暮らしの中の殺虫剤

害虫の化学的防除

(一財)日本環境衛生センター 客員研究員 新庄五朗

1.私と殺虫剤-その3

 続いて取り組んだのは、ペルメトリンを有効成分としたエアゾールの開発でした。ペルメトリンのゴキブリに対するLD50値は、チャバネゴキブリに対して0.64μg/♀、一方、有機リン剤のフェニトロチオンとプロチオホスのそれは、各々0.25μg/♀、1.5μg/♀を示し、このことからも、ペルメトリンはゴキブリに対して、実績ある有機リン剤とほぼ同等な致死活性し、残留処理効果も高いと見做(みな)されました。この時代では、ゴキブリの徘徊する場所に薬剤を残留処理し、ゴキブリが徘徊した時に薬剤に接触し、致死量を取り込んだ時に殺滅するという方法が主な方法でしたが、ペルメトリンはこの方法でも有用な効果が確認されました。

 以上のことから、有効成分がオール・ピレスロイドからなる殺虫エアゾールを開発する、家庭用殺虫剤分野にゴキブリ用エアゾール市場を広げる、などの夢が広がりました。既存のゴキブリ用エアゾールは、有機塩素系とリン剤系殺虫剤との合剤、フェニトロチオンとジクロルボスなどのような2種の有機リン剤による合剤などでしたので、新規開発のゴキブリ用殺虫エアゾールは安全性も高いことも見込まれました。

 まず、有効成分の配合を決めるために、種々の濃度のエアゾールと有効成分の配合比率の異なるエアゾールを試作しなくてはなりません。幸いなことに所属研究室にはエアゾール試作装置が一式ありましたので、同僚に配合割合変えた種々のエアゾールを試作してもらい、生物試験を行いました。処方決定事由に関する生物試験は主にチャバネゴキブリに対する直接噴霧試験を行いました。また、新規エアゾールの実用効果を評価するために、既存市販ゴキブリ用エアゾールを対照として、チャバネゴキブリとワモンゴキブリを供試して、残差接触試験、直接噴霧試験等々を行い、準実地試験などを実施いたしました。フラッシュ・アウト試験もその中に織り込みました。

 このようにペルメトリンとの出会いによって、医薬品・医薬部外品の製造販売承認の薬効果・効能(薬理)関する申請資料を作成するための手順を学ぶことができました。

 そして、日本初のオール・ピレスロイドからなるゴキブリ用エアゾールが、昭和54年に市場に出回りました。従前の製品に比べ殺虫性が勝れること、安全性が高いこと、即効性に優れること、高いフラッシュ・アウト性能を有することなどから、消費者に受け入れられ、市場に歓迎されたと記憶しています。

 エアゾール産業新聞社からエアゾール分野別生産数についての統計調査を行っていて、その結果を記載された“エアゾール市場要覧”として出版されています。ゴキブリ用エアゾールは殺虫剤エアゾールの中の塗布用エアゾールとして分類され、その生産数等が記録されています。

 当時の出版物の入手が困難のため、昭和55年前後の塗布用殺虫エアゾールの生産数について、エアゾール産業新聞社に電話で統計値をお聞きしたところ、図1に示しましたように、昭和55年の殺虫エアゾールは前年の約210万缶の2倍の430万缶と飛躍的に生産量が伸びたことや、翌年の昭和56年には136万缶、57年では215万缶になったことが記録されているとのことです(図1)。


図1 塗布用殺虫エアゾール製造本数/年

 当時この統計値をなにげに見ましたが、なぜ生産数が一旦は高水準になったのが、1年限りで、また前年の数量に戻ったのかが、大変疑問でした。その答えは資料が手元にないので、解析が困難であるので分かりませんが、以下のことは示唆されるでしょう?

  1. 殺虫用エアゾール剤は一般に300mLか、450mL容の密閉された缶製品で、消費は1回ですべて使い切る製剤ではありません。多くの購入者は、年間使用量が少なく、使い切るまでに数年を要していると考えられています。
  2. 当該エアゾールは効果が高く、1年目の使用でゴキブリを見かけないほどに防除ができたため、次年度では再度エアゾールの購入を必要としなかった。

などの類推が考えられます。類推が正しいかどうか、みなさまはどう考えますか?

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