PMPのための微生物制御と ビジネス化のヒント(5)

生物医学研究所・PCJ研究会代表 青木 皐

衛生とは?

 「衛生」という言葉はよく使われます。「衛生設備」「衛生陶器」「衛生資材」など目に見えるものに対して、あるいは「衛生的行動」「衛生管理」などにも使われます。これらの言葉から連想される「衛生」は、きれい、清潔というイメージです。横小文字ではSanitation:サニテーションと表記されることが多いようです。
 この衛生という言葉は大和言葉ではなく、明治になって今の厚生労働省、少し前の厚生省の前進である 「衛生局」ができた時、時の大臣が英語のHygiene: ハイジーンを中国の書物から「衛生」という言葉にしたもので、歴史は浅いものです。今では中国も台湾も同じ意味で「衛生」という言葉を使っているようです。さて、衛生という言葉の意味ですが、単にきれいとか清潔といった意味で理解することが多いのですが、きれい・清潔の感覚には個人差があり曖昧になっています。そのため、衛生的行動を取りましょうといっても統一行動が取れずにいます。食品工場や病院のマニュアルを見ても「衛生的に‥‥、清潔を心がけましょう‥・・」などと表記されていますが、同じ行動になっていません。まず大切なのは言葉の共通理解です。
 「衛生」の「衛」は守る、「生」は生命を意味します。すなわち生命を守ることが衛生です。単にきれいとか清潔といったあやふやなものでなく「命に関わる」ことを指しています。すなわち「非衛生」とは命に関わりますよ!という意味です。

2つの衛生

 大きく分けて衛生には2つの衛生があります。「見かけの衛生」と「実質の衛生」です。衛生というとすぐに「殺菌・消毒」という言葉と行動を考えがちですが、その前の衛生が 「見かけの衛生」です。 まず、誰が見ても「きれい」「整っている」「ゴミがない」「すっきりしている」「清潔感に溢れている」という言葉で表されるような「状態」を見かけの衛生といいます。本当に求められるのは「実質の衛生」です。そのためには薬剤を使って殺菌・消毒が不可欠なことがあります。ところが見かけの衛生すらできていない環境に薬剤処理しても効果は半減します。 HACCPなどでいわれる、一般的衛生管理が見かけの衛生です。
 そして、実質の衛生はいわば「微生物対策」です。必ずしも薬剤を使用する必要はありません。まず、物理的な方法を考え次に化学的対策として薬剤使用を考えます。例えば紫外線による殺菌で実質的な衛生を実施しようとした時、その殺菌対象にホコリが付着していると紫外線殺菌効果は半減します。そこで見かけの衛生である、ホコリ除去が必要となります。まず、見かけの衛生、そして実質の衛生を考えます。

5Sとは

 それでは見かけの衛生と実質の衛生を具体化するにはどうしたらいいのでしょうか?あるいは衛生マニュアルや行動規範を作る時にどうすればいいのでしょうか?それは5S活動を推進することです。(研究者によっては7Sといわれる方もおられますがここでは5Sで進めます)まず、5Sの共通認識が不可欠です。5つのSとは、整理、整頓、清掃、清潔、習慣(躾)の頭文字を取って5Sといっています。整理、整頓、清掃、清潔、習慣という言葉は、あまりにも一般的な言葉なので、誰しも理解しているだろうと思っていることが間違いです。言葉や文字を知っていても、どう行動するかは、あまりにも個人差が大きいので、5S活動が形骸化しています。

 まず「整理」とは除去することです。その環境での不要品を徹底的に排除します。壁に残ったセロハンテープや押しピンは不要です。ほとんど見ない張り紙やカレンダーも不要です。棚や台、使わなくなった機械などを排除するだけでなく。セロハンテープやピンまで排除します。
 「整頓」とは必要なものを必要な量だけ、決められた場所に配置することです。定位置・定量管理です。それらができてからはじめて「清掃」ができます。
 「清掃」とは、拾う・掃く・拭く・磨く、の4つの行動です。まず拾うのです。目をゴミに近づけて、そのゴミが「何?」なのかを確認して拾います。次に適切な機材でゴミを掃きます。場合によっては掃除機で吸い取ります。適切な機材とは、そこにあるゴミをきちんと捕集できるかどうかを検討することです。そして、濡れた布で拭きます。このことによりより小さなホコリが除去されます。あるいは水を流して洗浄することもここに含めます。
 仕上げは「磨く」、すなわち濡れた表面の水分を取り去ることです。整理・整頓・清掃で大切なのは、いつ実施するかです。汚れが目立ってからでは遅すぎます。年・月・週・日単位からタイムリーまで頻度の考慮が必要です。そして、出来上がり評価基準をつくります。ここまでが 「見かけの衛生」です。
 次に実質の衛生である「清潔」行動が来ます。清潔行動とは、いわば 「微生物制御」対策です。清潔は環境と人の両方です。人の清潔での基本行動は「手洗い」です。いつ・どのように手洗いするかが統一されなければ意味がありません。個人の資質に頼るのではなく、職場の基準が必要です。手洗いの後に手指消毒する基準も必要です。微生物は目で見ることができませんから、より具体的な衛生行動が不可欠となります。環境の殺菌・消毒もここに入ってきます。殺菌剤・消毒薬の選定、処理方法、処理タイミング、評価も合わせて考えます。これらをまとめて行動規範にして習慣づけなければ衛生は維持できません。そこで、「習慣」とはマニュアル化です。マニュアルは「行動」が示されなければダメです。

「環境品質マネジメント」という考え方

 PMPの役割は、その与えられた環境の品質を高め、その環境でなされる活動、例えば食品製造、患者治療などの品質を高めることに役立つことです。食品、患者の治療そのものに直接タッチはできませんが、より良い影響を与える「環境」をつくり、その環境の「品質」を高めることです。逆に悪影響を与える因子は徹底的に排除した管理システムを提供せねばなりません。清掃方法や使用ケミカル、薬剤から業務を行う社員の行動まで配慮が不可欠です。
 そして、高品質の環境が長期間維持できる方法を考えるのがL型管理です。月の1回、PMPが作業をした時だけ高品質では困ります。患者は四六時中在室しており食品は毎日製造されていることを前提に「環境品質マネジメントシステム」を計画・実行することです。不具合が生じたとき、あるいはその他条件が変更された時、システムをチェックして、次の新しい行動計画を組み込みます。このことがマネジメントサイクルであるPDCAサイクルです。
 L型管理システムを推考するにはお客様の協力がなければできません。衛生の概念研修から、5Sの共通認識をして頂くための相互勉強会が大切になります。それ以上に、自社が 「環境マネジメント」商品を育てるため、新しい情報、新しい知見をどん欲に吸収し、勉強してゆかねばお得意さまに失礼です。

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