ペストワールド2015:ナッシュビル大会から

岩本龍彦(鵬図商事株式会社 顧問)

10月20日(火)~ 23日(金)
Gaylord Opryland Resort & Convention Center
Nashville, Tennessee

 PCO業界誌のひとつPCT誌ペストワールド特別号に「ベテランPCOが語るテネシー州のペストコントロール、過去・現在・将来」が掲載された。地元PCO業者ロン・シュワルブさんの2015年10月27日付寄稿は、アメリカ南部地方都市におけるPCO産業の概略を知る上で、大変に興味深い。その一部を引用してこのレポートの前書きに充てようと思う。

 ミシシッピー河畔からスモーキーマウンテンの頂上に至るテネシーにはペストマネジメント産業上の遺構がある。それは1927年に遡る。建材会社のオーナーだったE. L. ブルース氏が床材にシロアリ被害防止処理の必要性を痛切に感じていたのだった。
このニーズが彼に新会社を始めさせ、防蟻処理のプロセスの特許を取らせるまでに、急き立てることになった。その会社こそ、後にターミニックス・インターナショナルとして世に知られることになるBruce-Terminixである。
 教育と州の規制に支えられたプロフェッショナリズムは、手に手を携えて年を追って発展した。“ The Ratcatcher’s Child”(ラット・キャッチャーズ・チャイルド)によれば、テネシーには75年前に西部、中部および東部の3地域にそれぞれPCO協会が誕生した。1971年には防除業者を対象に、ペスト・コントロール・テクニシャン学校が設立され、後にテネシー大学農学部昆虫学教室のイクステンション(学外教育)へと発展する。   
これに伴い、PCO協会は同大へ奨学金制度を設けるなど、よい関係の醸成に努めている。
 PCO事業はテネシー州農務省消費者産業サービス局によって管理され、殺虫剤管理官によるPCO業者の規制と並行して、関連法制の整備が行われる。テネシー州は業界と当局が緊密に連携し、プロフェッショナリズムと消費者保護の育成に努めている。
 テネシーには優秀なPCOサプライ(機器薬剤の卸業)があり、遠隔地のPCOにもトレーニングや機器薬剤の最新情報に関わる教育研修の機会を与えてきた。その代表が1966年にミラードとアダ夫妻がメンフィス市に設立した、現在も優勢なOldhamだ。
 害虫相を見ると、ターミニックス設立のもととなったシロアリが大きな市場になっている。他にはアリ(9割以上がodorous house ants )が重要な地位を占める。また、蚊の需要も大きく、ナッシュビルは全米トップ10位に入る蚊の被害地になっている。
 概ねこの州ではアリと蚊のサービスに加え、近年伸長しているトコジラミで成り立っているかに見える。西部地区に特徴的なのは、アルゼンチンアリとクマネズミだ。
 自分は1970年代初頭からこの産業に携わっているが、現在はよりよい教育研修の中にあって、薬剤施用法の発達や種々の規制の中で、IPMが滞りなくできる環境がある。若いPCO達は恵まれた環境におかれ、実際的な知識技術を身に着けてもいる。

 シュワルブさんはこのミュージック・シティ(ナッシュビルのニックネーム)に職を得たことを感謝すると書いている。

オープニング・セレモニーから

 最初に専務理事ボブ・ローゼンバーグさんが登場し、昨期の成果のいくつかをざっと報告。これらの件については「すでにMy NPMAにアップしているので見ておいて欲しい」と。これからも会員が必要とする情報を常にHPに載せることが約された。
 いま最も重大な課題は「EPAがポリネーター(花粉媒介昆虫)保護に関する規制を準備中で、NPMAはこれら法制化に対して行動するので、ご支援を賜りたい」
 アメリカでは業界団体の活動方針はその協会を支えるスタッフが戦略を練り、会員代表ともいえる会長や執行役員にはかったのち、戦術展開して運営に当たる。その中心人物が専務理事であり、方針のほとんどは彼が策定することになる。一昨々年に臨時の専務理事として任命されたローゼンバーグさんも、その後に正式任命を受け、彼流の経営方針が定着した。開会式などの簡素化、教育セッションの技術重視から経営重視へ、また展示会場の充実などがそれである。
 とは言え、ローゼンバーグ氏の任期は既に終わっているのだが、この年末まで延期された。「今まで3人にインタビュー(面接試験)したが、これという専務理事候補が現れない」のだそうだ。それもそのはず、氏の20数年にわたるNPMAの経験に匹敵する人間など、容易に現れるものでない。彼が後任のCEOに要求することは、業界運営にたけていることがまず大切。加えて「ペストコントロール産業を理解していること、および政界へのロビー活動や消費者対策ができ、そのうえに行政の経験者」というから、そんな人材は滅多にいやしないだろう。
 次いで登壇したテネシーPCO協会(リージョン1)会長スコット・バーネットさんが歓迎挨拶を述べた後、この開会式スポンサーのバイエルを壇上に招き挙げる。
 バイエル・クロップサイエンスのクリス・ピエナーさんが後を引き継ぎ、昨年までの“Vision2020”に替えて、バイエルの新テーマ“Transforming our Future”“ Transforming our Voice”を紹介する。この産業におけるPCOの将来を一変させると共に、業界の声の持つ影響力を高めようとの提案である。
 トランスフォーミングにはチェンジよりも強い意味があるそうで、PCOの社会的認知を高め、社会への影響力をより高める願いが込められたようだ。それにしても、コピーを変えながら底流は同じという、キャッチ作りはどこがするのかうまいものだ。同社新任の女性重役ヒデミックさんを紹介して降壇。
 彼女は中近東・アフリカ担当からバイエル・ベクター・コントロール事業の北米担当に着任したと挨拶。音楽都市ナッシュビルにちなんで「ジョニー・キャッシュのチェンジングマインドで臨むのでよろしくお願いします」
 「いま世界では3,000万人が昆虫媒介性疾病で被害にあっています。バイエルはScience for a better lifeで貢献してきましたが、ベクター・コントロールもその一環なのです」と述べ、本日の演し物を紹介して降壇。Johnny Cashはあまりにも有名なカントリーミュージック殿堂入りの名手。彼の“人生における10のチェンジ”をご自分の挨拶にかけている。
 今回のエンターテインメントはカントリーではなく、6人編成のア・カ・ペラだった。最初はちっとも面白くなかったが、ビートルズのメドレーで“ヘイ・ジュード”辺りからは会場を巻き込んで、筆者も知らず知らずにラーラーラー・ララ・ララとやっていた。

インダストリー・アワードとゼネラルセッションから

 お目当てのレヴィンさんの基調講演の前に、PPMAの現況説明およびインダストリー・アワードの授賞式がある。
 まず、PPMA(Professional Pest Management Alliances、PCOの互助組織の類)の現状をスタッフから説明させた。「すべての活動は個人の寄付で賄われているので、どうかドネーションをお願いしたい」
 NPMA新会長ラス・アイブスさんがローゼンバーグさんを壇上に引き上げ、長年の労をねぎらう。「1988年に面接試験を受けて以来の緊張です」とボブさん。この情況ならいよいよ今年末に退陣なのだろう。「27年もの長きにわたって奉仕できたことに感謝します」
 次いで、Women of the Pest Management Associationの紹介と共に、NPMA women of Excellence Award(米国PMP協会優秀女性賞)の授賞式があった。選ばれたのはCOPESAN社長のデニ・ナウマンさん。授賞式に立ったターゲット・スペシャルテイー・プロダクツ社長トッド・ファーガソンさんはその授賞理由を「並外れたリーダーシップと、この産業における女性の地位向上に努めた」と。「正しいことをする努力を続けました。知らないことは話せないはずですものね」とナウマンさんの答礼。
 コペサンについては、以前に書いたことがあったので、ご参考までに以下に紹介する。
コペサン(Copesan)はCoordinated Pest Management and Sanitation の頭文字をつなぎ合わせて作った造語。害虫管理やサニテーションに複数のPCOが共同して当たることを目的に、1958年3月に7人の独立したPCOが集まって設立した。今ではアメリカ全土をカバーする企業に発展。本部をウィスコンシン州のメノモニーに置くが、傘下のPCOはそれぞれが独立した企業であり、コペサンは彼ら個人企業のマネジメント・ニーズに応えることを第一義にしている。
 コペサン・サービス社長デニ・ナウマンさんはドレイク大卒(ジャーナリズム)、コロンビア大ビジネススクール終了。81~97年SCジョンソン社(現ディバーシー社)、次いで06年までエッセンシャル社に勤務、以降コペサン社長として現在に至る。夫マイケルさんとの間に娘サラがいる。
 次いで、ヤング・アントレプレナー賞とヤング・アチーバー賞の授与式。スポンサーのレントキル社長ジョン・マイヤーさんが受賞者それぞれに各賞を授与した。
Young entrepreneurs award賞:スタンフォード・フィリップス(Northwest Exterminating)
Young achiever award賞:アンドリュー・リチャードソン(Edge Pest Control )
             ジョーイ・トース(Pitbull Pestcontrol)
             ダニエル・コリンズ(On Point Pest Control)
 NPMAはこの産業界の将来を担う次世代育成に努力を惜しまない。業界育成のために若者のやる気を引き出す試みが種々用意されているのだ。上述の賞などもその一環で、副賞にいくばくかの金員が付くので、フィリップスさんなどは「家計が少しでも助かる」と受賞の弁。これらの賞は協会の基金によるほか、スポンサーと協会々員からの寄付行為で賄われる。
 次いで協会のコマーシャル・コミッテイーの現況説明に続き、ACE(アメリカ昆虫学会公認準昆虫学者)資格取得者の表彰へと進行。最後に会長ラス・アイブスさんがこの日のスポンサーであるシンジェンタに感謝の意を表する。
 シンジェンタのPPM責任者がスピーチ。まずはシロアリ防除剤の説明に続き「カスタマーは永続性の防蟻処理を求めているはず。ならば、PCOはこれに応えるべきで、云々・・」
レジデンシャル分野(一般住宅対象の防除)については「多岐にわたるアプローチを可能にする薬剤や調査用具の開発に努め、皆様のお役に立てるように致します」。土地柄か「蚊防除への開発努力も惜しみません」としたところなど卒がない。最後に“Pest Partners 365 Program”(PCOがいつ頃までにどのくらいシンジェンタ品を購入するとどれだけ得するか)の宣伝があって、やっと本日のスピーカー紹介となった。
 ペストワールドには、必ず基調講演者二人が招かれる。一人はビジネス関連のスピーカーが、もう一人が時々の名を馳せるトップ・アスリートが、経営に役立つだろうヒントを提供する。基調講演は、大会に集まる人たちのお目当てのひとつでもある。
 今回招かれたアスリートは美貌の女性登山家アリソン・レヴィンさん。七大陸すべての最高峰登攀記録を持つ。彼女は冒険家であり探検家であり登山家の顔も持つ。

基調講演・Alison Levine

 北極圏をスキーで横断や、2008年には歴史上の探検家R. メスナーのルートどおりに、南極大陸の西側から極点に至る600マイルをトラバースした。アメリカ女性登山家チームを率い、2010年44歳でアメリカ女性初のエベレスト登頂を果たす。
 デューク大卒MBAを得てゴールドマン・サックス入行。2003年にウオール街をあとにし、アーノルド・シュワルツネガーの財務を担当。カリフォルニア州知事を実現させた。
 2007年に “Today Show” “Good Morning America”でテレビにデビュー以降CNN、CNBC、 FOX、CBSなどのTV局を含む450以上ものマスメデイアに引っ張り凧となる。
 困難な局面でチームを率いる手法を、エベレストで得た経験をもとに著わした近著“On the Edge”(雪庇に立つ、Business Plus、2014)がベストセラーに。

 エベレストでは脅威を感じながら危険を冒す登頂を強いられる。高地登山では頂上までの間にいくつかのキャンプを置いて、体を慣らすのが常道だ。第1キャンプ、第2、第3とキャンプを設営し、最終の第3キャンプに泊まることができるようになるまで、登っては降りを繰り返す。第1まで登り、体が慣れたらベースキャンプへ戻る。次は第1キャンプに留まり、第2を目指す。第2に体が慣れたら、またベースへ戻るという風に繰り返し、体が高地に順応するように仕向けるのだ。
「登っては降るの繰り返しなんです」「クレバスは大きなビルディングの谷間のようです。落ちれば即、死が待っています」。クレバスを渡るときは、仲間との殊更なリレーションシップが肝要となる。「慎重なリスク負担が求められるのです」
「チームの全員が個々に、チームに対して責任を果たすことが求められます。個人が全体にどのように貢献できるかを、いつも考えなければなりません」
 高地の雪や氷の状況は一瞬としてとどまることがない。常に刻一刻と変化する。重い体を引きずりながら、1歩ごとに5回から10回ほど息をつかなければ足がいうことをきかない。「少しずつ少しずつ体を引き上げて行くのです」(この件(くだり)で、1975年に世界初の女性だけのチームによる、エべレスト登頂を成功させた田部井淳子さんの言葉がスライドに出る)
「テクニックや能力だけで頂上に立とうとしてもできません。最も大切なのは意志の力なのです。意志というものはお金で買えるものでなく、ましてや他人から貰うことはあり得ません。それは、あなたの心の中に沸き起こるものなのです」(田部井淳子)
 そして、様々な苦難の中、その日の朝6時30分にいよいよサウスピークにたどり着いた。
「そこがEdge(エッジ)なのです。岩に張り付いた雪が、風になびくようにせり出して凍り付いています。私は今その雪庇の上に立っています」
 吹き付ける氷雪の中、この後の天候はどうなるか。頂上はすぐそこにある。最終時点での慎重なリスク判断が求められる。先へ進めるか。大きなロスだが戻らなければならないか。トップの決断が全隊員の進退を決める時点がきた。それも極限に置かれた特異な自然環境の中での選択である。
 チーム、リレーションシップ、リーダーシップ、個人と全体、変化し続ける環境、“エッジ”という究極の厳しい環境下のデシジョンメーキング、意志の力などなど、組織を動かすものおよび組織にあるものにとってたまらない課題ではある。
 ビジネスにおける、意志決定能力とモチベーションにもかかわる究極の課題を、演壇を駆け回りながらの熱演は聴衆をうならせた。
 結語がまた良かった。「私と登ってくれてありがとう」と手を振りながら降壇。聴衆のスタンデイング・オベーションが鳴り止まない。

エデユケーショナル・セッションから

 毎年のことなのだが、このセッションのどの講座を聴こうかといつも悩む。それで今回は、あちこちをつまみ食いするような聴講姿勢になった。前後の脈絡なしに聴いてみた。あちらのPCOたちの熱心な聴講振りをご納得いただけたらと思う。
 まずは、IPMにおけるモニタリングの大切なことから。

1.ハツカネズミ3匹だって?やるじゃん!で、今度は?

Chelle Hartzer BCE(ザ・インダストリアル・フューミガント)

 とっても元気なおばちゃん先生の登場だ。甲高い声で講演しながら、300人以上は入っている会議室を早足で駆け回る。とにかく精力的です。

(1)モニタリングの重要性

「IPMで最も大切なのがモニタリングです」と第一声。なぜモニタリングが大切なのかを説き聞かせてから質問する。「モニターするってどういうこと?」。「はい、はい、はい、手挙げる、挙手!挙手!」と、とにかくせわしない。講演中ずっと動き回る。
 この講座はアメリカ昆虫学会(The Entomological Society of America、ESA)が発行するACE(Associate Certified Entomologist)の更新履修必修科目なので、聴講生の数が他の講座に抜きんでて多い。中心になっているのは現場に出るテクニシャンなのでしょうが、先生に負けずに会場からいっせいに手が挙がる。
「当初のポピュレーションを知ることです」「湿度や温度の記録とか・・・」「清掃情況など・・・」などと、聴くほうも積極的。演壇を降りてきて、回答者一人ひとりを回って何か配っている。よく見れば、どうも名入りのボールペンのよう。聴講御礼というところかも。
 アメリカ昆虫学会はこの分野に、上述のACE(準公認昆虫学者)のほかにBCE(Board Certified Entomologist)という資格証明書も出していて、こちらの方が程度が高いらしい。演者もこの資格の所有者だ。
「フェロモンって?」「モニタリング用具のあり方は?」聴衆は質問攻めに会う。その回答に応えながら、講演を進める手法。この上手いやり方は日本の講師さんたちも見習うべきでしょう。
「モニタリングはリアライズなのよ。施工場所の実情をリアルに把握できることに尽きるわ」「眼を使え、手を使え。そして現場の情況を把握しなさい」

(2)トラップに捕獲された虫の数の意味

「ベリフィケーションなのよ!そこに虫が居るという証明なのです」
インディアンミールモス(ノシメマダラメイガ)駆除の実例を示して、ベリフィケーションを丁寧に解説する。
「これはサンフランシスコのカカオ豆を扱う工場の例なんですけど、お見せするのは駆除を始めた2008年と、1年後の2009年のFungus Beetlesの捕獲数をグラフにしてみました」さて、またまた質問が始まります。
「この二つのグラフが大きく違う原因は?」聴衆にしばらく考えさせるための間をおいてから。「サニテーションです」「サニテーションがこの問題解決の大きなポイントでした」
なるほどよく分かります。
 汚れた粘着トラップを見せながら「ここら辺が虫で汚れてるわね」。どれほどの期間放置したままだと、この程度汚れるものかを解説する。「では、これらのFungus Beetlesは何処から来たと思いますか? 内部に居た?外部からの侵入なの?」「グルーボードはこれを知るための用具でもあり、インジケーターなのです」
 会場から声があがり「問題はサニテーションだと・・・」に、「いいえ」と丁寧に否定してから、「端的に言って、この事実のコミュニケーションが課題なんです。そして、その裏づけとなるのがドキュメンテーションです」「正確なドジエール(一件書類)を作って、記録しましょう」
 最初はあわただしく感じた講演だったが、時間を感じさせないほどトントン拍子に進められ、最後にすとんと腑に落ちる痛快なものだった。モニタリング、ベリフィケーション、サニテーション、コミュニケーション、そして最終的にこれらの経過を纏めるドキュメンテーションと、IPMに欠かせない要件を会場と一体になって説明したのである。
 終了後に履修スタンプを貰う聴講生が300人ほど列を作った。

2.シロアリ防除の進歩

Phil Koehler, PhD(フィリップ・ケラー、フロリダ大学教授)

 この人ただの教授じゃない。演者紹介でもアーバン・エントモロジー(市街化地域の昆虫学をいう)教授、マーギー・アンド・デンプシー財団の建築物ペストコントロール教室の教授だの、果ては何年に何々賞、何とかアワード、学会賞、あれやこれやと長々とあって、最後にフロリダ大学建築物ペストコントロール教授と、司会者が読み上げるだけでも大変。決めは今年2015年のPCO殿堂(Hall of Fame)入りを果たしたことだ。
 で、登壇第1声「今年のホール・オブ・フェイムに選ばれて」とヒャッヒャ笑いが止まらない。嬉しくて仕様がないご様子。本人は無邪気そのものに見えるので、嫌みは全くない。
 さて、肝心のケラーさんの講演ですが、この人ほどプレゼンが上手な教授は他にいらっしゃらないと思います。聴く側に今度はどんなスライドを見せてくれるかなという、毎度の期待感があるほど。エボリューション・オブ・ターマイト・コントロール(シロアリ駆除発展史)などという平凡なタイトルを貰うと、筆者などは、ついつまらないスライドでお茶を濁してしまいかねません。しかし、やはりケラー教授は違った。
 今回はネコが現在の猫へと進化する過程を、シロアリ防除剤の開発になぞらえたのです。更新世の南北アメリカに生息した大型ネコ類、サーベルタイガーがペットのネコになるまでを、薬剤や施工法の発達の転換期ごとにとらえて解説したのです。

(1)殺蟻剤の進歩

① 最初の殺蟻剤

 1900年代にどんな殺蟻剤が使われていたのだろう。1928年にはケロシンを土中に撒いていた。1931年の記録にコールタール、砒素、石油類、コールタールとクレゾールの混合物が用いられ、よく効いたという。1923年にはPCO自身が殺蟻剤を作り始めた。それらは亜ヒ酸や砒酸ソーダなどだった。1936年にはパリスグリーン(緑色の毒物で、当時は絵具にも利用された)が木材処理に使われていた。「LD50が22㎎/㎏なんだよ。そんなのが家に撒かれたなんてね」
 1926年にはアリに食われた家1000軒を調査した記録がある。おそらくこれがIPMの走りだったと考えている。

② 建築方法の改良

 1934年にはKofoidにより、家の建て方を変えることで、シロアリの被害を防ぐという提案がなされた。土壌表面と建築物が接触しないよう、床下を18インチ以上にすることや、薬剤処理済木材なら8インチ以上の隙間を開ける、などが述べられている。
 これはターマイト・シールド・プロテクティング工法の開発につながるのだが、基礎に隙間ができるとかえってシロアリを増やすことになる、という隘路もあった。

③ シロアリの食害を受けにくい建材の利用

 木材の年輪や年輪の向き、春材か夏材か、またはその木材の育った地域の違いなどで、シロアリの食害が変化する。レッド・ウッド、サイプレス、杉などいわゆるソフトな樹種は食害に弱いが、ブラック・ロカストなど強力にシロアリを防ぐ種もある。

④ だれが5年間保証を言い出したか

 1932年には土壌処理剤としてオルソジクロロベンゼンが最初の登録薬剤になる。1927~1932年はターミニックスが殺蟻剤開発に力を入れていた。おそらくは1947年にターミニックスが5年保証を言い出したからだというBergerの説がある。これは事実に基づく記述と考えられるので、ターミニックスの誰かが行政に通じていたのだと思う。
 1951年にはBrownの報告があるが、ペンタクロロフェノール、砒酸ソーダおよびDDTの効力が記載されている。ペンタクロロフェノールは、すでに1950年に詳しい用法が定められていた。

⑤ 塩素系殺虫剤とシロアリ

 1944年にDDT5%の石油溶剤、DDT50%水和剤の登録があった。1964年までが塩素系殺虫剤の全盛時代である。DDT、クロルデン、ディルドリン、ヘプタクロールなどが推奨されたとMallis(PCOの百科事典)にある。オルソジクロロベンゼンもまだ使われていた。
 (ここで、例の“ネコちゃん”がスライドに登場。かわいそうに石油系溶媒に漬けられてビショビショになっている。本当に油に漬けたとしたら、ケラーさん少しおかしいよ)

⑥ 1982年の殺蟻剤

 土壌処理剤は相変わらず有機塩素剤だった。土壌潅注器を使って300psiで土中に打ち込んだ。
 1981年にクロルピリフォス1%製剤が登録された。82年にはクロルデン問題が起こり、同年に農産物、芝生および庭への適用が禁止された。1990年のMallisによれば、クロルピリフォス、ペルメトリン、サイパーメスリン、フェンバレレート、イソフェンフォスなどに殺蟻剤としての登録があった。
 しかし、クロルピリフォスは2002年に禁止され、殺蟻剤は次の時代に入る。

(2)忌避性殺蟻剤と非忌避性殺蟻剤

① FMCのテルスターⓇ

 耐候性ピレスロイドが成分のテルスターⓇは忌避性殺蟻剤として、家の周囲に処理層を形成する。2004年のMallisから忌避性殺蟻剤の効力試験法の引用し、テルスターⓇやテルミドールⓇの力価が説明された。また、よその州と比べ規制が厳しいフロリダ州が登録している殺蟻剤の紹介があった。

② グリーナーな殺蟻剤

 グリーン・ペストコントロール(環境に安全性の高い害虫駆除)が望まれるようになり、シロアリ対策にもよりグリーンな施工の希求が高まった。それに対応して、EPAが登録したのがリスク低減殺蟻剤(EPA reduced Risk Termiticides)である。
 非忌避性殺蟻剤の代表格クロラントラニリプロール(アルトリセットⓇ)がそれで、紹介された室内実験装置で、1~5ppmの5段階に処理した面を歩くシロアリが10分間で100%の致死となる様子が映写された。
 試験装置が面白い。アリーナの土壌には規定量のアルトリセットⓇが処理されている。アリーナの一方にシロアリを入れたプラスチック容器を置く。容器にはアリが通れるほどの穴が開いており、シロアリは自由に出入りできる。その穴から、正面に向けてフェロモンを線状に施してあるため、シロアリはその上を行き来することになる。アリーナを歩いたシロアリがプラスチック容器に出入りを繰り返すと、次第にシロアリ全体に薬剤が行き渡り、時間経過に伴う致死率がグラフ化されて映し出された。

③ ベイト

 ベイト・システムは1994年にNan Yao Suにより開発された。フロリダ大学はさまざまな企業と提携し、数多くの商品開発を行い、世に送り出している。ダウ社と協同開発したセントリコンⓇもそのひとつである。

 処々に油まみれのネコの映像を入れたりして、聴衆を飽きさせない工夫のあるスライドではある。サーベルタイガーから飼い猫へ、有機塩素からベイトへと言われてもね。

3.ネズミの侵入防止と早期発見へのサイエンティフィックな取り組み

Bobby Corrigan , PhD (ボビー・コリガン、RMCコンサルタント)

 コリガンさんと言えば家住性ネズミ研究の大御所。ニューヨーク市衛生局のアドバイザーなどとしても知られたが、現在はイリノイ州リッチモンドでコンサルタント業らしい。現場主義に徹した防除に係わる専門家として最も著名なドクターの一人。
 イクスクルージョン(侵入防止)は、しばしばネズミ対策の特効薬のように考えられているが、じつはネズミの現場ではそうそう上手く行くとは限らない。

 まずは、お得意のニューヨーク市に見られる被害事例の紹介から。
 NYラガーディア空港のレストラン。外見は清潔に見えるが、どっこい厨房へ入るとネズミの糞がいっぱい。糞をたどると壁面の鼠穴にたどり着く。アメリカの玄関口がこんなに汚されている。市内の道路わきの舗道に植えられた並木の根元にはあちこちに鼠穴が見える。舗道の裏側に回ると、土中に埋められた新旧雑多の水道管が露出していて、ネズミの棲家のよう。シャーロック・ホームズで有名な作家コナン・ドイルの名言“君には人が見過ごしていることを見る訓練が必要ですね”を引用する。ことほど左様にこの先生皮肉っぽいところがあります。
 なぜ、侵入防止なのか。その第一が食品衛生上の脅威だ。このあたりからボビーさん本論に入ります。まずネズミ由来の病気を解説。サルモネラ、カンピロバクターなど食品汚染の実態を語る。画面には公園のベンチの裏の地面いたるところに鼠穴がある。穴から続くレストラン内部にネズミの糞、尿、抜け毛が見える。
 このような状況下で、Food Safety Modernization Act(食品安全新法とでも)の改訂があった。とくに食品汚染防止に関する改定であり、ネズミ類のExclusion(侵入防止)に力点が置かれている。
 ネズミの侵入防止には誰もが気を使うはずだ。ところが、ドアはあってもネズミは難なく通り抜けている。「中に入ってしまったネズミをベイト・ステーションにおびき寄せて駆除しようとするでしょう。しかし、近頃のネズミはベイト・ステーションに入ろうとしない傾向があるのです」。好新性が強いとされるマウス(ハツカネズミ)にさえ、ステーションを見向きもしない系統が出ている。
 肝心なのは、ネズミ類はどのような方法で屋内へ侵入するのかを知ること。(1939年に描かれたスケッチを見せながら)「この絵には病気の持込をするネズミが描かれているのですが、情況は2015年と同じです」。1927年にZacherは「ビルは建てられたときから経験を積んだ生物学者に観察させるべきだ」と言っています。1939年になるとHartneckが「病害が話す言葉を知れば障害はなくなるはず」としました。
 「侵入防止のひとつの手法を挙げたいと思います。それは寒気の防止と、そ昆の侵入阻止はまったく違うことの理解なのです」。具体的にはドアの下側に取り付ける、ドアと床の間隙を塞ぐためのブラシのことだという。
普通のブラシはナイロン製の剛糸を高密度に植え込んだHigh density nylon bristleが使われる。このブラシは空気の流入を防ぐものの、外部にいるネズミはナイロン糸を噛み切って屋内に侵入してしまう。
 「紹介したいのは、ステンレスの針金をゴムで包み込んだ線を植え込んだ防鼠ブラシです。これならネズミが噛み切ることがありません」。「Rubber encased steel fabricated bristleはXcluderⓇのブランドで販売されています」と、宣伝怠りない。
 他にもモニタリング用品紹介として、赤外線センサーやマイクロカメラが紹介された。「梯子をかける前に懐中電灯とカメラの用意を忘れないこと」は先生の現場主義から出た言葉に相違ない。

4.2015年トコジラミ全国調査結果講評

Mike Potter,Phd(マイケル・ポッター、ケンタッキー大学教授)

 会期の二日目には1時30分に始まり、5時半までの4時間に亘るBed Bug Training Trackが用意された。この「トコジラミ集中研修講座」とも呼ぶべき講義は、3人の超ベテランが担当した。トコジラミの公衆衛生上の課題(S. ペロン、モントリオール市公衆衛生部)に始まり、トコジラミのフェロモンと作用(G. グリース、サイモン・フレーザー大学、カナダ)に次いで、ポッターさんの講演だ。
 筆者は他の講演を聴く時間を調整して3番目の講演を聴くことにした。ポッターさんはNPMAのトコジラミ対策の要の立場にあり、これまでにも数々の提言をしている。
今回の講演はPMPマガジン誌の調査「トコジラミサーベイ」2015年の結果の講評だ。

(1)調査結果概要

 ランダム抽出した調査対象のうち81%のPCOが仕事は年々増えていると回答。季節的には夏期が多い。最近は小学校および病院でトコジラミが増えている。
 予防のための各種モニタリング用具の需要が伸長している。殺虫剤を予防的に散布することは行われていないようだ。
 トコジラミはPCOにとって、最も駆除が困難な害虫になった。ちなみに、最近までアリが1番の難防除昆虫だったが、トコジラミがとってかわった。基本的には寝室のベッドで増殖するが、衣類を介して他にまき散らされる。

(2)施工処理方法

 施工法別では、施工率で見れば殺虫剤の使用よりも熱処理による施工が大幅に増えている。殺虫剤による駆除が一般的で、97%のPCOは殺虫剤を使う駆除を行う。混合剤が使われており、なかでもTEMPRIDⓇの使用率が最も高いことが分かる。
 トコジラミの多くは殺虫剤抵抗性のため、薬剤の使用に先立って効果の有無を確かめるテストキットが開発されている。
 残効性の高い殺虫剤としてPHANTOMⓇが使われている。これを用いた駆除例の紹介があり、処理後6か月間有効なことが実地に証明されていると述べた。

(3)シリカゲルの使用法

 珪藻土(主成分シリカ)による、安全で効果的な駆除が普及している。
 TechnicideⓇなら珪藻土を効果的に施用することができる。ペンキブラシの毛を植え込んだ箇所の中ほどから、珪藻土を吹き出す。このブラシで寝室のベッドの縫い目や床の隅々へ的確に珪藻土粉末を塗布できる。
 ExacticideⓇ Carpet Applicatorを使えば、カーペットや部屋のコーナーなどへ、珪藻土をより広範囲に効率的に処理することができる。

(4)その他、情報源など

 “National Traveler Survey”を見ておくことを勧めたい。このページは旅行者らがどこでトコジラミの被害に遭ったかを教えてくれる。ソーシャル・メディアの力は大きいので、大いに参考にしたい。「hotel, bed bug」と入れて検索すると、実に様々な結果が画面に出るので試されたい。
 告知義務については“Social respond right to know”に関わることなのだが、6か月以内の被害なら教えても良いというホテルがある反面、中には「トコジラミなど知らない」とする回答もあった。

 我が国と同様、現場では殺虫剤が使われる。ホテルの感染例調査については、旅館組合などを対象にした我が国の調査でも、米国と同様に回答を保留されたケースがあった。

5.NPMA当面の政策課題

Andrew Bray (アンドリュウ・ブレイ、NPMAスタッフ)

 ペストマネジメント協会は米国政府の方針にどのように対処するか。NPMAの政策担当アンドリュウ・ブレイさんが、政府の動きを解説しながらNPMA最新の公式見解を述べる。
ブレイさんはNPMAスタッフとして政府や行政庁の動きに常に敏感に対応している。「PCO業界に影響する、EPAの最近の方針についてお知らせしたい」と講演が始まった。

(1)EPA(環境保護庁)関連の証明書に関する変更について

 まず、免許を持っていない散布担当者の教育必要性が課題になっており、彼らに試験制度を設ける動きがある。撒布者は18歳以上であることが必要で、免許更新は国では3年ごとと決めているが、州によっては4年もしくは5年ごとに更新するところもある。
 撒布監督者の基準の遵守が厳しくなり、FIFRA(連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法)に違反が疑われると、ペナルティ(罰金刑)は当然のこととして、場合によってはクリミナル(刑事犯)になることがあるので注意のこと。本件はRUP(使用規制付き殺虫剤等)とゼネラル・ユース(規制なし殺虫剤等)で扱いが異なる。
 本件に関してEPAはASPCRO(The Association of Structural Pest Control Regulatory Officials)など周辺団体と協力する旨が公表されている。
 この説明に会場から補足質問者が立った。「撒布監督者については、州を越えて撒布のとき、移動時間が2時間以内ならOKとするようだ」と。ブレイさんの答えは「州によって扱いが異なる」というものだった。矢張り合衆国のこと国の法律に州法が優先するのだろう。

(2)ポリネーター・プロテクション

 ポリネーター保護に関する立法にこのほど大統領がサインした。この法では使用可能製剤と適用法(撒布方法)について定めている。EPAのプロポーザルに対して州ごとに規制法ができているので、殺虫剤使用に際してはこれに従ってほしい。
 ポリネーターとは花粉媒介昆虫のこと。ミツバチやその他の花粉媒介昆虫やが、ネオニコチノイド系殺虫剤の被害にあっているという事例報告が頻繁になされている。欧米ではこの系統の殺虫剤が汎用され、消費量が増すにつれ、養蜂業者や果樹園芸農家の被害が報告されるようになり、それと共にネオニコ使用禁止の声が上がった。
 すでにEUは、果樹園近郊でのネオニコ使用禁止を決めている。講演ではアメリカの対処策が説明された。ちなみに日本の農林水産省は現時点では、欧米に見るような厳しい態度をとっていない。

(3)燻蒸関係法案

 燻蒸用の薬剤はFIFRA法に則って、再評価中。この規制は農務省が扱う食物、農業、天然資源等の保護のための燻蒸が対象で、APHIS(Animal and Plant Health Inspection Service)により検討されたもの。
 PCOが行う建造物の燻蒸などについては、ことさらの問題はないようだが、EPAは燻蒸をしてはいけない環境(場所)などについての見解を示しているので、参考にしてほしい。

(4)WPTUS(Water of the United States)

 最近のEPAは排水に含まれる水銀等による水質汚濁に注目している。取締法はクリーン・ウオーター・アクトだが、NPDES(National Pollutant Discharge Elimination)の動きが水質汚濁防止法をより厳しくした。
 州により扱いが異なるが、我々が扱う個人住宅の水質管理には適用されない。ただし、コマーシャル部門のPCOについては、その排水が公的施設に流入の恐れがあるとき、定められた容量を超えないような配慮が必要となる。
 2011年には殺虫剤の水域への流入に関し、EPAが告発する事件があった。この事例を参考に、ラベルに記載の用法用量の遵守が求められる。違反行為は罰金刑のみならず、2年間の拘禁などもあるから留意のこと。
 殺虫剤による水質汚濁防止に関しては、我が国の農薬取締法も似たような扱いになっている。

(5)雇用者の扱いについて

 このほどNLRB(National Labor Relation Board)が雇用者の残業時間の取り扱いについて新しい方向を出した。
 それによると、オーバータイム賃金が従来の23,000ドルから、50,000ドルへと増額された。この金額は残業時間の年間契約に基づいて算出されているが、資格取得のための受験準備時間を除くなどの措置については今後の検討課題である。
 この項目には会場から多数の質問があった。
「雇用者とはテク二シャン(撒布担当者)のことか?」。「イエス。営業担当ではない」。「ならば、例えばニューヨークとアトランタでは賃金も違うのにどうするのか?」などなど。

(6)殺虫剤規制・州法および、よりローカルな課題

 殺虫剤はもとよりペスティサイド使用規制については、その状況が目まぐるしく変わる。現在の課題に、・撒布箇所への立ち入り禁止期間・公的建造物での撒布・ネオニコ問題・観賞植物への撒布などがある。
 州によって規制内容が異なり、もっと地域的な(ローカルな)規制もあるので留意したい。

(7)2016年大統領選挙

 ブレイさん、本当はこの話から始めたかったに違いない。民主党と共和党の候補者の顔写真をずらっと並べる。まず、第一声「ブッシュの人は?」と挙手させる。
 共和党の信奉者NPMAは、なにがなんでも共和党から大統領を出したい。共和党候補をカーソン、クルツ、ルビオと順に訊いてゆく。最後に「トランプの人?」。数人が手を挙げるのに会場から苦笑が沸いた。
 「ヒラリー・クリントンが勝つと、明年10月からは少しペスミスティックになるよ」
第114国会と第113国会の上院下院議員数を民主と共和別に一覧表にしてスライド映写。続いて16年の予想図に加え、州別色分けで現在の勢力を説明しながら、共和党への投票を呼び掛ける。
 国が後押しするこの大会のような場で、一定の勢力への応援要請とはいかにもアメリカらしい。何時だったかの大会で開会式の際にファンドレイズ(選挙資金集め)の案内があり、これが個人献金しか認めない、米国式選挙なんだと改めて思ったことがある。トランプ人気が高まったのは、我々がNPMA大会から帰京した少し後だったろう。

エキジビション・ホールから

 展示会場には例年通り200ほどのメーカーやサプライヤーがブースを並べた。展示会場を、昨年までのそれより広大に感じたのは筆者だけではないはず。全部見て廻ると11kmくらいある。もう一度見たいブースを訪ねるのに1kmくらいは探し回る。昼の弁当つきなので、ちょうど運動になってよいのだが、これを3日くらい続けると、相当に脚力を誇る人でも足がむくむに違いない。
 バイエル、FMC、 シンジェンタ、ダウなど大企業はいつものように5~6コマぶち抜きのブースを構える。ケミカル・スペシャルティーズと呼ばれるPCO向け製品群は、これらの国際企業全体に占める割合は極めてわずかだ。しかし、3000人以上もの参加者に企業を宣伝できるなら、その到達費用効果は絶大だ。セルフメディケーション大国のアメリカ社会には、例えばバイエルの“Science for a better life” などがそのままこの場でも通用するからである。 
 さて、肝心の展示品だが、特に際立つ製剤や機器が出ていない。強いてあげるなら、大企業に対抗してニッチな分野で、社長じきじきにブースに立つLLCクラスのメーカーの活躍だろう。これはここ数年の傾向で、ネズミ罠やフェロモン誘引モニタリング・トラップなどを扱うケースが多い。

  • DDVPはまだ健在。NUVANⓇは樹脂蒸散剤はもとより、直接噴霧型エアゾルまである。
  • SentriconⓇも上市20年で更なる攻勢に出た。
  • ZoeconⓇもシロアリの周辺処理(Perimeter Control)にEssentriaⓇを売込み中。
  • セントリコンⓇと特許紛争までやったEnsystexⓇだが、UV捕虫器にまで手を伸ばすほどの盛況ぶり(Osprey, Harrier, Falconがあり、最近は小型のSparrowhawkまである)。
  • ライトトラップには顧客開拓のための開発が目立つ。Control Zone ProductsⓇなどの製品がその好例だ。
  • IT関連ではServiceProⓇのリモート・モニタリング装置が面白い。
  • 同様にサービスマンの乗るトラックにGPSを搭載して現在地を管理するなど多数ある。
  • 人体毒性の低いトコジラミ用殺虫剤も数点開発されたが、我が国には薬機法の壁があるので導入は難しい。
  • トコジラミ等匍匐昆虫に珪藻土(シリカ)が卓効する。この粉末を施用する器具(TechnicideⓇ、ExacticideⓇなど)が開発されている。我が国で使われる粉剤のキャリアーにはタルクが用いられるが、タルクの主成分はシリカなので十分にその用に適う。ただし、タルクそのものを衛生昆虫の駆除用に供することは薬機法が認めていない。
  • バックパック型撒布機のいろいろが展示された。中にはスイスがオリジンのものも。
  • ゴキブリ・ベイト各社の商品コンセプトは競合を言い当てているようで興味深いが、このほどバイエルが新商品上市にあたって作成の“3 Steps for successful rotation”は理に適っている。

以上、エキジビション・ホールから気になる商品を拾った。

ペストワールド2015雑感

 NPMAの10月27日付公式発表には、今年のペストワールドも「80カ国から3,000名を超える参加者を数えた」とある。しかし、この南部の州はアメリカの主要都市からも随分と遠い。開会式やお別れパーティーへの参加者が少ないのは否めない。
 昨年のイワモト・レポートにも書いたように、ペストワールドは全般的に経営指向になっている。とくにエデュケーショナル・セッションの講座に、PCO経営に関するものがひと頃よりも増えている。PCO企業の買収や、企業合同の在り方と有利な進め方などがそれだ。個人起業家のPCO業だったが、経費圧縮のための規模の追及も視野に入れているようだ。   
 海外からの参加者に占める日本人の割合は年々高まっている。会期2日目の夕刻に催されるインターナショナル・レセプションでも日本人が目立った。

 中でも芝生幸夫さんの、アメリカや東南アジア諸国のPCOたちとの親交は賞賛されるべきだろう。NPMA前会長ビリー・テッシュさんと肩を組んでの笑い顔なんざ、並じゃできない。
 平尾素一さんは長年のNPMAへの貢献を称えられ、レセプションのスポンサーであるユニバーから記念の盾を頂戴した。
 筆者にとってナッシュビルは、大会が「ペストマネジメント」と呼ばれた頃の98年、2005年に次ぐ3回目のオプリランド・ホテルだった。当時このホテルは化学殺虫剤を使わない“自然にやさしいIPM”を売りにしていた。ホテル全体をガラスドームで覆い、その中で育つ樹木や花々に加害するアブラムシ(アリマキ)を、「テントウムシを放して駆除しています」というものである。しかし、後楽園ドームの何倍の広さか知らないが、外界から切り離された環境では、テントウムシという生物農薬だけで防除を続けるのは所詮難しい相談だった。
 宿の周辺には草地が広がる。州都とはいえ、いざ、町に出るには片道25ドルのタクシーに頼るしかない。それに引き換え、ホテルには何でもある。それで夜毎の居酒屋“ジャックダニエル”通い。このホテルは地元住民が娯楽施設のように利用するらしい。
 部屋に帰って深夜テレビをつけると、車の月賦販売がやたら目に付く。景気回復が眼に見え、好況感が増しているとされる昨今、自動車業界が盛んな攻勢をかけている。トヨタに比べてフォードやシボレーの影が薄いテレビCMが、総じて値下げ競争だ。スバル125ドル値引きで40ヶ月払いなど良いほうで、ビュイック60ヶ月払いなどとやっている。
 「現在のアメリカで進行しているポピュリズムというのは、民主も共和も左へ向かっている、つまり世論の漠然とした雰囲気が『よりリベラルな方向へ』シフトしている」(冷泉彰彦、Japan Mail Media、No. 869)のだそうで、その背景にあるのが好況感という。
 ダウンタウンでの買い物にいつものVISAカードを出した。店員が「何か別のカードある?」と問うので、たまたま持っていたAMEXカードを見せると一瞥してOK。何のことはない本人確認をされたのだ。
客がアメリカ人ならIDカードを見せることになるのだろうが、いずれ日本でも個人ナンバーがと、ふと思った。ツアー会社がいう「最近は海外でカード保持者を確認されることがあるので、渡航前にPINナンバーを調べておきましょう」などはナンセンス。カードと一緒に秘匿番号が盗まれていたら何にもならない。
 フェアウエル・パーティーは今まで20回以上も出席した中でもっともお粗末だった。以前のふっくらとしたローストビーフなど何処へ行ったのやら。
 ダンスタイムになって、その頃にはアルコールの力でなんとか踊れそうになりました。バンジョー、ギター、ベースに調子をはずしたホンキートンクバイオリンが、ギーギーと誘う。南部のダンスをやってみるのも面白そう。で、S嬢の手を引き中央へ。歌い手の歌詞の合間に入る「右、右、ミーギ、右、ハイ回って左、左、ヒーダリ・・・」にのってのスクエアダンス。2曲続けたらさすがにふらふらだった。Sさん有難う。
 帰る二日前にとんでもなく大きいハリケーンが発生して、飛べないんじゃないかと思ったけど杞憂だった。そう言えば、前回2005年のナッシュビル大会でも、帰り際に超々大型ハリケーン“ウイルマ”が上陸する予報が出ていたんだっけ。逸れたから良かったけど。
 おかげさまで「ペストワールド2015:ナッシュビル大会から」―イワモト・レポート―をお届けすることが出来ました。今回も最後までお読みいただき有難うございます。

 前頁下段の写真は商業地区のブティックで2人のマヌカンがポーズをとってくれたもの。上の写真はナッシュビルを象徴するATTのバットマン・ビル。
 前書きにある「ラット・キャッチャーズ・チャイルド」は、1983年にペンシルバニア大学教授ボブ・スネジンジャーが著した、PCOなら必読のアメリカPCO産業発展史とも呼べる書籍。その一部を拙著「もっと知りたいIPM」(シーエムシー出版、2013年)に書いたので、ご参考になればと思う。

<ペストワールド 今後の開催予定と開催地>
PestWorld 2016;10月18~21日、Washington Convention Center / Seattle, Washington
PestWorld 2017;10月24~27日、Baltimore Convention Center / Baltimore, Maryland
PestWorld 2018;10月23~25日、Walt Disney World Swan & Dolphin Resort / Orlando, Florida  

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