暮らしの中の殺虫剤

害虫の化学的防除

(一財)日本環境衛生センター 客員研究員 新庄五朗

私と殺虫剤-その3:フラッシュ・アウト(追い出し)室内試験法の開発

 ペルメトリンの空間散布によって、飲食店の様々な場所に潜伏しているゴキブリ類がフラッシュ・アウト*(Flush・out)することを目にする機会を得たことから、この作用がペルメトリンの作用であるのか、ピレスロイド剤特有の作用なのかを明らかにすることが宿題になりました。そこで、新しい評価試験方法が必要と考え、試験方法を考案することに致しました。(注*:フラッシュ・アウトFlush・outの意味は様々ありますが、米国でピレスロイド剤の空間噴霧を行ったところ、ゴキブリが潜伏場所から飛び出してくる様子が観察され、その現象をFlush・outと表現されていたので、この言葉を用いることしました) 

 フラッシュ・アウト試験は、潜伏したゴキブリを簡便に準備する必要があります。潜伏場所は、ベニヤ板3枚で組み立てたシェルター(「三角シェルター」という)を用いました(図1)。

 三角シェルターをゴキブリ飼育箱に入れて、潜みの様子を観察した結果、シェルターを縦に置くと1日後には非常に安定した潜み場所になることが分かりました。そこで、少なくとも試験の前日に、供試虫を麻酔下でシェルター内に放虫し、水と餌を与え、ガーゼを用いて蓋をし、逃げ出さないようにして、供試虫をシャルターに馴化させて使用することにしました(図2参照)。

 実験直前に、取り付けたガーゼを取り除き、併せてシェルター内の死虫と餌の残りを除去しました。そして、潜伏虫をフラッシュ・アウトさせたときに、再びシェルター内に戻らないようにするため、上端には開放部の形状に合わせて、16メッシュのナイロン・ネットを1個の画鋲で取り付けました(図3)。

 シェルターからフラシュ・アウトするゴキブリは自分の力でネット押上げ、飛び出た後は自然に閉じるため、このネットを取り付けることによって、一度飛び出したゴキブリを再度シェルターに戻らせ失くしました。薬剤のゴキブリへの施用は、直接処理では風の力がゴキブリに影響を与えてしまうので、一度壁にぶつけて自然落下の噴霧粒子をシャルター内に落下させて、ゴキブリに被ばくさせることを考え、落下粒子も問題なくシェルター内に落下させるために、16メッシュのナイロンを用いました。その後、内壁を逃亡防止用のバターを塗布した直径約40cm、深さ約5cmのガラス製ガラス皿の中央に、上記シェルターを立てて置き、70cmx70cmx70cmのガラス箱の床中央にガラス皿を配置しました(図4)。

 ガラス箱の噴霧口から検体を一定量噴霧し、噴霧直後より所定の経過時間毎に三角シェルターより飛び出してきた供試虫数をカウントし、噴霧後20分目に全供試虫を清潔なポリ容器に回収し、餌と水を与えた後、24時間後ないし72時間後に供試虫の死亡状況を観察し、死亡率を算出しました。また、経過時間に伴うフラッシュ・アウト率から、Blissのプロビット法により、50%フラッシュ・アウト時間を算出しました。

 以上が開発した試験の概要です。工夫したことは、①簡易な方法で潜み場所を安定して作ること。②フラッシュ・アウトしたゴキブリを逃げさせずに捕獲できるようにすること、③再現性ある試験であること、などでした。①については、身近にあった三角シェルターという手頃なシェルターがあって、それを利用しました。ゴキブリの飼育箱に三角シェルターを入れるとゴキブリは喜んでシェルターに入り、しかも立てて用いると潜んだゴキブリは横に置くよりはるかに安定して棲みつきました。参考までにこの三角シャルター1個に何匹ャバネゴキブリが潜伏するか、数えてみたら、300匹以上の数でした。ギュウギュウ詰めでした。

 この試験によって、フラッシュ・アウト効果は、有機塩素剤、有機リン剤、カーバメイト剤には見られない、ピレスロイド剤にのみにみられる特性であることが分かりました。   
有機リン剤の残留処理との組み合わせで、ピレスロイド剤のULVやミストによる空間噴霧によるゴキブリ防除は、潜み場所よりゴキブリをフラッシュさせて、ゴキブリを能動的に有機リン剤の残留処理面に接触させることが可能となり、新しいゴキブリの防除法として活用されました。また、ピレスロイド含有のエアゾールが、飲食店などでゴキブリの生息有無を調査するツールとして、今日も活用されているところです。
 
 このように著者はペルメトリンとの出会いによって、フラッシュ・アウト試験法を考案するビッグ・チャンスを得ることができ、なんとか簡便な試験方法を考案し、ピレスロイドのゴキブリ防除分野への進出に、立ち会うことができたのではないかと考えております。 

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