害虫の化学的防除

一財)日本環境衛生センター 客員研究員 新庄五朗

 著者の個人的な経験を今までいくつか紹介させていただきましたが、我が国の殺虫剤について、その動向にふれ、殺虫剤の意義について考えたいと思います。
 現在では様々な殺虫剤が広く使われている。農薬用として、医薬品として、木材保存用として、生活害虫対策用(衣料害虫用、書籍害虫用、不快害虫対策用、有害害虫対策用)として、家畜・ペット用として、など様々です。殺虫剤の多様化の理由は、地球が昆虫の惑星と呼ばれることで理解できますように、地球上の昆虫は、現在100万種以上存在すると考えられ、地球上の動物の約2/3以上を占め、地球上のありとあらゆる場所にその生息が確認されている状況にあります。種類の多さと合せ「地球は昆虫の惑星」と称される所以になっています。なお、現在の昆虫種の内訳は、コウチュウ37万種、チョウ13.8万種、ハチ13万種、ハエ11万種、カメムシ3.2万種といわれています。
 以上のことから見て、我々人間の生活環境にも多くの昆虫達が生息し、ヒトと共存していることが理解されます。従って、人と昆虫とが遭遇することによって様々な摩擦が生じる機会がみられ、人間社会にとって、好ましくない昆虫等が害虫と位置付けられ、その対策のため殺虫剤が作られたとおもわれます。
 参考までに地球上の生物種の数を示すと、植物は20万〜30万種、魚類2.5万〜3万種、鳥類約9000種、哺乳類約4000種を数えます。昆虫の生息場所は、地球のあらゆる場所に生息が確認されています。
 日本の社会で、上記のように様々な殺虫剤が使われています。殺虫剤の多様化は、世界第二次大戦前から発達した合成技術によって、戦後様々な殺虫成分が作られた結果と使用目的に沿った様々な製剤が開発されたからだと思われます。はっきりした区分はないと思われますが、農薬と環境衛生分野のいわゆる防疫用の殺虫剤は、共通な点としては屋外使用の薬剤であるということが共通項ですが、一方では植物体に直接処理する薬剤が農薬であり、植物体に散布することを想定してないのが後者であると定義することができるでしょう。
 最近の殺虫は有機合成によって工業生産された有機化合物を有効成分とする殺虫剤です。有機合成技術は世界第2次大戦中に進歩発展しました。その発展の背景は、化学兵器の開発研究と先進国の植民地政策によって、亜熱帯、熱帯地区への侵略の節足動物による感染症(熱帯病)対策のため殺虫剤が必要になったためと考えられます。
 我が国では、戦後の食糧難に対する農産物生産向上のため、悪化した生活環境の改善のため、進駐米軍のDDT提供をはじめとする有機合成殺虫剤が盛んに使用されてきました。殺虫成分として、①有機塩素系化合物:①DDT及び②γーBHC(リンデン)、③ディルドリン、④クロルデン、⑤オルトージクロロベンゼンが上梓されたが、⑤を除き、1971年に①、②、③は体内蓄積の懸念(レイチェル カールソン著「生と死の妙薬」による社会的影響)から、また④は1986年に製造販売が禁止されました。また、有機リン系剤は農産物の増産のために、選択毒性が低いものが(EPN,など)が導入されが、これらは環境衛生分野では使用1955年から1982年の間16種の有機リン剤が製造承認されたが、約6種の成分しか現在流通していない状況です。この状況に変わっていったのは、上下水道の整備。廃棄物の処理など生活環境に関するインフラが整備された結果と思われます。
 ところで、現在使用されている殺虫剤は、一般に1m2当り数10mgから数gの殺虫成分を使って効果を発揮させていますが、殺虫成分のみを用いた処理することや、効率的に適量の殺虫成分を害虫の体表に付着することは困難です。そこで実際には殺虫成分(殺虫原体)を適当な希釈液に希釈して、一定面積または一定空間を均一になるように処理し、虫体の表面に成分が効率よく付着するようにする工夫が必要になります。このような考え方を基本にして、殺虫製剤が検討され、乳剤や、マイクロカプセル財、食毒剤などの殺虫製剤、すなわち一般でいう殺虫剤がつくられています。いわゆる殺虫剤は効果、保存安定性、安全性、用法用量の設定、取り扱い方法、使用方法(容易さも考慮)、経済性などについても一般消費者が誤用しないような安心・安全な使用を目指して、有効成分の力を最大限発揮させるような工夫や有効成分の欠点を補わせる工夫も織り込んで製造設計を進めています。効率的に害虫を駆除することを目指して、適切な製剤が考えられています。

(Sin)

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