マダニの採集方法いろいろ

兵庫県立大学自然・環境科学研究所 / 兵庫県立人と自然の博物館 山内健生

 マダニ類は重要な感染症媒介動物ですので、野外のマダニ類を採集し、その分布や病原体保有状況を把握することには重要な意義があります。PMPニュース355号では白布を使ったマダニ採集の方法について、そして358号では動物の体からマダニ類を採集する方法について書きましたので、今回はその他の採集方法について解説します。

1)巣材採集

 これは,哺乳類や鳥類の巣材を採取し、その中に潜んでいるマダニ類を採集する方法です。マダニ類の中には吸血しなくても長期間生存できるもの(マダニ目ヒメダニ科の仲間)もいるため、動物が利用中の巣はもちろんのこと、ずいぶん前に動物がいなくなってしまった巣からも採集することができます。採集方法はシンプルで、採取した巣材を細かく砕き(図1)、目視で、あるいはツルグレン装置によって、中に潜んでいるマダニ類を集めます。ツルグレン装置は、土壌動物の採集によく使われる道具で、巣材の中の虫を光と熱によって追い出して集めます。ツルグレン装置の仕組みは単純なので、自作しても良いでしょう。なお、この方法では,マダニ類だけでなく、巣材に潜む様々な虫(その他のダニ類、ノミ類、ハエ類、蛾類、甲虫類、チャタテムシ類など)を採集することができます。


図1 オオミズナギドリの巣穴の土。これから珍種サワイカズキダニが採集された。

 巣材採集では名古屋市衛生研究所の内川公人さん(後に信州大学医学部)による研究が有名で、長野県のイワツバメの巣内に見られる節足動物相が明らかにされました。この調査ではツバメヒメダニとツバメマダニが大量に得られています。また、2004年1月に、高校生の平田和彦さん(現在、千葉県立中央博物館)が、大阪府の住宅でコシアカツバメの巣を利用する動物の調査を実施したところ、空巣の中から生きたツバメヒメダニなどが採集されました。この時採れたツバメヒメダニは大阪府初記録でしたので、後日、平田さんと共同で報告させていただきました。このように、イワツバメやコシアカツバメの空巣にはツバメヒメダニなどが高い確率で潜んでいますので、興味のある方は調べてみるとよいでしょう。

 一方で、我が国の哺乳類の巣にマダニ類が生息するか否かについてはまったくといってよいほどわかっていません。小型哺乳類(例えば、ネズミ類やモグラ類など)の巣を調査することで、白布を使った採集ではめったに採れないカモシカマダニやタヌキマダニの幼若虫などが採れるのではないかと夢想しております。

2)葉裏採集

 これは、マダニ類の密度が特に高い地域で有効な方法です。マダニ類の中には、フタトゲチマダニやキチマダニのように、植物の葉の裏側や茎などで待ち伏せし、吸血源となる動物が訪れるのを待つ種が多くいます(図2)。ですので,適当な葉を次々に裏返して調べることで、待機中のマダニ類を見つけることができます。ただし、採れるかどうかは運次第で、白布を使った採集や動物の体からの直接採集に比べると採集効率は格段に悪いです。雨などで白布を使いにくい場合には試してみると良いでしょう。
 千葉県衛生研究所のグループは、この採集方法によってマダニ類が見られる植物の種類や待機位置の高さを調べました。非常にユニークな研究だといえます。


図2 葉の裏に潜むフタトゲチマダニ若虫

3)誘引トラップ

 これは、マダニ類が、二酸化炭素、におい(化学物質)、熱に誘引されるという性質を生かした採集法です。マダニ類の中には、動物がやってくるのを待ち伏せしている種(フタトゲチマダニやキチマダニなど)と、自ら歩き回って動物を探して寄生する種(タカサゴキララマダニやカモシカマダニの成虫など)の2タイプがあります。この方法は、後者に対して特に有効な方法です。マダニ類を集めるための二酸化炭素発生源としてはドライアイスを使うことが多いのですが、人体が発する二酸化炭素でもマダニ類を誘引することができます。これまで我が国ではトラップを使ったマダニ調査はあまり行われてきませんでした。それだけに、発展の余地がある採集法だともいえます。

番外)博物館などでの標本調査

 博物館などでは、哺乳類の死体が大型冷凍庫などで一時的に保存されていることがよくあります。それらの体からもマダニ類を含む多くの外部寄生虫を採集することができます。以前、私が比和町立自然科学博物館で働いていた際、哺乳類の剥製作りの実習をお手伝いしたことがありました。子供たちと一緒に、冷凍保存していたタヌキやヌートリアなどの死体を解凍し、毛皮を剥がしたのですが、剥がした後の肉にもマダニ類が食いついたままになっていたのには驚きました。これは、マダニ類の口の一部分(動物の皮膚に突き刺す口下片という部分)に逆さ向きの歯が生えているためです。マダニの口は、食いついたら簡単には抜けない構造なのです。

 さらに、仮剥製や液浸の状態で収蔵されている標本にマダニ類が付着したままになっている場合もあります。珍しい動物の標本から思わぬマダニ種が得られた時は、ガッツポーズをしたくなるほど嬉しいものです。
 昆虫標本の収蔵庫には、マダニ類が一般的な昆虫のように昆虫針に刺さったり台紙に貼り付いた乾燥標本(図3)として保存されている場合もあります。おそらく、採集者が自分の体に付着したマダニ類を昆虫と同じ方法で標本にしたのでしょう。幸いなことに、マダニ類の体の表面は硬いため、乾燥標本にしてもある程度は同定できます。


図3 タカサゴキララマダニ雄成虫の乾燥標本

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