マダニの生態と防除

一般財団法人日本環境衛生センター 橋本知幸

 2013年1月重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が国内で初めて確認されてから、マダニに対する関心が高まっています。ここではマダニの生態と防除法を説明します。

1.マダニの種類と生態

 マダニはダニ目マダニ亜目(以前は後気門亜目と呼ばれていました)に属する種類で、日本産のマダニは2科8属47種が知られています。マダニはすべての種類が発育や産卵のために動物から吸血し、人が吸血された場合、病原体が伝播されて発症するリスクがあります。
 マダニは卵→幼虫→若虫→成虫となります(写真1)が、成虫では雄と交尾せずに雌のみで産卵できる種類もあります(これを単為生殖といいます)。

001
写真1 フタトゲチマダニの幼虫、若虫、成虫(左から2匹ずつ)

 基本的には野生動物から吸血するため、動物の体の上や動物を待ち構えるために地面の落葉層の間に潜んでいたり、植物の葉の先端で動物が来るのを待伏せしたりします(写真2)。


写真2 畑脇のマンリョウの葉裏の先端で待ち構えているオオトゲチマダニ成虫・若虫

 マダニの生息環境≒野生動物の生息環境で、そのような環境は、普通は植物相も豊富で、自然豊かな環境と言えます。しかしペットや家ネズミに寄生することもあり、ときどき、家の中で発見されることもあります。また屋外に生息しているため、発生パターンは季節的な消長を示すことが多く、耐寒性の弱い未吸血幼虫は寒い時期にはあまり採集できません(図1)。住宅地周辺では次の種類が代表的と言えます。

20150105
図1 小田原市内のミカン畑内の散策路のマダニの季節消長(30分間旗ずり法による)

キチマダニ Haemaphysalis flava

 キチマダニは平地では普通に見られるマダニです。関東以西の温暖な平地では真冬でも採集されます。他のマダニに比べて体色が薄く、やや黄色みがかって見えるため、この名前が付けられています。チマダニ属は顎体が短く、胴体部後縁に花彩と呼ばれる溝が等間隔で見られます。本種は♂の第4脚内棘は細く長く伸び、♀は後方の脚ほど棘が長めです。ホストとしては鳥類、中・大型動物が知られています。

フタトゲチマダニ H. longicornis

 キチマダニと同じチマダニ属の代表的な種類で、成虫では触肢第3節背腹面に突起があり、雌雄とも脚内棘は前方ほど長めです。本種は雌雄が交尾して産卵する両性生殖系と♀のみで増殖可能な単為生殖系の存在が知られており、関東以西で単為生殖系が分布を広げていると言われています。犬を散歩中に犬に取り付いて、屋内で検出される例がしばしばあります。

ヤマトマダニ Ixodes ovatus

 上記2種とは異なるマダニ属で、顎体部が長く花彩はありません。人寄生例が最も多いマダニで、家ネズミなどにも寄生しています。やや北方系の種類ですが、マダニ属の中では最も分布が広く、住宅周辺でも見られると言ったほうがよいでしょう。第2、3脚基節の半分くらいに浮縁と呼ばれる光の反射の変わる肥厚部があり、幼虫・若虫は触肢基節の内外縁に明瞭な突起があるのも特徴です。

2.マダニによる被害

咬着の害

 マダニによる吸血は蚊やブユのように短時間ではなく、数日〜2週間に及ぶことがあります。このためマダニの吸血行動を「咬着(こうちゃく)」と呼んで区別することが多いようです。マダニが咬着する部位は種類によって傾向がありますが、人の場合は膝の裏、陰部、胸、脇などがやられます。咬着時には口下片という部分を皮下に差し込み、いわゆるセメント物質というものを流し込んで固めてしまいます。刺されてから1日以内であれば、ピンセットで口下片の部分をつかんで(体をつかんではいけません)引き抜ける場合もあります。この段階では痛くもかゆくもないので、気がつかないこともあります。その後マダニの体はみるみる大きくなっていきますが、日数が経過するとマダニの口器はがっちりと固まってしまうので、自分で引き抜くことはできません。お風呂に入っても落ちることはありません。無理して引き抜くと口器が皮下に残ってしまうので、皮膚科で切除してもらうことが必要です。このように蚊の吸血の場合と違って咬着期間の不快感は大きいと思われます。

感染症の伝播

 マダニの咬着によってもたらされるのはマダニ媒介性感染症です。感染症法では届出の必要な感染症を規定しており、このうちマダニによって媒介される可能性が指摘されている感染症としては、回帰熱、Q熱、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、ダニ媒介脳炎、日本紅斑熱、ライム病、野兎病が挙げられます。病原体はスピロヘータや細菌ですが、SFTSではウイルスです。ただ、野生動物からどのような経路で人に感染するのか不明な部分も多く、その研究が進められています。マダニ媒介性感染症の中で、国内症例の最も多いのは日本紅斑熱で、これまでに200例近くが報告されています。感染症法に規定されていないマダニ媒介性疾患として、極東紅斑熱、タムラエ感染症、ヒトアナプラズマ症、ヒトバベシア症、ヘルベティカ感染症なども知られています。

3.マダニの防除

 近年のSFTS症例の増加によって都市部の公園でのマダニ発生状況が調査されるようになってきましたが、樹木や藪が多い公園では意外と普通にマダニが生息していることがわかってきました。マダニがいるからと言ってすぐに駆除しなければいけないということはありませんし、そのような場所では殺虫剤の散布も難しいのが現状です。あまり過敏になる必要はありませんが、不用意に草むらに入り込んだり,寝転がったりしないほうがよいでしょう。また山の中に入ろうとする人は露出部をできるだけ減らし、ズボンの裾なども靴下や靴の中に入れてしまうのが好ましいですが、マダニ密度が高ければ忌避剤を利用したり、マダニが待伏せできる藪の刈り込みをして人の動線を広く確保することが望まれます。忌避剤として有効なのはディートを含有したもので、マダニはディートの処理面を嫌がって落下します。また、そのような場所で活動した後には必ず、お風呂で体をすみずみまでチェックし、咬着されていないか確認する必要があります。
 自分の所有地に野生動物が出没して、マダニが多発しているような状況では殺虫剤の散布を考えることもできます。マダニの殺虫剤感受性は高く、ピレスロイドでも有機リンでも、所定の薬量で処理すれば、速効的な効果が得られます。
 野生動物の中でもシカやイノシシはマダニの重要な吸血源となりますので、これらの大型動物が出入りできないようにフェンスや電気柵を設置するのも一つの環境的対策になります。
 一方、行政サイドでは管理している公園にマダニがいることを公表するのを避ける傾向が強いので、ほとんどの公園来訪者は何の危機意識もなく、花見や寝転がって遊んだりしています。マダニ媒介性感染症がさらに増えてくれば、今後はこれまでにない対応が必要となってくるでしょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

  • クリンタウン
  • 虫ナイ

PMPニュース333号(2015年1月)に戻る