ペストコントロールの基礎知識と知って得する技術ノウハウ・情報 第22回

鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾

出典元:月刊HACCP302号より

日本だけど、日本では無い場所

日本であって、日本でない場所「在日米軍基地」日本に存在しながら、アメリカのペストコントロールの考え方・施工方法・管理方法が適用されている少し特殊な場所です。今回は米軍横須賀基地のペストコントロール部門の事務所を視察させて頂く貴重な機会を頂いたので、視察を通じて感じた日本とアメリカのペストコントロールの違いについて下記にご説明させて頂きます。本日の記事は本来のペストコントロールの基礎知識とは少し離れてしまいますが、ご容赦頂ければ幸いです。

米軍横須賀基地について

神奈川県横須賀市に位置する基地で、面積約236万平方メートル(横浜スタジアム90個分)横須賀市ホームページ「米軍施設の軍人、軍属数及び従業員数」によると、施設内では、軍人・軍属、家族が合計12,878人居住している(平成23年3月31日現在) また、「横須賀市内の米軍施設別従業員数(人)」によると5,236人が勤務をしています。(平成27年3月31日現在)空母が寄港した時などは、空母に乗艦していた5,000人以上が基地内に駐留する事もあり、基地内で一つの町を形成していると言っても過言ではありません。基地内には、軍事施設、倉庫だけでなく、将兵用住宅や病院、学校、教会、映画館、スーパーマーケット、レストランなども併設されており、基地内には路線バスが走り、基地内限定のタクシーなども走っています。

ペストコントロール部門の事務所訪問

米軍基地内には基地施設だけでなく、前述の通り生活に必要な施設が一通り揃っており、全てのペストコントロールを米軍の担当事務所が請け負っています。その為、約236万平方メートルの広大な横須賀基地の管理業務も11人の作業員と米軍事務所から依頼を受けた指定業者が管理しています。事務所の外周はフェンスで囲まれており、テロなどがあった時などに殺虫剤や農薬を悪用されないように警備しています。事務所は薬剤汚染リスクの無い「セーフエリア(事務スペース、トイレ、ロッカールームなど)」と薬剤汚染の可能性がある「ダークエリア(薬剤庫、備品置き場、調剤室、車両置き場、ダークエリア専用トイレ)」に別れています。ダークエリアに居る場合、シャワーと着替えを済ませないとセーフエリアに戻る事は出来ません。また、薬剤汚染リスクを考慮し、洗濯機も「私服」「作業服」と分けられている徹底ぶりです。

写真左:フェンスに張られた立ち入り禁止表示 写真右:2台の洗濯機
 

写真左右:資材置き場、殺虫剤の散布機B&Gやミスト機、掃除機、清掃器具

殺虫剤を希釈する専用室「調剤室」

事務所には殺虫剤を希釈する為の調剤室が用意されています。大型換気扇が設置されており、シャワー、洗眼器など、もしも薬剤曝露してしまった時に速やかに対処する設備が整っています。また、殺虫剤を散布した後の噴霧機の洗浄も約10分もの時間をかけ徹底的に殺虫剤を洗浄し、洗浄に使用した水は専用タンクに収納し、殺虫剤を希釈する際に再利用するなど、殺虫剤のリスクを真摯に考え、作業員の安全性に最大限の配慮をしていました。日本の害虫駆除業者(PCO)でここまでの設備を備えた会社は見た事がありません。

ペストコントロール作業者には専用のライセンス(免許)が必要

アメリカではペストコントロール作業に従事する人は専用のライセンスを取得する必要があり、ライセンスは施工場所(室内or屋外)、対象害虫(例:ゴキブリ、シロアリなど)などで細かく分かれています。米軍基地内もアメリカ国内と同様に専用ライセンスが必要となります。また、日本のPCOに作業を依頼する際も作業員毎にライセンスが必要となるので、米軍基地内で定期開催される試験を受験し、ライセンスを取得しています。

どんな殺虫剤を使用しているのか?

使用する薬剤はNAVFAC(海軍施設本部)が独自の試験と評価を経て選定しています。
商品のラベル(用法用量や対象害虫)を非常に重要視しており、ラベル記載外の使用方法は一切許可しません。また、米軍の考え方としてペストコントロールは重要視されており、殺虫剤の価格よりも、作業員へのリスク、効果、環境に対する影響が優先しています。基本的にアメリカで上市されている殺虫剤を使用していますが、現場作業員などからリクエストがあった時などは、日本の殺虫剤を使用する時もあります。しかし、有機リン系殺虫剤を使用する事については、許可していません。理由は、アメリカでは有機リン系殺虫剤が使用されていない。薬剤曝露による作業員の健康被害を最小限にする為には、定期的な血液検査が必要になると考えており、許可を出していないとの事でした。殺虫剤は基本的にアメリカから輸入しているので、3ヶ月~6ヶ月分を目途に備蓄しています。倉庫には、除草剤、パチンコ、ゴキブリ用ベイト剤、白蟻用ベイト剤、殺鼠剤、ピレスロイド系殺虫剤などが保管されていました。日本のPCOと比較すると、液状の殺虫剤が非常に少なく、粉剤やベイト剤などが多い割合でした。

写真左右:薬剤保管庫の様子
 

写真左:可燃性の殺虫剤専用保管庫         写真右:日本未発売の殺虫剤

米軍基地での対象害虫ごとの対処方法

まず調査する、そしてその結果を踏まえ、人への健康リスク、環境への負荷を最小限に留めるよう、適切な対処方法(物理的・化学的)を行う。当連載2号でもご説明させて頂いたIPM(Integrated Pest Management)の手法を取り入れていました。

IPMとは・・・

IPMとは「Integrated Pest Management」の頭文字を取った言葉で、日本語で「総合的有害生物管理」となります。人の健康リスク、環境への負荷を最小限にとどめながら、様々な手法を組み合わせる事によって、防除効果を最大限にする手法です。この手法は手間が多くかかりますが、長期的にみると有害生物の繁殖や侵入を予防するのに最適な方法です。
※IPMの定義
害虫等による被害が許容できないレベルになることを避けるため、最も経済的な手段によって、人や財産、環境に対する影響が最も少なくなるような方法で、害虫等と環境の情報をうまく調和させて行うこと。
引用:厚生労働省, 建築物環境衛生管理基準について,https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/

ドブネズミの場合

日本ではクマネズミが主流なのですが、日本国内の米軍基地では米国と同様ドブネズミが主流でした。
この理由は、住宅の設備、排水の構造的違いが影響していると考えられます。米国家庭では流し台にディスポーザーと呼ばれる生ゴミ粉砕機を搭載しているのが一般的であり、生ゴミを粉砕して下水に流してしまいます。下水に流れた生ゴミがドブネズミの餌になっており、繁殖を許してしまっています。
ドブネズミの対策は下記の資材を用いていました。

パチンコ 誘引剤として、ピーナッツバターを塗布したパチンコを設置し、毎日巡回して状況を確認する。子供の手に触れられそうな場所には設置しない。
粘着板 週末や、毎日巡回出来ない場所には粘着板を設置して対応する。
殺鼠剤 ベイトボックスの中に殺鼠剤と水を入れて使用している。

チャバネゴキブリの場合
現場では、とにかく生息調査でした。そしてゴキブリを目視した時は、サイクロン式掃除機で吸引します。調査時に少量のピレスロイド薬剤を使用しますが、基本はベイト剤による駆除で、エアゾールもMC剤も使用していません。その理由は、薬剤を散布する=散布箇所が薬剤汚染されるという認識が強くある為です。

調査トラップ PP製のハーフトラップを使用しています。
ピレスロイド系殺虫剤 有効成分ピレスリン、フラッシング(追い出し)や生息調査に、ごく少量を使用しています。
MAXFORCE® FC ゴキブリ駆除用ベイト剤。有効成分:フィプロニル0.01%
Maxforce® FC Magnum ゴキブリ駆除用ベイト剤。有効成分:フィプロニル0.05%
Combat Source Kill Max Large Cockroach Bait クロゴキブリなど大型種のゴキブリに対しては、置き型タイプの
ベイト剤を使用しています。有効成分:フィプロニル0.03%

蚊の場合

蚊はマラリアやデング熱などの感染症を媒介する重要な害虫です。進軍時も最初に行うのは蚊の生息調査と感染症の調査です。その為、生息調査はメディックと言われる医療チームが行い、調査の結果、許容水準以上の発生があった場合は、ペストコントロールチームが駆除作業を行っています。

シロアリ、その他不快害虫の場合

シロアリはベイト施工をメインに行っている。黒アリの駆除など不快害虫の場合は薬剤を家の外周に散布しています。Termidor SC(有効成分:フィプロニル9.1%)という殺虫剤を使用しています。しかし、この薬剤は屋内では使用禁止なので、万が一の混入、誤用を防ぐ為に専用の噴霧器を用意する徹底ぶりです。

まとめ

日本と米軍基地のペストコントロールの一番の大きな違いは「薬剤の安全性や環境への負荷に対する考え方」と感じました。当たり前の事といってしまえば、当たり前なのだが「作業者に対する安全性の配慮」「ラベルに書いてある用法用量を守る」「環境への負荷を出来るだけ少ない薬剤を選ぶ」これらの意識が非常に高く、手を抜く事無く実践しています。その為、作業者も、駆除を依頼する者も安心する事が出来ます。
作業員の方にインタビューした際、「ゴキブリ駆除にエアゾールもMC剤も必要無い。調査トラップと少量のピレスロイド系薬剤でゴキブリの生息箇所をしっかりと見極め、ベイト施工で駆除が出来ている。そして人や環境に対しての負荷を考え、最小限に済む施工方法を選択するのは当たり前の事だ。」という言葉が忘れられません。

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