建設業者の防虫対策

7.外部から侵入する害虫対策(建物内部の空気圧の調節)

稲岡 徹
元 ㈱竹中工務店 エンジニアリング本部

I.はじめに

 前回は空気の力(風)で、昆虫の侵入を防止するエアカーテンについて解説しましたが、今回も空気にまつわる話題、「空気圧」を取り上げます。建物の内部と外部に空気圧の差が生じ、それが防虫上重要な問題となる場合がありますが、この問題に言及する前に、建物内の空気圧の調節に関わる建築上の基礎知識として換気方式について説明しておきましょう。

II.三つの換気方式

 古い日本家屋のように、換気のための機械装置を置かず、出入り口や窓、壁の隙間等からの空気の出入りにまかせる自然換気もありますが、現代の建物では何らかの換気装置を備えているのが普通です。  外気を取り入れ建物内部へ供給する給気装置と、内部の空気を外へ排出する排気装置の両方を備えているのが第一種換気方式で、給気量と排気量を調節して屋内の空気圧を正圧(陽圧とも言う。空気圧が外部より高い状態)、等圧(内外の空気圧が等しい状態)、負圧(陰圧とも言う。空気圧が外部より低い状態)のいずれにも整えることができます。  これに対して、給気装置だけを備え、排気は成行きにまかせるのが第二種換気方式で、装置稼働中は必ず正圧になります。手術室、無菌室等気密性の高いクリーンルームなどに採用されます。  上と反対に、排気装置だけを備え、給気は成行きにまかせるのが第三種換気方式で、装置稼働中は必ず負圧になります。後述しますが防虫上最も望ましくないのはこの第三種方式です。

III.建物内外の空気圧と飛翔性昆虫の侵入の関係

 建物内部の空気圧が外部に対して、正圧、等圧、負圧の時、飛翔性昆虫の侵入はどのような影響を受けるでしょうか? なお念のため申し上げておきますと、正圧時は建物は各所の隙間から空気を吐き出し、負圧時は吸い込んでいる状態になります。また、歩行侵入性害虫には空気圧の影響はありません。  図1は竹中工務店の防虫実験施設での私達の実験結果です。一晩中、15分毎に15秒間高速シートシャッターを開閉するという条件で行いました。換気装置非稼働時は内外等圧、給気用換気扇を稼働させた時は内部正圧、排気用換気扇を稼働させた時は内部負圧となります。この施設は虫の出入りできる隙間はできないよう設計してあり、給気用・排気用とも換気扇にはフィルターを装着していますので、昆虫の侵入はシャッターが開いている時に限られます。結果を見ると、内外等圧に対して、内部正圧時は侵入は10%減、負圧時は46%増となりました。正圧は若干の防虫効果を示し、負圧は明らかに昆虫の侵入を増加させることがわかります。

また、辻(2003)によりますと、排気用換気扇を稼働させた室内陰圧の状態では内外等圧の約4倍の昆虫が侵入すること(図2参照)、さらに辻・菅野(2003)は、給気用

 および排気用換気扇を交互に稼働させて、室内正圧・負圧の状態を反復すると、飛翔性昆虫の侵入は室内負圧時のみに見られ、正圧時には見られないと報告しています。辻らの実験結果では、私達のそれより内部負圧時の昆虫侵入の増加は著しく顕著であり、内部正圧時の防虫効果もさらに明瞭に現れています。この違いはどこからくるのでしょうか。
 私達の実験では昆虫はシャッターを明け放った時にだけ侵入してきたのに対し、辻らの実験では、窓に数ミリの隙間を開けて置き実験中は常にその隙間から昆虫が侵入してきました。私達の実験では、シャッターを開けることによって内外の空気圧差は瞬時に失われるのに対し、辻らの場合は空気圧の差は解消されることがなく、実験中持続的に空気とともに昆虫を吸い込んでいたためと考えられます。

IV.おわりに

高度の衛生管理を求められる医薬品・食品等の工場では、第一種換気方式の洗練された適用によって、最もクリーン度の要求の高いエリアから順次空気を流出させ、最後に外部に導く正圧(陽圧)管理の手法が最近は広く採用されています。このような管理は工場全体の清浄度を維持し、防虫対策の観点からも大きな効果を発揮しています。とは言え、建物全体の空気圧の管理は、技術的に容易ではなく、費用も嵩みます。建物全体の管理が不可能な場でも、最低限、製品や原材料が剥き出しになる所や、製造区域等の重要エリアは周囲に対して負圧にならないように管理することが求められます。

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