鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾
出典元:月刊HACCP294号より
害虫防除業者(PCO)が使っている殺虫剤ってどんなやつ?
害虫防除業者(以下、PCO)は生息調査を実施した上で、環境的防除、物理的防除、化学的防除などの防除方法を組み合わせて施設の害虫の生息数を減らしています。その中でも化学的防除の一つである「殺虫剤の散布」はPCOの最も代表的な作業に感じられる方も多いのではないでしょうか?前号でご説明させて頂きましたが、殺虫剤は有効成分、剤型によって様々な特長を有しています。害虫防除業者はそれらの特長を考慮し、殺虫剤を使い分けています。今号では害虫防除のプロ達がどのような殺虫剤を、どのような目的で使用しているかについて解説させて頂きます。
■ご注意下さい■
PCOが使用している殺虫剤を自分達で購入し、散布すれば同等の効果が得られると思われる方も少なからずいらっしゃいます。しかし、殺虫剤の効果を最大限に発揮する為には、害虫の生態や潜伏場所を熟知した上で、専門の訓練を受けた人間が適切な使用方法を用いる必要があります。今号ではPCOがどのような目的で各種殺虫剤を使用しているのかを知って頂く事を目的にしています。自分達で殺虫剤を購入及び散布する為の参考にはならない事を予めご了承下さい。
プロは目的に応じて殺虫剤を使い分ける
殺虫剤と一言で言っても、多くの商品が上市されており、それぞれ特長が異なってきます。
害虫駆除のプロは有効成分と剤型の特長から、その殺虫剤をどういった目的に使用するのが良いのか考え、使い分けをしています。殺虫剤の有効成分の特長を大きく分類すると①速効性に優れる②忌避性に優れる③残効性に優れる④速効性と残効性 両方に優れる⑤伝播性に優れるが挙げられます。それぞれの特長から殺虫剤の目的・代表的な商品などを下記に記載させて頂きます。
① 特長 速効性に優れる
素早くゴキブリを致死させる特長を持つ有効成分はピレスロイド系殺虫剤となります。
また、ピレスロイド系殺虫剤は、人体への安全性が高く、有効成分が比較的速やかに分解されます。ピレスロイド系殺虫剤を使用する目的は、目の前のゴキブリを駆除する、什器下などに潜んだゴキブリを駆除する、什器裏や壁内に潜んだゴキブリを駆除する(ハエ類を同時に駆除する)といった事が挙げられます。
目的 | 什器下に潜んだゴキブリを駆除する |
商品名 | ゴキラート5FL |
医薬品分類/メーカー名 | 第二類医薬品 / 住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社 |
有効成分名 | d・d-T-シフェノトリン0.5%(ピレスロイド系) |
商品説明 | ゴキブリに対して特に優れた駆除効果を発揮します。匂いの少ないFL剤です。20~30倍に希釈し、ハンドスプレイヤー(蓄圧式噴霧器)を用いて散布します。 |
目的 | 什器下に潜んだゴキブリを駆除する |
商品名 | ゴキラート5FL |
医薬品分類/メーカー名 | 第二類医薬品 / 住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社 |
有効成分名 | d・d-T-シフェノトリン0.5%(ピレスロイド系) |
商品説明 | ゴキブリに対して特に優れた駆除効果を発揮します。匂いの少ないFL剤です。20~30倍に希釈し、ハンドスプレイヤー(蓄圧式噴霧器)を用いて散布します。 |
目的 | 什器裏や壁内に潜んだゴキブリを駆除 |
商品名 | 金鳥ULV乳剤-E /金鳥ULV乳剤-S |
医薬品分類/メーカー名 | 第二類医薬品 / 大日本除虫菊 |
有効成分名 | ULV乳剤-E:ペルメトリン5.0%、ULV乳剤-S:フェノトリン |
商品説明 | ULV乳剤-Eはゴキブリに対して優れた駆除効果と追い出し効果を発揮します。ULV乳剤-Sはゴキブリの駆除効果はもちろん、人体に対して特に安全性が高い有効成分を配合しています。上記殺虫剤の散布には、殺虫剤を20ミクロン以下の微粒子で噴霧するULV機器を用いて散布します。 また、空間中に殺虫成分を浮遊させる為、ハエなど飛翔昆虫類も同時に駆除する事が可能です。ゴキブリ、ハエなど飛翔昆虫類、両方の発生が多い時によく用いられる方法です。 |
② 忌避性に優れる
ゴキブリを致死させる効果を持つと共に、ゴキブリに対して忌避性(嫌がって避ける)が強い殺虫剤です。出入口などに散布する事で、ゴキブリの侵入を予防します。
目的 | ゴキブリの侵入予防 |
商品名 | レスポンサー水性乳剤 |
医薬品分類/メーカー名 | 第二類医薬品 / バイエルクロップサイエンス株式会社 |
有効成分名 | シフルトリン1.0% |
商品説明 | ゴキブリに対して特に強い忌避性を発揮します。また、有効成分にゴキブリが接触すると高い駆除効果も発揮します。 |
残効性に優れる
有機リン系殺虫剤、カーバメイト系殺虫剤は、駆除効果が長期間持続します。ゴキブリは普段人の目に触れない場所に潜伏していますので、ゴキブリの通り道に予め散布する事で、ゴキブリを待ち伏せして駆除する事が出来ます。また、カーバメイト系殺虫剤は、クロゴキブリなど大型のゴキブリ類に対しても卓越した駆除効果を発揮します。
目的 | 什器下などに潜んだゴキブリを駆除 |
商品名 | 水性サフロチン乳剤 |
医薬品分類/メーカー名 | 第二類医薬品 / 住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社 |
有効成分名 | プロペタンホス3.0% |
商品説明 | スミチオンと比較して殺虫効果が高く、約1か月間駆除効果が持続します。 駆除効果、残効性のバランスが良く、使いやすい殺虫剤です。 上記水性乳剤以外に、臭いの少ないFL剤も上市されています。 |
目的 | 什器下など潜んだゴキブリを駆除【残効性に特に優れる】 |
商品名 | サフロチンMC |
医薬品分類/メーカー名 | 第二類医薬品 / 株式会社アグリマート ・ 三井化学アグロ株式会社 |
有効成分名 | プロペタンホス20.0% |
商品説明 | 有効成分をマイクロカプセル(MC)で包むことで、安全性が高く、臭いが少ない殺虫剤です。経皮接触と経口摂取、2種類の方法でゴキブリを駆除します。カプセルが割れないとゴキブリが有効成分に触れない為、水性サフロチン乳剤などと比較すると速効性は劣りますが、長期間(約3~6か月)駆除効果が持続します。PCOの中にファンが多い殺虫剤の一つです。 |
目的 | 什器下などに潜んだゴキブリを駆除 |
商品名 | マイティジャガー |
医薬品分類/メーカー名 | 住商インターナショナル株式会社 |
有効成分名 | プロポクスル1.0% |
商品説明 | 油剤なので引火性があり、臭いも多少しますが、有効成分のプロポクスルは速効性、駆除効果、共に優れており、特にクロゴキブリなど大型のゴキブリに対しても有効です。PCOの中にファンが多い殺虫剤の一つです。 |
③ 速効性と残効性 両方に優れる
ゴキブリ駆除の現場では、速効性と残効性どちらも非常に重要です。その為、長所の異なる有効成分を混合させ、両方の長所を併せ持つ殺虫剤も上市されています。
目的 | 什器下などに潜んだゴキブリを駆除 |
商品名 | スミチオンNP-FL「SES」 |
医薬品分類/メーカー名 | 第二類医薬品 / 住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社 |
有効成分名 | フェニトロチオン5.0%(有機リン系)、フタルスリン0.5%(ピレスロイド系) |
商品説明 | 殺虫成分の残効性に優れるフェニトロチオンと速効性に優れるフタルスリンを配合する事によって、散布直後に速やかな駆除効果を発揮しつつ、残留性にも優れた殺虫剤です。約1か月間駆除効果が持続します。FL剤なので水ベースで臭いも比較的少なくなっています。※直射日光のあたる場所では変色の恐れがある為、ご注意ください。 |
④ 伝播性に優れる
繁殖源である卵鞘を抱えたメスのゴキブリは巣から殆ど出る事が無い為、ゴキブリの通り道に殺虫剤を予め散布し駆除する方法では、駆除効果を期待する事が出来ません。そこで幼虫から成虫まで同じ餌を食べるゴキブリの習性を利用し、ゴキブリが好む餌に伝播性(有効成分が他のゴキブリにも伝え広まる事)を持つ有効成分を配合する事で、オスのゴキブリが食べたベイト(毒餌)を巣まで持ち帰らせ、巣から出てきにくいメスのゴキブリも駆除させる事が出来ます。伝播性を発揮させる為に、ゴキブリがベイト(毒餌)を食べてから致死するまでに12時間以上の時間を要す事が多いのですが、繁殖源を断つ事が出来るので、駆除後に生き残りが居ても繁殖の速度を抑える事が出来ます。ベイト(食毒)は同じ殺虫剤を長年使用していると、食い飽き(食べなくなる)事もある為、定期的にベイト剤の種類を変更(ベイトローテーション)し、食い飽きを防ぐ事も重要です。
目的 | 巣から出てきにくいメスのゴキブリも駆除 |
商品名 | マックスフォースマグナム |
医薬品分類/メーカー名 | 医薬部外品 / バイエルクロップサイエンス株式会社 |
有効成分名 | フィプロニル0.05%(w/w) |
商品説明 | 非常に喫食が良い餌を配合しており、一口食べるだけで十分な致死量の有効成分を配合しています。専用のケースに入れて使用する為、誤飲、誤食、混入もしづらくなっています。また、約2か月間駆除効果が持続します。 しかし、非常に高価な殺虫剤となっており、PCOがこの殺虫剤を使用する場合は追加料金が必要となる事もあります。 |
目的 | 巣から出てきにくいメスのゴキブリも駆除 |
商品名 | アドビオンLSジェル |
医薬品分類/メーカー名 | 第二類医薬品 / シンジェンタジャパン株式会社 |
有効成分名 | インドキサカルブ(S体) 0.6g(100g中) |
商品説明 | 今までにない新しい有効成分を配合している為、食い飽きや殺虫剤抵抗性を獲得したゴキブリに対しても駆除効果が期待できます。クロゴキブリ、ワモンゴキブリなど大型ゴキブリ類にも少ない薬剤量で優れた駆除効果を発揮します。 |
最後に
殺虫剤を一言で表すと「害虫を殺す化学的な物」と言えますが、特長と目的を含めて考慮すると一言では表せない事がご理解頂けたかと思います。PCOに害虫防除を依頼している方は、どのような殺虫剤を使用しているか是非ご確認下さい。発生している害虫が複数種だから、多少臭いがあっても害虫の生息数が多いから、料金が安いからこの殺虫剤しか使えないのかなど…必ず理由があってその殺虫剤を選んでいます。理由を知る事が害虫の発生を減らすヒントに繋がっていきます。