マダニに刺されてしまったら

 「マダニに血を吸われるだなんて、想像しただけで身震いがする!」という方はたくさんおられると思います。でも、もし運悪くマダニ類に食いつかれてしまったら(写真1)どう対処したら良いのでしょうか?


写真1 皮膚に食いついたヤマトマダニ雌成虫

 マダニ除去については、web上にも多くの情報が載っていますが、中には不正確なものも散見されます。そこで、今回も前回と同様、『招かれない虫たちの話 ―虫がもたらす健康被害と害虫管理』(東海大学出版会)に私が執筆した内容に沿って、マダニ類に食いつかれてしまった後の処置について説明します。

1)できるだけ早く除去する

 マダニ類に食いつかれてしまった時、もっとも大切なことは、できるだけ早く除去することです。
 ご存知のとおり、マダニ類は様々な感染症を媒介します。こうした感染症の病原体は、人の体内へすぐに侵入するわけではありません。病原体の種類によって時間は異なりますが、マダニ類が皮膚に食いついてからある程度の時間が必要なのです(例えば、ライム病なら48時間)。ですので、マダニ類を早く除去すれば、それだけ感染のリスクを減らすことができます。
 また、食いつかれて時間が経つと、マダニ類の唾液腺から分泌されるセメント様物質により、マダニ口器が皮膚へ強固に固着します。こうなってしまうと、除去はいっそう困難になります。

2)自分で取り除いても良い

 多くのマスコミや自治体は、もしマダニ類に食いつかれたら、自分で取り除くのではなく、医療機関で除去してもらうよう推奨しています。こうした推奨は、除去に失敗して、マダニ類のちぎれた口器が皮膚の中に残ることを危惧しているものと思われます。でも、マダニ類全般の幼若虫とチマダニ属成虫(写真2)の口器は短いため、一般の方が自分で除去することは難しくありません。


写真2 ハシブトマダニ若虫(左)とヤマアラシチマダニ雌成虫(右)

 また、SFTSや日本紅斑熱などの危険な感染症のことを考えたら、少しでも早くマダニ類を除去した方が感染リスクを減らすことができて賢明です。つまり、もしできるのなら、自分達でマダニ類を除去して良いのです。もし自分で除去できない場合には、医療機関へ行き外科的に除去してもらう必要があります。
 自分でマダニ類を取り除く際、強引にむしり取ってはいけません。そのようにすると口器がちぎれて皮膚の中に残ってしまう場合があるからです。基本は、ピンセットなどを使って、食いついたマダニ個体の根本部分(口器付近)を挟み、左右に何度か回転させたり、虫体を裏返したり元に戻したりを繰り返し、皮膚の中に挿入されたマダニ口器がちぎれないように慎重に引き抜くことです。幼若虫やチマダニ属成虫(写真2)なら、この方法でうまく除去できる場合が多いです。
 通常、マダニ類を除去した痕は早く治癒することが多いのですが、マダニ口器が皮膚内に残ると、痒さが長期間続く場合もあります。もし自分でマダニ類を除去した後も痒さが続くようなら、マダニ口器が皮膚の中に残っている可能性があるので、皮膚科で診てもらいましょう。
 民間療法として、皮膚に食いついたマダニ類にタバコのヤニ、ニコチン汁、アルコール、塩などを塗るといった方法が知られています。また、マダニ類にタバコの火を近づけるという荒っぽい方法もあります。しかし、これらの除去法にどの程度の効果があるのかは科学的に確かめられていません。

3)自分でできるワセリン法

 マダニ類に食いつかれてからおおむね1~2日以内であれば、ワセリン法が有効です。これは、兵庫医科大学の夏秋優さんによって広められた方法で、皮膚に食いついたマダニ個体の上にワセリンなどを厚く塗ることによって、30分程度でマダニ個体が外れやすくなることを利用した除去法です。ちなみに、ワセリンに限らず軟膏やバターなど油脂性成分のものなら同様の効果が得られるそうです。
 ワセリン法は、誰でも容易にできるので、一般の方にもおすすめできます。ただし、食いつかれて時間が経つと、マダニ口器が皮膚へ強固に固着してしまいますので、ワセリン法を用いても除去は困難です。繰り返しになりますが、皮膚に食いついたマダニ個体を早期に発見して処置することが重要なのです。

4)自分で除去できないなら病院へ

 マダニ属とキララマダニ属(写真3)の成虫は長い口器を持つため、食いつかれるとたいへんです。


写真3 カモシカマダニ雌成虫(左)とタカサゴキララマダニ雄成虫(右)

 食いつかれて24時間以内なら、まだ自力で除去できる可能性もあるのですが、それ以降は引っ張ってもビクともしなくなります。こうなってしまうと外科的に除去するしかないので、医療機関を受診する必要があります。
 医療機関では、局所麻酔をかけた後にマダニ周囲の皮膚ごとメスで切り取られることになります。患者にとってはシビアな除去法ですが、刺し口周辺の皮膚を取り除くため、病原体の感染を防ぐ効果もあります。
 なお、食いついたマダニ類が大きく膨らんでいる場合(写真1)は、間もなくマダニ類が自力で離脱します。この状況なら、「そのまま放置しておく」という選択肢もあります。

5)発熱などがあったら病院へ

 マダニ類に食いつかれて2週間以内に発熱、頭痛、発疹等の症状が現れた場合には、マダニ媒介感染症の可能性が考えられるので、できるだけ早く医療機関を受診してください。その際、除去したマダニ個体があれば持参することが重要です。マダニ媒介感染症には診断の難しいものが多いのですが、除去したマダニ個体の種名がわかれば診断のヒントになります。だから、除去したマダニ個体を捨ててはいけません。

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