建設業者の防虫対策

8.光と昆虫

稲岡 徹  元 (株)竹中工務店 エンジニアリング本部

1.はじめに

 今回は光と昆虫の関係を取り上げました。光に関わる防虫対策についても説明しますが、その前にもっと広い視野から、この問題を考えてみましょう。

2.養老孟司氏の心配

 ベストセラー「バカの壁」など数多くの優れた著作を発表され、昆虫の研究家としても高名な養老孟司氏が、最近出演されたテレビ番組で、昆虫を取り巻く環境の中で、最も心配なものとして、明る過ぎる照明の氾濫を挙げておられました。たとえば、あまり照明のなかった場所にコンビニエンスストアのような建造物が建てられると、当初は、毎夜大量の昆虫が飛来するが、数年経つとその数は激減してしまう、これは24時間煌々と輝き続けるコンビニの照明が昆虫の大量殺戮を引き起こした結果ではないか、と言うのです。
 そのような事例は、少なからず存在すると私も思います。それでは、夜間飛翔する昆虫は、何故、電灯などの人工照明に大挙襲来するのでしょうか。

3.昆虫の走光性の正体

 それはこれらの昆虫が正の走光性(刺激源である光に近づこうとする性質)を持っているからだ、と説明されます。このように言われると、まるで昆虫は光が好きで、それに向って飛んで行くような印象を受けます。しかし、本当はそうではないらしいのです。この現象を説明する最も有力な仮説は次の通りです。
 夜間飛翔する昆虫は、飛ぶ方向を定めるのに光を利用している。それは月や星の明かりであった。これらの光源は無限遠の彼方にあるので、これを目印に飛ぶと真っすぐに飛ぶことができた。ところが人間が電灯のような人工照明を発明した現在、昆虫は間違えてこれらの光源を目印にしてしまう。電灯は無限遠ではなく、至近距離にあるため方向感覚は狂い、次第に螺旋を描くように明かりに接近し、遂には飛んで火に入る夏の虫となる。この仮説を図解したのが図1です。

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図1

4.昆虫と人間の視覚特性の違い

 視覚という観点から昆虫と人間を比べると、様々な相違がありますが、可視光線の波長帯域の違いもその一つです。大まかに言うと、昆虫の可視域は波長300nmから600nm、人間は400nmから700nmで、昆虫には見える紫外線が人間には見えず、人間に見える赤色光が昆虫には見えません。さらに言うと、視覚的に昆虫が最も敏感に反応するのは、波長が400nm以下の紫外線に対してです。光を利用した防虫対策とは、すべて昆虫と人間の可視域の違いに基礎を置いています。

5.紫外線をカットすることによる防虫対策

 前項で述べた、昆虫が紫外線に特に敏感に反応する性質に着目して、人工照明に含まれる400nm以下の波長をカットする防虫対策商品が多種販売されています。
 何年か前、市販されている防虫フィルムのうち代表的な製品の防虫性能を調べたことがあります。その結果は図2に示した通りです。無色透明タイプでは、対照に比して昆虫飛来数はおよそ5~40%減少、着色タイプでは60~75%減少で、後者の方が明らかに防虫効果が大きいですが、フィルムを通過した光が不自然な色を帯びることと、可視光の一部もカットしているので、人の感じる明るさが低下するという欠点は避けられません。

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図2

 他に、私自身が調査した防虫用照明としては、純黄色蛍光灯(白色蛍光灯に対して飛来数減少効果約70%)、高圧ナトリウム灯(水銀灯に対して約50%)があります。
 近年、急速に普及しつつあるLED照明は紫外線を出さず、一般的な蛍光灯に比べて、高い防虫効果があると言われています。残念ながら私自身は検証した経験はありませんが、信頼できる後輩や知り合いの研究者からの情報では、純黄色蛍光灯とほぼ同等の防虫性能とのことです。
 紫外線カットという方法による製品の防虫効果は、一般的な照明に対して、良いもので70%前後昆虫の飛来を減少させる程度、と言えそうです。

6.おわりに

 前項まで、昆虫の種やグループの違いには触れずに述べてきましたが、もちろんすべての昆虫が光に対して同じように反応するわけではありません。たいへん大雑把な表現で恐縮ですが、ユスリカなどハエ目の昆虫は、紫外線をカットした光源を使用しても、他の目の昆虫ほど飛来数が減少しないように思われます。
 人間に大きな恩恵を与えている人工照明ですが、昆虫にとって、引いては自然環境にとっては厄災の源と言わなければなりません。屋内はともかく、野外では極力紫外線照射量の少ない光源を用いて、昆虫や自然環境への悪影響を少しでも減らしたいものです。

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