ペストコントロールの基礎知識と知って得する技術ノウハウ・情報 第12回

鵬図商事株式会社 企画部 芝生圭吾

出典元:月刊HACCP292号より

本当に業者任せで大丈夫?

当社は様々な飲食店や食品工場の方とお話させて頂く機会も多いのですが、「ゴキブリ対策は業者に任せているから大丈夫」と言われることがよくあります。その後、生息調査に同行させて頂く事もよくあるのですが、そういう会社ほど、ゴキブリ対策はおざなりで発生も多い傾向があります。業者に任せているからと、現場の発生状況や害虫駆除業者がどのように駆除を実施しているか全く把握していない事も珍しくありません。業者に任せるとどうしても他人事になってしまう事が多く、自分達でやるべき事は無いと思ってしまっているように見えます。反対にゴキブリ対策をしっかりしている会社は、自分達は何をしている。害虫駆除業者は何をしている。と自社と業者の役割分担をはっきりとお答え頂ける事が多く、ゴキブリの発生は自分事として捉えて頂いていると感じます。
害虫駆除業者は害虫を駆除するプロですが、月に1回~数か月に1回駆除作業をする位では、残念ながら、繁殖力を上回る駆除が出来ないこともあります。また、駆除作業の回数は代金に比例してしまいますので、頻繁に駆除作業を実施する事は難しいかもしれません。ゴキブリ駆除で一番重要な事は、ゴキブリが潜伏しそうな場所の日々の清掃、整理整頓です。現場と害虫駆除業者で役割分担する事で、ゴキブリの侵入・繁殖しにくい環境にすることができますので、繁殖を抑えやすく、害虫駆除業者に依頼する費用も結果的に少なく済みます。その為には、自分達がやるべきこと、害虫駆除業者がやっている事を理解する事が先決です。前々号では、ゴキブリの生息調査について説明させて頂きました。今号では、生息調査後に実施する駆除作業についてご説明させて頂きます。

ゴキブリの駆除方法

ゴキブリ防除は大きく分類すると環境的対策、施設改善対策、薬剤対策の3種類の対策を実施します。環境的対策は現場の担当者が日々実施します。施設改善対策は工事業者や害虫駆除業者が施工し、定期的な点検は現場の担当者が定期的に実施します。薬剤対策は害虫の発生が認められた時に害虫駆除業者が実施します。

環境的対策

ゴキブリが生息繁殖しにくい環境にする事で防除する方法です。具体的には整理整頓、清掃が重要となります。特に注意して頂きたい場所は、什器下です。什器下は掃除がしづらい為、ゴミが溜まりやすく、ゴミが溜まるとゴキブリの隠れ家を提供してしまう事になります。また、ゴキブリは荷物などに紛れ、持ち込まれる事も多い為、持ち込まない為の対策も必要です。特に段ボールなどに付着し侵入する事が多いので、納入された段ボールをゴミ袋などに入れて密封する事が望ましいです。清掃箇所を見直す時に参考して欲しいのが、生息調査報告書です。基本的にゴキブリが多く生息する場所は、ゴキブリが繁殖しやすい条件(餌、水、温度、隠れ家)が揃っています。整理整頓、清掃を行う事でゴキブリが繁殖しにくい条件に改善していきましょう。もし、害虫駆除業者に駆除を依頼しているなら、掃除した方が良い場所のアドバイスを貰い、日々の清掃箇所に追加しましょう。

写真:実際の飲食店の什器下から出てきたゴミ

●環境的対策に便利な資材【ゴミ掻き出し棒3段】

什器下のゴミを掻き出し清掃する為の清掃用具です。什器下にゴミが溜まっているとゴキブリの巣になってしまうばかりか、ゴキブリを殺虫剤から守ってしまう隠れ家にもなります。什器下は狭い為、ほうきなどではゴミをうまく掻き出す事が出来ません。ゴミ掻き出し棒はゴミを掻き出す為に作られた清掃用具なので、簡単にゴミを掻き出す事が出来ます。伸縮する為、普段はコンパクトに収納する事ができます。

伸縮 3段
棒の長さ 545mm~1,170mm
先端の高さ 18mm
先端の横幅 90mm

●環境的対策に便利な資材【PCOジャッキ】
什器自体を動かす事が出来れば、什器奥の清掃も簡単に出来るようになります。しかし、什器は重量もあり動かすのは容易ではありません。そこで什器を持ち上げ、動かす事が出来るジャッキです。

最大荷重 450kg
高低範囲 6.5cm~35.0cm
本体サイズ 47cm×22.8cm
上面サイズ 41.0cm×11.5cm

 

施設改善対策

ゴキブリの潜伏する隙間をパテやコーキング剤によって封鎖します。しかし、封鎖が不十分な場合や、老朽化によりパテの一部が剥がれ落ちた場合は、格好の潜伏場所となってしまいますので、定期的に点検し補修を行いましょう。ゴキブリは2~5mmの隙間があれば侵入する事が出来ますので、ほんの少しの隙間も油断せず、しっかりと封鎖する事が重要です。

写真左:什器の隙間                            写真右:劣化し剥がれかけたシーリング剤

薬剤対策

殺虫剤などの薬剤を用いてゴキブリを駆除する方法です。殺虫剤はゴキブリを殺すという対症療法的な役割を担っています。殺虫剤に触れればゴキブリを殺す事が出来ますので、速効性のある方法と言えますが、発生原因が取り除かれている訳では無いので、再度発生してしまう可能性が高いです。あくまでも対症療法です。また、殺虫剤を使用すると言っても、殺虫剤の有効成分の特長、殺虫剤の散布方法によって、駆除効果や混入のリスクが大幅に変わります。

対策をどう組み合わせるか?

ゴキブリは驚異的な繁殖力を持ち、油断しているといつの間にか大量発生していまいます。〇〇さえすればいいと、一つの対策だけでゴキブリを全滅させるのは不可能です。ゴキブリが侵入・繁殖しづらい環境整備を行い、発生が認められた時は、速やかに集中駆除するなど、複数の対策を実施する事で、はじめてゴキブリの生息数が減少します。しかし、その役割は害虫駆除業者では無く、現場の担当者でなければ出来ない事が多く含まれます。害虫駆除業者に何処を清掃すればいいのか、何処を補修すればいいのかアドバイスを貰いながら日々の対策を実施しましょう。また、薬剤対策は効果を最大限に発揮する為、様々な手法を目的に応じて使い分けています。しかし、様々な手法といっても中々知る機会が無いと思いますので、害虫駆除業者が実施する薬剤対策について簡単にご説明させて頂きます。

対策名 いつ 誰が どのように
環境的対策 毎日もしくは定期 現場担当者 什器下などのかき出し清掃を行う
施設改善対策 初回

年に1~2回の点検

工事業者・害虫駆除業者

現場担当者

シーリング剤などで隙間を閉塞する。

閉塞箇所が劣化していないか点検する

薬剤対策 ゴキブリの発生が
認められた時
害虫駆除業者 殺虫剤をゴキブリの通り道、潜伏場所に散布する

殺虫剤の散布方法によっても、効果や混入リスクは大きく異なる

単に殺虫剤を散布すると言っても様々な処理方法があり、対象害虫の種類、殺虫効果が及ばされる範囲、混入のリスクなどが異なってきます。基本的に広範囲に及ぶ処理方法ほど、混入の危険性も高くなるため、注意が必要です。

  • 例1. ゴキブリ以外にも飛翔昆虫の発生が認められる場合
    空間噴霧(ULV)を実施する事でゴキブリと飛翔昆虫の両方を駆除する事が出来ますが、室内を微粒子の殺虫剤で満たす為、食器などを養生し保護する必要があります。
  • 例2. ゴキブリのみが発生している場合
    ゴキブリの潜伏場所(巣)近くにベイト処理や残留噴霧(隙間)を実施する事で、ゴキブリの駆除効果を発揮しつつ、薬剤の有効範囲を局所的に抑える事が出来る為、混入の危険性も減らす事が出来ます。
  • 例3. 営業時間中にゴキブリが発生した場合
    従業員がゴキブリ発生時にゴキブリ駆除用エアゾールをむやみやたらに噴霧する事は、殺虫剤を空間中にばら撒く事となり、養生もされていない為、調理器具や食品に殺虫剤混入の危険性が高まります。

空間噴霧(ULV・燻煙)

殺虫剤を微粒子の霧状や煙状にして空間内に噴霧する事で触れた害虫を駆除します。特に飛翔昆虫に高い効果を発揮し、ゴキブリと飛翔昆虫両方の発生が多い時によく用いる方法です。什器奥などにゴミなどがあると、殺虫成分がゴキブリの潜伏している場所まで行き届かない事もあります。また、殺虫剤を空間内に充満させる処理方法の為、調理器具などの養生などの下準備と処理後の清掃が必要となります。空間噴霧の方法は使用する機材などで異なり、主にULV、燻煙、炭酸ガス製剤、3種類の方法があります。

  • ● ULVとは・・・
    ULVは、Ultra Low Volumeの略で、高濃度少量散布という意味になります。殺虫剤を5~20ミクロンの霧状にして空間内の噴霧する事で、殺虫剤が数時間空間内を漂う事で、害虫に接触しやすくなり、高濃度の殺虫剤が害虫に触れる為、速やかに駆除する事が出来ます。また、複雑で入り組んでいる隙間にも、薬剤粒子が流れてゆき、ゴキブリの追い出し効果が得られます。追い出し効果により、強制的に残留噴霧処理面に接触させるなど、他の処理方法と併用する事で相乗効果をもたらすことができます。
  • ● 燻煙とは・・・
    殺虫成分を煙状にして空中に浮遊させ、駆除する方法です。専用機器などの必要が無い為、簡便に使用する事が出来ます。ホームセンターなどで購入する事が出来るので、自分達で出来る身近な駆除方法の一つです。
  • ● 炭酸ガス製剤
    有効成分と液化炭酸ガスのみで構成された薬剤です。有機溶剤や界面活性剤、水等の補助溶剤を含みません。噴射剤として液化炭酸ガスを使用している為、動力が不要ですが、専用の投薬機などが必要です。

 
写真左:ULV処理         写真中:燻煙処理        写真右:炭酸ガス製剤

空間噴霧(エアゾール)

ホームセンターなどで購入できる身近な駆除方法の一つで、最も手軽に出来る駆除方法です。しかし、ガス状に殺虫成分を噴射する為混入のリスクがあるともいえます。生息確認の為に、極少量だけ使用します。このエアゾール殺虫剤に配合されている有効成分(主にピレスロイド系殺虫剤)はゴキブリを速やかに殺すだけでなく、殺虫成分に触れたゴキブリが飛び出してくる(一般的にフラッシング効果と呼ばれる)効果が期待できます。

深層ミスト

壁内や、什器奥など閉鎖・半閉鎖空間内に潜伏したゴキブリを効果的に駆除する方法です。2流体ノズルという特殊ノズルで圧縮された空気を噴射し、気流を作った後に薬剤を噴霧する事で、壁内や什器奥など、残留噴霧や空間噴霧で殺虫剤が行き届きにくい場所にも薬剤を行き届かせる事ができます。

残留噴霧(床面)

残留噴霧は最もベーシックな施工方法です。ゴキブリなどが徘徊する床面に殺虫剤を噴霧し、ゴキブリが殺虫剤と接触する事で駆除する処理方法です。床面を水洗いすると殺虫成分も洗い流れてしまう為、効果が無くなってしまうので注意が必要です。]

残留噴霧(隙間)

什器や壁など設備の割れ目・裂け目などの場所が害虫の発生個所となっている場合、その割れ目・裂け目のみに限定した残留噴霧をする事を隙間処理と言います。米国のEPA(米国環境保護局)では、食品を取り扱うエリアでの殺虫剤散布は、隙間処理もしくは、ベイト処理のみを認めています。

ベイト処理

殺虫成分をゴキブリが好む餌に混ぜ、食べさせる事でゴキブリを駆除します。成分が揮発せず、局所的な施工の為、混入の危険性が少ない安全性が高い処理方法です。ベイト剤を食べたゴキブリは、体にベイト剤を付着させたまま巣内に戻る為、巣から中々出てこない卵鞘を保持したメスゴキブリなども駆除する事が出来ます。米国のEPA(米国環境保護局)では、食品を取り扱うエリアでの殺虫剤散布は、隙間処理もしくは、ベイト処理のみを認めています。

様々な処理方法の駆除効果持続期間

処理方法によって、駆除効果の持続期間が大きく異なりますので、処理方法別の駆除効果持続期間のイメージを下記に記載させて頂きます。

  • ● 残留噴霧のみ

    残留噴霧は速効性があり、多くのゴキブリを駆除する事ができる方法ですが、あくまでも対症療法的な一時的処理です。
  • ● 残留噴霧+ULV処理

    残留噴霧のみと比較してより駆除効果を高めた方法になります。また、ゴキブリ、飛翔昆虫の両方に効果的な方法の為、飛翔昆虫の発生が多い時によく用いられる方法です。
  • ● 深層ミスト処理

    残留噴霧と比較すると、ゴキブリの潜伏場所となる什器奥などに殺虫剤が行き届くので、残留噴霧と比較して高い駆除効果が期待できます。また、什器奥などの場所は水で洗い流されたりしない場所なので、長期間の残効性が期待できます。
  • ● ベイト処理

    残留噴霧と比べ、最初は手間がかかり効果が現れるまでに時間がかかりますが、しっかりと処理すれば残留噴霧と比べ、残効期間が長いのでゴキブリの増加が少ない特長があります。長期的に低いゴキブリ指数で維持管理していく事が可能です。

 

次号予告

殺虫剤と聞くと一番に危険、危ないというイメージを持たれる方も多くいらっしゃると思います。実はゴキブリ駆除で使用される殺虫剤は全て、害虫への効力、人体への安全などを試験し、その結果を元に厚生労働省が承認した医薬品・医薬部外品です。今号でご紹介させて頂いた各種施工方法で用いる殺虫剤の効果や安全性についてご説明させて頂きます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

  • クリンタウン
  • 虫ナイ

PMPニュース396号(2021年1月)に戻る