ペストコントロールの基礎知識と知って得する技術ノウハウ・情報 第17回

鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾

出典元:月刊HACCP297号より

害虫が増える時期になってきました。

4月に入り気温が上がってきました。間もなく害虫のシーズン到来です。今号では、一般家庭で害虫が出没する時期と家庭用殺虫剤の市場動向についてご説明させて頂きます。当社に寄せられる一般家庭からの相談を集計し、害虫獣8種の相談が多い時期を下記表にまとめさせて頂きました。大量繁殖してしまう前に駆除などの対策を講じれば、後々の繁殖を減らす事に繋がり、発生を低い水準に抑える事が出来ます。発生時期の1ヵ月~2週間前に対策を実施する事が重要です。

家庭用殺虫剤の市場規模

家庭用殺虫剤及び業務用殺虫剤のメーカーである大日本除虫菊(以下、金鳥)は年に1回家庭用殺虫剤を中心とした製品説明会を全国5箇所で実施し、家庭用殺虫剤の市場動向や新商品などの発表会を開催しています。説明会の主な参加者はホームセンターやドラッグストアのバイヤーなど東京会場だけでも約700名が参加する大規模な会でした。2019年の一般家庭用殺虫剤市場は837億円と、前年比101%の微増となりました。

殺虫剤が一番売れる時期はいつ?

例年は6月4週目頃が最も殺虫剤が売れるのですが、2019年は6月中旬から7月中旬までの気温が平年以下だった為、8月1週目が最も殺虫剤が売れた週になりました。一般消費者の動向は気温に大きく影響されます。2019年の平均気温は6月中旬から7月中旬まで平年以下だった為、3月~5月までは前年比91%、5月~7月までは前年比95%と売上が落ち込みました。しかし、9月は全国的に気温が高くなった結果8月~9月は前年比125%と3月~7月の落ち込みをカバーし、前年比101%という結果に落ち着きました。

対象害虫別割合

対象害虫別の割合はハエ・蚊が39%、ゴキブリが20%、不快害虫が19%、虫除け(空間用)12%、虫除け(人体用)9%となっています。
一般家庭でもハエ、蚊、ゴキブリが最もメジャーな害虫です。

対象害虫 売上 前年比
ハエ・蚊 323億円 103%
ゴキブリ 171億円 102%
不快害虫 他 160億円 102%
虫除け(空間用) 104億円 100%
虫除け(人体用) 79億円 98%
合計 837億円 101%
  • ● 蚊取り線香の動向
    金鳥は1890年に世界ではじめての蚊取り線香を発明した事でも知られていますので、金鳥と言えば、蚊取り線香を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。蚊取り線香の市場は85億円とハエ・蚊用ジャンルの26.3%を占めています。蚊取り線香は従来のレギュラー以外に、ミニサイズ、大型サイズなど様々な大きさの商品が上市されており、大型サイズは5月、ミニサイズは6~7月、レギュラーサイズは7~8月と売れる時期が異なる事から、使用場面に応じて使い分けされている事が推察出来ます。
  • ● ゴキブリ用殺虫剤の動向
    ゴキブリ対策は見かけたゴキブリを素早く駆除したい殺虫のニーズとゴキブリは絶対見たくないという殺虫・予防のニーズに別れています。予防用途のベイト剤は春先から売れ始め、5月以降気温の上昇に合わせてゴキブリの活動も活発になり、直撃タイプのエアゾールや捕獲器の需要が一気に高まり8月にピークを迎えます。
  • ● 不快害虫用殺虫剤の動向
    不快害虫の中では、コバエ用が36億円と最も売上割合が高く、アリ用30億円、ハチ用29億円、ダニ用22億円、クモ用11.7億円など、不快害虫も大きな市場となっています。ムカデなど這う虫はシーズン前半にピークを迎え、ハチ・クモは後半にピークが集中します。

年代別殺虫剤購入率

殺虫剤の購入率は世代によって大きく異なり、年配の方ほど購入率が高い傾向が見られます。1年に1回以上殺虫剤を購入する方達の世代別割合を見ると60代以上が59%に対して20代以下は23%と倍以上の開きが見られます。若い世代は、マンションなど集合住宅居住の構成比が高く、害虫との接触機会が少ない事が購入率の低さに影響しているからです。

世代 購入率
20代以下 23%
30代 38%
40代 43%
50代 47%
60代以上 59%

● 住宅形態が対象害虫などに大きく影響
一戸建てとマンションなど集合住宅では出没する害虫が異なる為、殺虫剤の売れ筋も大きく異なります。一戸建てでは、アリ用、その他不快害虫用、蚊取り線香、ハエ蚊用エアゾールなどが良く売れており、マンションなど集合住宅ではダニ用、燻煙剤、コバエ用、空間虫除け、ゴキブリ用エアゾールなどが売れているとの事です。また、ホームセンター業態では一戸建て居住者の購入が最も多く、マンションなど集合住宅の構成比が高い業態は、コンビニエンスストアからで、住宅形態の影響が顕著に表れています。

トピックス 「除虫菊」のゲノム解読に世界で初めて成功

金鳥は公益社団法人サントリー生命科学財団と共同で除虫菊のゲノムについて研究し、世界で初めて除虫菊のゲノム解読に成功しました。また、ゲノム解読結果を公表すると発表しました。一つの殺虫剤を長期間散布し続けていると、その有効成分が効かなくなる(抵抗性を持つ)害虫が出現してしまう事があり、他の有効成分の殺虫剤に切り替えなければなりません。しかし、新しい殺虫剤は毎年上市されていますが、新しい有効成分の物は殆どありません。殺虫剤の有効成分は開発が難しく、5年~10年に1件開発できれば上出来です。その為、今回のゲノム解読を公表する事によって、世界中の殺虫剤メーカーが研究し、殺虫剤開発が進む可能性が示唆されました。

  • ● 掲載論文
    2019年12月3日に「蚊取り線香の天然産原料であるシロバナムシヨケギク(Tanacetum cinerariifolium)のドラフトゲノム」 が“Scientific Reports” 電子版で掲載されました。https://www.nature.com/articles/s41598-019-54815-6
  • ● ゲノム解読って何?
    生物が持つ遺伝子と、遺伝子ではない情報を含めた全情報を「ゲノム」と言います。動物・植物など全ての生物を作る為の設計図だとお考え下さい。ヒトの場合:30億の塩基配列(並び方)と21,306の遺伝子で構成されています。除虫菊の場合:71億の塩基配列(並び方)と60,080の遺伝子で構成されています。要するに、除虫菊という植物を作る為に必要な情報全てを解明したとお考え下さい。
  • ● ゲノム解読に成功すると何が良いの?
    生育環境によってどのように有効成分量が変動するかなどの仕組みを解明し、遺伝子操作、品種改良を行う事で、生産量や効力の増強などに成功する可能性が高くなります。また、天然成分は害虫における抵抗性の発達が遅い傾向がみられるので、殺虫メカニズムの解明により、抵抗性が発達しにくい新規有効成分が開発出来る可能性があります。

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