衣類害虫の生態と防除

一般財団法人日本環境衛生センター 環境生物・住環境部 橋本知幸

 今年、東京では、8月下旬から気温が低くなり、早めに秋物の服を出された人も多かったのではないでしょうか。これからさらに寒くなると、ウールのジャケットやパンツなどを取り出して、虫が空けた穴に気がつくかも知れません。秋になると虫の相談は少なくなりますが、今回は家の中でなかなか目立たない衣類害虫のカツオブシムシ類とイガ類の特徴や対策について解説します。

1.カツオブシムシ類

 甲虫の仲間で、衣類以外に、名前の通り、かつお節、煮干し、乾物、動物標本なども食害し、本来は住家周辺の野鳥の巣や蜂の巣などに生息していたものが、屋内に侵入する機会を得て、屋内害虫化したとされています。私も学校の普通教室でダニ調査を行った際に、板と板のわずかな継ぎ目からおびただしい数のカツオブシムシ幼虫を見つけたことがあり、屋内塵中の繊維や食べかすなども餌になっているものと思われます。繊維製品で加害されるのは、毛や絹などの動物性繊維が主ですが、合成繊維や綿などでも食べこぼしが残ったまま放置されると、そこを中心に食害されることがあります。

 代表的な種類としてはヒメマルカツオブシムシ(写真1a,b)とヒメカツオブシムシ(動画1)が挙げられます。前種は成虫の体長が3mm程度で、白地に黒、黄、茶などの斑紋があります。幼虫は茶〜褐色で、やや丸みがあり、体表に多数の毛を有します。後種は成虫が5mm前後で、全身黒褐色で、斑紋はありません。前種成虫は驚かすと身を固めて花から落下してしまいますが、後種は動きが比較的機敏で、歩行して逃げることも多いです。幼虫は前種よりもやや細身で頭部側の幅がやや広く、尾端に向かって細くなります。全身赤褐色で、尾端には特に多くの長毛があります。どちらの種類もピンセットなどでつまもうとしても、これらの毛と、身のかわしで捉えにくく、隙間の奥のほうに潜っていってしまいます。


写真1a マーガレット花粉を食べるヒメマルカツオブムシ成虫


1b ヒメマルカツオブシムシ幼虫


動画1 ヒメカツオブシムシの成虫と幼虫

 

 どちらも成虫は1年に1回発生し、その寿命は30〜50日程度です。春から初夏にかけて、好んでキク科植物に訪花します。その花粉を摂取した後に、交尾し、たまたま毛織物、絹織物などが干されていると、格好の産卵場所になるという説と、屋内で羽化(成虫になること)後、約10日以内に、絶食状態で交尾し、大半の卵を産み終えてから走光性が負(暗いところを好む性質)から正(明るいところを好む性質)に転換して、屋外の花に集まるという説があります。産みつけられた卵は温度によって、10〜30日で孵化し、その後、晩秋までに6〜9回の脱皮を繰り返して終令幼虫となり、一部が蛹化することもありますが、多くはそのまま越冬します。

 ヒメカツオブシムシでは、5℃以下で活動を停止するといわれ、東京付近の一戸建て住宅では真冬を除けば、食餌活動ができることになります。そして春になると、終令幼虫は蛹化して、7〜20日後に成虫が飛び出してきます。このように1年の多くは幼虫で過ごし、この間に、シルクやウールなどの動物性繊維を食害します。このため、夏の間に衣装ケースなどに収納しておいた時に加害され、秋になって久しぶりに取り出した際に被害に気づくことが多いかも知れません。なお、ヒメマルのほうはコショウ,穀類、種子などの植物質だけでも生育が完了します。

 カツオブシムシ類は近縁種がいくつか知られていますが、変わった利用法として、博物館などでは、動物遺体を、大型で動物死骸に付くハラジロカツオブシムシの幼虫が多数入った容器に入れて、骨の周りの肉を食べさせて、骨格標本を作製させることがあります。

2.イガ類

 イガとは漢字で「衣蛾」と書きます。乾燥動物質を餌とし、かつお節や魚粉なども加害します。繊維害虫としては、ウールで生育可能ではありますが、それだけでは栄養不足で、コレステロールが不可欠とされ、衣類で被害にあう箇所は、洗い残した他の栄養分が含まれている部分が多いようです。

 代表種としてはイガ(写真2)とコイガ(動画2)があり、成虫の大きさは、イガの前翅開帳(前翅を広げた時の左右の翅の端から端までの長さ)が9〜16mm、コイガが9〜12mmしかありません。成虫は、体を翅で三角形にして隠すように止まります。イガの方は前翅表面にぼんやりとした黒っぽい斑紋があるのに対して、コイガの方には斑紋はありませんが、よく見ないとわかりません。幼虫はどちらの種類も繊維を綴り合せて作った巣の中にいることが多いのと、暗い所を好むため、直接見ることはほとんどありません。イガは巣ごと移動できるのに対して、コイガは繊維表面に繊維や糞を、自分で吐出した糸で括り付けるためトンネル型の固定巣を作ります。なお、被害としてはイガの方がコイガよりも大きいようです。


写真2 イガ成虫


動画2 コイガ成虫

 

 発育サイクルは前述のカツオブシムシ類よりも早く、イガは年に2〜3世代、コイガは3〜4世代を経過します。イガの場合、成虫の寿命は7〜10日しかなく、羽化後、ただちに交尾・産卵します。卵は7日ほどで孵化し、出て来た幼虫は巣を大きくしながら、常にこの巣の中で脱皮して発育していきます。幼虫期間は温湿度の影響が大きく、28〜51日で、特に25〜30℃、50〜70%RHの環境下で被害が大きいため、7〜10月に衣類の被害を受けやすいとされています。なお、イガは動物質の食物でしか発育できないが、コイガは植物質でも発育でき、ヒメカツオブムシとヒメマルカツオブシムシの関係に似ています。

3.衣類害虫の防除

 カツオブシムシ類もイガ類も、これから晩秋までは幼虫の摂食活動が盛んになるので、対策の適期と言えるでしょう。しかし、衣類害虫が加害するのはタンスやクローゼットの暗い場所なので、動いている幼虫に気づくことは少ないでしょう。
 衣類の害虫と言えば、「防虫剤」がよく知られていますが、これまでの研究で、カツオブシムシ類幼虫は殺虫剤に対して感受性が低く、イガ類幼虫は感受性が高いとされています。ただ、自宅で衣服に加害しているのが、カツオブシムシなのか、イガなのかということは判断しにくいので、一様な対策を立てなければならないでしょう。

 基本的にはタンスや衣装箱に保存する際に、洗濯して、汗や食べこぼしなどの汚れをきれいに落とすことが必要です。前述の通り、幼虫はかなり狭い隙間に入ってしまうので、密封性を高めて防除することはできませんが、密封性が高い方が防虫剤を使用した時の防除効果が高くなります。防虫剤には常温揮散性のピレスロイド(エムペントリン、プロフルトリンなど)や、昇華型成分(パラジクロルベンゼン、ナフタレン、樟脳など)を含む製品があります。前者はいわゆる家庭用エアゾールなどにも配合される成分で無臭です。最近はこれら常温揮散型のピレスロイド剤が種々開発され、衣類害虫に対する効果は高くなっています。一方、後者は昔ながら独特の臭いのする製品です。昇華型防虫剤では、成分の異なる製品を同時使用すると、ガスが発生してシミができてしまいますので併用しないで下さい。多くの防虫剤は成分が徐々になくなっていきますので,定期的に交換する必要があります。
 防虫剤を使いたくない人は定期的に虫干ししたり、アイロンをしっかり掛けることも有効です。また、タンスや衣装箱などは繊維が出やすいので、時々、掃除機をかけて繊維クズを除去しましょう。

  • クリンタウン
  • 虫ナイ

PMPニュース342号(2015年10月)に戻る