トコジラミ防除

鵬図商事技術顧問 ウィリアムH.ロビンソン,Ph.D

 トコジラミは世界中で増加しており、現在では住宅、ホテル、その他の商業施設において深刻な問題となっています。トコジラミのような吸血性昆虫は、旅行用の荷物やクッションつきの椅子、ソファー、中古のベッド(フレーム、マットレス、スプリングマットレス)などの家具に潜んで建物から建物へと伝播します。一旦住宅やホテルへ侵入したトコジラミは屋内に設置されたケーブルや壁の中の電気配線を伝って部屋から部屋へと広かっていきます。
トコジラミのような吸血性昆虫の防除には次のような知識が必要です。
1.トコジラミの生態と習性
2.調査手順
3.液剤を用いた防除方法

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1.トコジラミの生態と習性

 トコジラミは一年中活動しますが、夏の終わりから秋にかけてより活発になります。
たいていの場合は寝室に発生しますが、成虫と老齢幼虫はマットレス、スプリングマットレス、家具などに潜み、こういった家具と一緒に他の部屋に移動する場合があります。
 トコジラミは夜行性ですので、人を吸血するのはたいていの場合夜間就寝中です。 トコジラミの刺した跡は蚊の刺し跡と似ており、赤く小さく腫れ、かゆみをともないます。 トコジラミに吸血された後の反応は人それぞれ異なり、小さな腫れの場合もありますが、それぞれの刺し跡周辺が赤く大きく腫れあがる場合もあります。
1)ライフサイクル
 トコジラミの雌は1週間に6個から10個の卵を割れ目や裂け目に産み付けます。産み付けられた卵は表面の糊状のものでしっかり着床されます。卵は10日ほどで孵化します。幼虫は、成虫になるまでの5齢ある幼虫期のそれぞれの過程で最低1回ずつ吸血します。6週間から8週間で卵から成虫へと成長しますが、気温が高めなら3週間で成虫になります。
 トコジラミの卵は片方の端が環状に開いているのが特徴です。トコジラミの卵はとても殺虫剤の影響を受けやすく、卵に直接殺虫剤を噴霧した場合や、殺虫剤を噴霧した箇所に産み付けられた卵は孵化しません。
2)習性
 日中、トコジラミは割れ目や裂け目に潜むことを好み、夜間潜み場所から這い出てきます。発生している部屋のトコジラミの成虫や幼虫はベッドフレームの穴、スプリングマットレスの中やマットレスの縫い目に潜みます。トコジラミはベッドのヘッドボードの下、ベッドに近い幅木のきわなどにも隠れています。その他の潜み場所としてはベッド横のライトスタンド、化粧台やクローゼットです。トコジラミの成虫は数ヶ月から1年間も吸血せずに生存することができます。通常トコジラミは成虫と幼虫からなる大きなグループを形成します。
3)トコジラミの侵入源
トコジラミの発生源には次の2つが挙げられます。
①成虫、幼虫若しくは未孵化の卵が旅行用の荷物、家具、生活用品とともに持ち込まれる場合。
②既にトコジラミが発生している隣室から這ってくる場合。
 トコジラミは屋内の害虫であり、屋外では発生しません。時としてトコジラミはネズミ、家で飼われているペットから吸血することもあります。長い距離を移動するときは人の荷物にくっついて移動します。短い距離の移動は、トコジラミは優れた匍匍能力を有しており、匍匍によって行います。
 ホテルで発生するトコジラミはたいていの場合、旅行者の荷物に潜んで客室に持ち込まれます。 トコジラミが発生している客室で成虫や幼虫はベッド付近にある荷物やクローゼット内に置かれた荷物に侵入します。旅行客はトコジラミの潜んだ荷物と共に宿をチェックアウトする事になります。雌成虫は旅行者の荷物の中に卵を産み付け、その卵は1週間ほどでしてから別のホテルの客室若しくは旅行者の自宅で孵化するのです。
 同様のトコジラミ発生シナリオが、トコジラミの発生している部屋の家具などを別の部屋に移動させる場合にもあてはまります。一旦、部屋や物にトコジラミが繁殖すると、成虫と老齢幼虫は数ヶ月間吸血しなくても生存ができるので、発生は長期間続きます。 トコジラミは人やその他の恒温動物の存在を近くに察知した際に再び吸血を行うのです。
4)トコジラミの潜み場所
 トコジラミは、発生した部屋の中に均一に分布しているわけではありません。大半はベッドなど人が寝ている場所やソファーなど人が長時間休息する場所近くに潜んでいます。
 寝室やホテルの客室ではトコジラミの約70%はベッドのヘッドボード、フレーム、スプリングマットレスやマットレスのベッドなどの周辺に潜んでいます。約20%がベッドに近い場所にあるライトスタンド、化粧台などの家具に潜み、約7%がベッド沿いの幅木に潜んでいます。
5)屋内における移動
 トコジラミは羽をもたないので、建物内の他の部屋に移動するには匍旬するしかありません。成虫や老齢幼虫は水道の配管、電気や電話配線、その他のケーブル、壁の中の換気装置を伝って移動できます。壁の内側へはベッド付近のコンセントや幅木の隙間から入り込みます。
 アパートなどの集合住宅やホテルなどでは、すでにトコジラミの発生している部屋から近隣の部屋へと一般的に移動していきます。アパートなどの集合住宅、ホテルなどでは部屋と部屋を仕切る壁を対称にベッドがあるといった似たような造りが一般的で、部屋と部屋が電気の配線や水道管などでつながっています。集合住宅などにおけるトコジラミの防除計画を立てる際に、トコジラミの隣室への移動する行動パターンを考慮する必要があります。

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2.調査手順

 トコジラミ防除計画の最初にやることは現場の入念な調査です。次の箇所は、調査において特に重要な箇所です。
1)マットレス
よくトコジラミの痕跡が見つかるのはマットレス端の縫い目です。縫い目沿いや、スプリングマットレスとの境目の赤茶色の染み(排泄物)はトコジラミの痕跡です。縫い目沿いや、スプリングマットレスとの境目でトコジラミの卵が見つかることもあります。 トコジラミの痕跡が見つかったマットレスは徹底的に洗浄し、トコジラミと卵を除去しなければなりません。
2)ベッドのヘッドボード
 ベッドのヘッドボードが壁に取付けられている場合は、ヘッドボードを壁から取り外してください。ヘッドボードの裏側、側面の割れ目、裂け目がトコジラミの潜み場所になりますので入念に調査してください。壁側、ヘッドボード側の取り付け金具も調査してください。ヘッドボードが布にくるまれている場合は、その縫い目も入念に調査してください。
3)ベッドフレーム
 ベッドフレームの金属と木部の交差する箇所の裂け目はトコジラミの潜み場所、産卵場所になります。ベッドフレームの最も効果的な調査方法は、全ての潜み場所を調査する事が出来るようにフレームを分解することです。
4)スプリングマットレス
 スプリングマットレスはよくトコジラミが見つかる場所です。スプリングマットレスを覆っている繊維カバーやその縫い目はトコジラミの潜み場所や産卵場所となります。スプリングマットレスの木製フレームや薄板も成虫や幼虫の潜み場所となりますので調査してください。
 スプリングマットレスの裏底の布を取り外してスプリングマットレス内部も調査してください。懐中電灯を使ってマットレス内部の隅、布の縫い目、薄板とフレームの交差する箇所を調査します。
5)寝室内の家具
 ベッド横のテーブルやライトスタンドの裏側と底のすき間や狭い割れ目を調査してください。ベッド付近の全ての家具を調査しなければなりません。それらの家具は殺虫剤噴霧処理対象になります。
6)荷物台
 ホテルの客室には金属製の折りたたみ式荷物台や化粧台が備えられています。荷物台や化粧台にトコジラミが潜んでいる場合もありますので、これらの家具も調査してください。
7)幅木
 トコジラミは幅木と壁の狭い隙間に潜んでいますが、特にベッドに近い場所の幅木を好みます。ホテルの客室では絨毯の端を伸ばし、幅木の代わりになっている場合があります。そのような部分はとても重要な調査箇所です。木製の幅木を調査する場合は上部の隙間を注意深く観察してください。トコジラミの発生状況が深刻な場合は、幅木の裏の壁面内部にまで及んでいることもあります。
8)コンセントとケーブル取出し口
 コンセントの差込口や電話、テレビケーブルは一般的にベッドやベッド横のテーブルの近くに位置しています。これらの箇所もトコジラミの潜み場所となると同時に、それらを伝い隣室への侵入経路になります。調査のためにコンセント差込口のカバーを取り外してください。カバーを取り外すことによりカバーの内側や内部のケーブルが収納されているボックス内に潜むトコジラミを見つけることができます。

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3.液剤を用いた防除方法

 トコジラミの防除は事前調査で見つけた潜み場所を中心に行います。室内やトコジラミが発生したベッドフレームや家具の防除には液体の殺虫剤を用います。2回目以降の施工では発生している箇所と発生の可能性の高い箇所全てに液剤を処理します。
1)寝室の家具
 ベッド横のテーブル、ライトスタンドの裏側と底のすき間や狭い割れ目に液剤を処理します。ベッドに隣接する全ての家具を処理します。椅子、ソファーもベッドと隣接していなくても、トコジラミの潜み場所になりますので処理してください。もしそれらの家具にトコジラミが発生している場合は、家具の底部も液剤を処理します。
2)カーペット
 住宅の寝室やホテル客室のカーペットと壁との境目と部屋の隅々に液剤を処理します。
3)コンセントとケーブル取出し口
 コンセントの差込口や電話、テレビケーブルは一般的にベッドやベッドの横のテーブル近くに位置しています。これらの箇所もトコジラミの潜み場所となると同時に、それらを伝い隣室への侵入経路になります。コンセントカバーの回り、カバーを取り外した内側、内部に液剤を処理してください。カバーを取り外して内部を噴霧するときには液剤が電気配線にかからないように注意しましょう。
4)殺虫剤の使用方法
 割れ目・裂け目施工を(B&Gの自動噴霧器を使って)ファンパターンを用いることで、カーペットと壁のきわ、スプリングマットレスの繊維カバー、幅木やスプリングマットレスの薄板のような塗装木製品や生木木製品にいたるまでトコジラミの潜み場所に液剤を到達させることができます。
 施工対象箇所の高さ約45cmから粗めのファンパターン噴霧することにより対象箇所全体をむらなく、必要以上に濡らすことなく噴霧できます。
5)幅木
 幅木に噴霧する場合は、幅本から約45センチ離れた位置から殺虫剤を散布することにより幅本上部と幅木とカーペットの境目に液剤が行きわたります。
 ベッドに隣接した幅木のきわの内側に液剤を処理する際には、割れ目・裂け目施工用の(B&Gの自動噴霧器を使って)CCチップを使用してください。これは、幅木の裏側に液剤を到達させるためです。
 ピンストリーム噴霧でも幅本上部に液剤を噴霧することができますが、これはCCチップ噴霧ほど効果的ではありません。
6)カーペット表面
 ノズルをカーペットから約45センチの高さに持ち、長い帯状に噴霧してください。噴霧した帯状の部分がそれぞれ15cmから20cmほど重なるように噴霧することにより、処理箇所全体に均一な噴霧をすることができます。過度の液剤処理によりカーペットを濡らさないように注意しましょう。
7)殺虫剤抵抗性
トコジラミ防除用として登録されている薬剤のほとんどは天然除虫菊エキスかピレスロイド系の薬剤です。アメリカ合衆国、オーストラリア、英国及び欧州を含む複数の国でいくつかのピレスロイド系薬剤に対するトコジラミの抵抗性について報告があります。
 これらの報告では、場合によっては通常の用法より高濃度の薬剤の使用が必要性としています。全てのトコジラミがピレスロイド系薬剤に対して抵抗性を備えているわけではありません。通常このような抵抗性を備えたトコジラミの発生は、長期間のピレスロイド系薬剤の使用と、おそらく十分な量の殺虫剤が使われなかったことで生じます。徹底した調査による薬剤散布を行えば通常1回から3回の施工で防除できます。
①生態
 トコジラミは特にピレスロイド剤で処理された場所に近寄りません。しかしながら薬剤残澄をトコジラミが避けない場合もあります。それは餌の存在です、即ち温かい人体にトコジラミは強く引き寄せられ、吸血するために薬剤処理された箇所でも避けることなく這い出してくるのです。
 吸血後、トコジラミは再度薬剤処理された箇所を這って潜み場所に戻っていきます。そして、そこには他のトコジラミが潜んでいます。他のトコジラミから生じる集合ホルモンにトコジラミは強く引き寄せられ、潜み場所に戻るために薬剤処理された箇所を這いまわされることをいとわないのです。
②施工
 トコジラミ防除の失敗をトコジラミの薬剤抵抗のせいにすることはできません。完璧な調査と殺虫剤の徹底した散布とともに、場合によっては薬剤を使用しない防除方法も併用することによりトコジラミの防除は可能です。成虫、老齢幼虫、孵化したばかりの幼虫を防除するには数回 (2回から4回の)防除作業が必要です。

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