原因はその名も「キシャヤスデ」。この仲間には複数の種類が知られていますが、汽車の運行を妨害したことから名付けられたもので、大発生は8年周期で起こるという不思議な現象が知られています。最近は、前述のヤンバルトサカヤスデが沖縄から本土に侵入し、鹿児島、伊豆諸島、小笠原諸島、静岡、神奈川、埼玉、徳島、高知などで被害が知られるようになってきました(写真1)。ヤスデの害としては、この大量発生による不快感が主流ですが、悪臭やヤスデの分泌液に触れた手で眼をこすったりして痛みが生じるなどの被害もあります。このような種類の場合、発生源は土のある部分ですので、建物周辺に殺虫粉剤を1m程度の帯状に撒くと残効性も期待できます。

2.ワラジムシ・ダンゴムシ

 ワラジムシ・ダンゴムシの仲間は節足動物の中で、甲殻綱(最近の新しい分類では顎脚綱とされることがあります)の等脚目(=ワラジムシ目)に属します。海の堤防やテトラポッドでよく見られるフナムシと同じ仲間ですが、住宅周辺ではワラジムシ科のホソワラジムシとオカダンゴムシ科のオカダンゴムシが普通に見られます。どちらも腐食性で、腐りかけた落葉や昆虫の死骸などを食べます。ムカデやヤスデのように有毒成分はありませんが、飼育していると脱皮途中の仲間を共食いすることもあります。動きは遅く、群れることが多く、それが不快感につながることが多いようです。どちらの種類も、もともとは日本に生息していなかった外来種で、徐々に分布を広げています。上記のような発生源を住宅周辺から排除することで対応可能ですが、殺虫剤を使用する場合は上記ヤスデと同じ散布法が有効です。
 
 ワラジムシやダンゴムシの行動で面白いのは、徘徊中に壁に正面からぶつかると、左右どちらかに方向を変えて歩き続けるのですが、進行方向を何度も壁で邪魔をすると、左右交互に方向を変えて移動するというものです(図1)。これは交替性転向反応という不思議な現象ですが、左右に曲がった際の脚の負荷の違いを均等にするためという説(BALM仮説と呼ばれています)が知られています。この仲間は理科の教材としても面白いですが、アニメ「風の谷のナウシカ」に出てくる王蟲(おうむ)の登場以来、ダンゴムシファンも増えているようです。

3.クモ

 クモと言えば、蜘蛛の巣が思い浮かびますが、中には巣を張らずに徘徊して獲物を捕まえる種類がいます。クモ類は分類学的にはクモ綱(蜘形綱)、クモ目(真正クモ目)に属します。住宅内で見られるクモとしては、ハエトリグモやユウレイグモの仲間が知られていますが、アシダカグモがピンと来る人もいるでしょう。アシダカグモは本州関東以西、四国、九州に分布し、脚が長く、広げると掌ほどの大きさになる国内最大の徘徊性のクモです。家屋内のクモ類は様々な虫を食べてくれるので、人にとっては本来、益虫と言えます。ハエトリグモなどは眼が大きく、よく見るとかわいい顔をしているのですが、アシダカグモくらいの大きさになると、なかなかそのような感情がわかないかも知れません。そもそもアシダカグモは臆病で、ゲジ同様、歩行速度が速いため、まじまじと見る機会は少ないでしょう。家の中の縄張りも広く、我が家では同じ個体と思われるものが、1階と2階の両方で目撃されます。アシダカグモは3年以上生存するとも言われ、室内では冬季にも活動しています。夜行性でクロゴキブリなどの重要な天敵となります。雌は夏に産卵し、大きな卵嚢を腹部に付けて移動し、それらが孵化すると大量の子グモが一斉に散らばります。私も一度職場の飼育室で飼おうとしたのですが、狭い容器のためかほとんどが死んでしまいました。人に対する刺咬性はないが、無理矢理捕まえれば、咬みつくこともあります。アシダカグモは住宅内で目撃してもすぐに姿を消してしまい、対応する間もないことが多いのですが、ゴキブリ用エアゾールでも直撃すればノックダウン効果はあります。

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