コバエ対策IPM

鵬図商事技術顧問ウィリアムH.ロビンソン,Ph.D

 最近のアメリカのコバエ対策IPMプログラムでは、コバエ類が発生する原因になる排水管壁にこびりついた油脂や有機物を、生物学的に分解する、微生物を利用したクリーナーが使われるようになりました。
 これらの生物学的防除剤はチョウバエ、ショウジョウバエ、ノミバエなどのウジの発生源となる有機物を分解する細菌類が有効成分です。(Robinson W.H.,HOHOT PMP NEWS,Vol.281)

訳者注:わが国では微生物利用のパイプクリーナーはいまだ一般的ではないが、コバエ対策剤のひとつとして、市場導入の機会も近いと考えられる。ここでは、わが国のPCO業界でも防除が盛んに行われるようになったコバエ類の防除対策について特集し、それらの防除に泡施工が有効なことについて述べる。

ショウジョウバエ類の防除


 赤目のショウジョウバエ類と黒目のショウジョウバエ類では、習性と食性が異なるので、まずは発生しているショウジョウバエ類の目の色を見分ける必要があります。
 基本的な防除戦略は、①成虫の駆除、②発生源の除去、③清掃の徹底です。

赤目のショウジョウバエ類の防除

①成虫の除去
発生源の近くで、風の流れがないところに、ライトトラップを設置すると、効果的に捕獲することができます。

②発生源の除去
すべての野菜・果物置き場を調べます。傷んだ野菜・果物をすべて捨て、その場所を石けん水で、徹底的に清掃します。発生源が分かりにくい場合は、成虫が飛んでいるのが見られる場所に、数多くの粘着トラップを数日配置して捕獲数を調査します。使用する粘着トラップは、ショウジョウバエ類の発生場所を考えると、水に強いトラップが望まれます。またショウジョウバエ類は壁に止まることが多いので、壁に取り付けられる縦型のトラップが良いでしょう。捕獲数の多い場所を中心に、もう一度トラップを増やして調査すれば、発生源をほぽ確認できます。

③発生源を除去した後は、再度発生しないように、定期的な清掃の実施が重要です。定期的清掃と同時に粘着トラップを配置して、定期的にモニタリングして発生がないことを確認することも重要です。モニタリング期間は、ショウジョウバエ類の発育日数を考えて、冬場で2週間から1ヶ月、夏場で1週間から10日間が良いでしょう。

黒目のショウジョウバエ類の防除

①成虫の防除
 成虫は、キッチンの壁や天井で休んであまり飛翔しないため、ライトトラップにも僅かにしか誘引されません。腐敗した有機物の臭いを好むため、食酢などにもあまり誘引されません。
 この仲間は壁にとどまり、頻繁には飛ばないため、発生した成虫をすぐにノックダウンさせるために、空間噴霧(食品や食器を養生した後、キッチンに誰もいない時に)が使用されることが多いです。

②発生源の除去
 すべての排水部及び壁隅の部分を洗います。腐敗した有機物が黒目のショウジョウバエ類の主な発生源です。幼虫は、台所内の様々な腐敗が進んだ有機物上に大量に増えた細菌を食べます。発生源が分かりにくい場合は、粘着トラップでの調査をおこない、数多く捕獲された場所を中心に清掃して下さい。

③再度発生しないように定期的な清掃をおこなって下さい。床や排水溝の亀裂など構造的な問題で、有機物が堆積しやすい場合は、可能な限り補修して下さい。赤目のショウジョウバエ類と同様なモニタリングも必要でしょう。

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チョウバエ類の防除


 チョウバエ類の防除を成功させるためには、次のことを理解する必要があります。
 ①幼虫が有機物の中で育っていること、そしてしばしば排水管の中で発生していること、②殺虫剤や強力な排水洗浄液を使用しても、チョウバエ類を完全駆除することは通常できないこと、③最も効果的な方法は、手や洗浄器具を使用した物理的な方法で排水管を洗って、有機物を取り除くことです。一度排水管をきれいにしてしまえば、後は定期的にバイオクリーナー(有機物分解細菌製剤)を使用することで、有機物が排水管に付着しないようになります。こうすることでチョウバエ類の繁殖場所を作らないことにもなります。

 防除作業の第一歩は、厨房やバスルームでチョウバエ類の繁殖場所となっている排水管を見つけ出すことです。繁殖場所になる排水管は、頻繁に使われ常に湿っており、餌や住み家になる有機物片があります。バスルームではシャワーやバスタブの排水管かも知れませんし、厨房では大型の皿洗い機に直接つながる排水管か、もしくは調理台下の排水管かも知れません。普段水を流さない排水管は乾燥しているため、チョウバエ類の幼虫は発育することができません。成虫は繁殖場所から、遠く離れることはありません。ですから成虫が見つかる場所付近の排水管のインスペクションは効果的な戦略です。 
 チョウバエ類の防除に、排水管の幼虫駆除を目的としたピレスロイド系殺虫剤の使用は避けるべきです。何故なら、それは建物から離れた水系の汚染、魚類等への影響につながるかも知れないからです。
 もし、一時的な問題解決のために、急いで防除する必要がある場合、熱湯を発生源である排水管に流し込む方法があります。この方法は、多くのチョウバエ類幼虫を殺すことができます。しかし詰まった有機物片を取り除かないと、根本的な解決にはなりませんし、やがて再発がおこってしまうでしょう。

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ハヤトビバエ類の防除


 ハヤトビバエ類の防除を成功させるためには、①ハヤトビバエ類は排水や浄化システムに由来すること、②ハヤトビバエ類はとても狭い(1mm)隙間をすり抜けることができ、実際に被害のある場所から、かなり離れたところで成虫になっている場合があることを、理解することが重要です。ハヤトビバエ類を正確に同定することも必要です。なぜなら、ハヤトビバエ類に似ているノミバエ類も、同じように壊れた排水管から発生するからです。最も分かりやすい見分け方は、後脚跗節の広がりを確認することです。さらにノミバエ類は、ハヤトビバエ類のように、数多く出てくることは普通ありません。

 防除の第一段階は、成虫が家もしくはビルディングに、どこから入ってきているかを見つけることです。侵入口を見つけることは、幼虫がどこで発生しているかを考える指標となります。侵人口が分からない場合は、ノミバエ類の管理でご紹介しました、コバエ用トラップでの調査が力を発揮します。誘引物を入れないコバエ類トラップを短い間隔で数多く置き、捕獲数を比較します。誘引物がない場合、捕獲数と発生源からの距離は、おおむね比例すると考え、最も多く捕獲されたトラップの近くを念入りに探すという方法です。床の排水溝から上がってくる成虫は、排水管に壊れた部分があることを示しています。幼虫が浄化槽で発生している場合、多数の成虫がトイレ、特に1階のトイレで見られるでしょう。もし下水システム(地下タンクや排水パイプ)が古く、かつ定期的清掃をおこなっていなかった場合、発生源は浄化槽であるかもしれません。
 
 殺虫剤は、建物内に入ってきた成虫を殺す時だけに使用します。幼虫の防除はとても困難です。もし下水システム内で発生しているのであれば、定期的な清掃でハヤトビバエ類幼虫を防除することができます。発生源が下水管の場合、壊れたり・漏れたりしているパイプを、動かしたりとりかえたりする必要があります。ハヤトビバエ類の成虫が室内外に多数いるということは、下水管や汚水を排水するシステムに、何らかの障害があることが明らかです。ハヤトビバエ類は群れているところから、それほど遠くへは移動しませんので、現場を注意深く探せば、どこに発生源があるか見つけることができるでしょう。

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