ペストワールド2012雑感

 エデュケーショナルセッションでは、今年も新情報が聞けた。年ごとにあちらのPCO達の知識技術が向上しているかに見え、こちらはなんとなく気後れするような感じにとらわれる。日本のこの産業にも、ペストワールドに見るような、良い状況を生み出す環境の整備が望まれる。
 このことにやや関連するうれしい話がある。今年の大会をNHKが取り上げてくれることになった。クローズアップ現代で「日本のPCOがアメリカの大会に参加している」と、国谷裕子アナウンサーが平尾さんと対談する企画がそれだ。大会期間中の1 日を、NHKニューヨーク支社の取材に応じて、平尾さんがビデオカメラに収まった。昨年12月6 日に放映されたので、ご覧になった方も多いはず。NPMAの賑わいが一般の人たちに伝われば、また新たな道も開ける。
 ところで、日本のPCO産業をより発展させることの要因は何か。PCO産業がサービス業なら、人口割にしてもアメリカの半分近い需要があってしかるべきだ。そうした需要をきっちりと掘り起こし、産業としての地固めを急ぎたいもの。そのためにはPCOの資格制度(免許)に裏打ちされた、社会的認知の向上が一番の近道と思う。勿論、彼らが使う道具(殺虫剤)を一元管理する必要も伴うが、こちらの方はアメリカのFIFRA(連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法)やEUの例を参考にできる。

 例年、ペストワールドの開かれるこの時期は、ワールドシリーズに向けて野球ファンが大騒ぎの真最中。今期マリナーズから移籍のイチローが、ア・リーグ優勝をかけてのタイガースとの第1 戦。0 - 4 で負けていた。9回裏1 死2 塁で打者イチロー。引っ張ってライトポールぎりぎりのツーラン。続くDHイバネスの劇的なツーランで同点とし、ついに延長に持ち込んだ。さすがイチロー。日本人の野球ファンなら、誰もがアメリカン・リーグ優勝を信じたに違いない。しかし結果はご承知の通り、12回に2 点入れられて、敢え無く負け。その後も良いとこ無しの4 たてを食らって、”Tigers sweep, Yankees weep”(タイガース席捲、ヤンキースしくしく泣き)の大見出しがタブロイド紙の1 面を飾った。
 MLBといえばホテルから30分くらい歩くとフェンウエイ・パーク球場がある。金曜の昼食後に走り歩きで、出かけてみた。今年はこの球場ができて100年目だそうで、記念のロゴ入りお土産類が買える。孫たちにマスコットバットを買った。野球カードは1 枚5ドルなのに、なぜか1 勝でしかなかった松坂はケース入りで20ドルもする。
 さて、肝心の大統領選はあっけなく(肥和野佳子)オバマさん続投となったが、ホテルに帰って点けるテレビは第2 回目の討論会風景を繰り返し伝えていた。論戦は国民皆保険を謳うオバマさんの健康保険と増税で始まったが、その後、両者の争点は若年層の雇用対策へと論点が絞られてゆく。筆者はアメリカ政府が昔から行っているメディケア・メディケイド(高齢者医療保障と身障者保険制度)は良い制度だと常々思っている。今度こそ、共和党の勝ちを信じたNPMAだったが、結局のところ、国民は増税と雇用問題の方を選んだ。これで殺虫剤規制に厳しいとされるEPA長官の交代なども、残念ながら当分は遠のくと考えられる。と、そのときは書いたが、年明けの1 月7 日になってワシントンポストはリサ・ジャクソンEPA長官の辞任を報じた。(http://www.washingtonpost.com/national/health-science/epa-head-jackson-toresign) この鳴り物入りで就任したリサさんの、大気汚染防止法の強化、鉱山の水銀排出規制、石炭を動力にする発電所からの排ガス規制など低炭素化への貢献に対して、オバマ大統領のステートメントが出された。この辞任劇は彼女自身の家庭の事情にあるとされるが、一部には出身校プリンストン大学の学長就任の噂がある。
 一方、FIFRAの下にある殺虫剤規制はややゆるくなった。前述のように、トコジラミに2 種混合剤の適用が認められることになったなどがその証左だ。ちなみに、FDC(食品医薬品化粧品法)の下にあるOTC医薬品にもその傾向が見受けられる。TVでは抗ヒスタミン剤配合の、アルカセルツァーのCMをじゃんじゃんやっているし、土地柄かCNNのサタデーモーニング中に“SALONPAS”の広告が入るのには驚かされた。
 19日のCNBCテレビは1987年のブラックマンデー(同様に10月19日に起きた株価大暴落)の再来かと報じた。前日比下げ幅が一時は236ドルにまで広がり、やっと205ドル安の13343ドルで引けたのだ。

 今年のさよならパーティーは「ブラックタイ“任意”着用」。で、かねて用意の蝶タイを着けていざエレベーターへと向かった。箱には先客がいて、これがアメリカ人には珍しく、見るからに品格ある夫婦連れだった。旦那の方は85歳はとうに過ぎていると思われる、185cmはあろうかという偉丈夫である。「お先にどうぞ」と声をかけると、「娘が協会の役員でね」。ロビーのソファーで改めて挨拶して、新会長ローラ・シンプソンさんの父親ダグラス・マクファーソンさんであると知った。ご自身も元会長を務めた由。現在はPCO保険会社LIPCAの社長さんだ。
 ダグさんも今から30数年前、1979年の会長だった。オハイオ州立大の昆虫学士、修士課程終了。リプカ社は1985年に200社以上のPCO企業が参加し、ダグさんが自分のPCO会社社長の傍ら設立したPCO保険会社で、元受はロンドンのLロイドLOID社。現在契約するPCOは2000社を越すという。PCOのPCOによるPCOのための保険会社だそうだ。

 最終日の午後だけは観光に充てた。ホテルのツアー・デスクでトロリーバスの終日券を買う。ボストンからケンブリッジの隅から隅まで案内され、どこで降りても次の便が15分で来る。停留所ごとに、客の乗り降りがあって「ハーイ、みんなどこから来たのかな?」ワンマン運転手のサービス話法が上手。「どこどこの人はこんな訛りなんだよね」とか「ここら辺のコンド(日本のマンション)は高いよ。ざっと200ミリオンドルは下らないぜ」など、ずっと話しずめ。お客を退屈させない。大通りの小さなマンションはなんと2億円ほどするらしい。
 週末とあってクインシーマーケットのフードコートは身動きとれないほどの混雑。大男のイタリアンに「Next!」などと、怒られるような感じで注文のでっかいピザが旨かった。
 港に続くマーケットのギャップ、アバクロ、バナリパ、アメリカン・イーグルなどのアウトレットを覘いてみたが、商品はどれも型落ちで、御上りさん向けと見た。マーケットプレイスにはジャグラーや1 人バンドが大勢出ている。

 前号でも書いたが、ニューイングランドを代表するこの地域は緑が大切にされている。先のコンドの日の射さない小さな庭にさえ、ホスタ(ギボウシ)のいろいろが植えられていたりする。
 朝食後、セッションが始まる8 時30分までの1 時間ほどを散歩にあてた。チャールズ・リバー沿いを歩きまわって撮った風景が冒頭の写真である。ゆったりとした河の流れに遊ぶディンギーの群れ。活気あふれる街区にしっくりと落ち着いた住宅地の組合せがすばらしい。

 PestWorld2013は、10月23~26日に、アリゾナ州のPhoenix Convention Center(シェラトン・フェニックス・ホテル)で開催される予定。(龍)

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