モニタリングの現場から “伝える”こと

鵬図商事株式会社 企画営業部 白石啓悟

 前号では、2008年1月25日に厚生労働省健康局長より通知されました「建築物における維持管理マニュアル」の概略について述べました。
 これからのPCOの仕事は、報告や提案の重要性が増し、顧客である建築物維持管理権原者や当該地区の管理者や利用者に、ものを伝えることが多くなると思います。“伝える”一言でいってしまうのは簡単ですが、“伝えて動いてもらう”ことはとても難しいことです。言葉を受け取るのは人だからです。
 筆者も今まで多くの現場で報告や提案を行ってきました。喜んで受け入れられたこともありますし、反発を受けたこともあります。その度に、“伝える”難しさを感じます。
 今回のモニタリングの現場からは、顧客に“伝える”ために、筆者が特に気をつけている3つのポイントをお話しします。

その1:伝える顧客は他人

 当たり前のことですが、伝える顧客は他人です。「分かってくれるだろう」とか「当たり前だろう」は通じません。 自分の頭の中では、“説明しなかった部分”を、言わなくても分かるように思えたとしても、同じことを顧客(伝えるべき人)が思っているとは限りません。むしろ思っていないことの方が多いのです。しっかりと全てを伝えることが大切です。特に報告書等を書くことに集中すると、自分の論理だけしか見えなくなってしまうこともあります。気をつけて下さい。対策としては、一度書いた文を顧客の気持ちになって読み返すことです。

その2:聞く耳を持たない顧客には伝わりにくい

 「どんな人が相手の時、仕事がうまくいきますか?」筆者は講演でよく聞きます。その答えは「聞く耳を持っている人」です。伝える内容に問題がない限り、伝わるかどうかは、顧客が聞く耳を持っているかどうかに、大きく左右されます。筆者は講演をする時、聞く人の心を、最初の数分でつかむ努力をしています。それは聴講者に「聞く耳を持っていただけるかどうか」で、講演の内容の伝わり方が大きく変わるからです。
 PCOが、提案する内容を顧客に受け入れてもらうためには、顧客が提案の内容について耳を傾けるようにしなければいけません。それには、2つのことが大切です。
1)日頃から顧客に有益な情報を伝えることです。内容は、建築物の衛生だけにこだわる必要はありません。顧客が興味をもっていること等も含みます。「この人の話しはいつも参考になる」と思ってもらえれば最高です。そのためには、①顧客がどの様なことに興味を持っているのか、因っているのか等を、日頃の会話から感じ取る感性、②日頃から多くの情報を集める、顧客の困りごとの解決策を探す癖を持つことが大切です。
2)顧客の話しによく耳を傾けることです。これは良い人間関係の基本ですが、なかなか実行することは難しいです。何故なら、人は話すことの方が好きだからです。顧客の話しに耳を傾けることは、先に書いた「相手がどの様なことに興味を持っているのか、困っているのか等」を知ることにもなります。
 中には情報の価値が分からず、選別せずに色々な情報を持って来る人もいるでしょう。しかし、その様な人の情報でも、できる限り耳を傾けることです。何故なら、それらの何でもない情報の中には、重要な情報も含まれるからです。「君の話しはくだらない」と言った時から、その幾つかの大切な情報が耳に入らなくなります。
 人の話しに耳を傾ける人には情報が集まります。忙しくても人の話しにはできるだけ耳を傾けたいものです。

その3:“伝える’’は一通りではない。

 人は依頼の仕方(指示の仕方)によって、その仕事に対するやる気が大きく変わります。
 「これやっておいてよ」と一言で済ませる人、「この仕事の背景は…」と仕事の背景まで話す人、さらに「あなたに期待することは…」と、依頼する人への期待まで伝えきる人、一言で“伝える”といっても、まさに人それぞれです。
 もっと分かりやすい例で考えてみましょう。報告書を提出するにしても、ただ手渡して来る人、また一通り説明して来る人、さらに全員への情報徹底のため、説明会を持ちかける等して、提案しつくそうとする人がいます。
 PCOの仕事は報告書、提案書を提出することではありません。提案内容を実施してもらうことが仕事になります。“伝えきる”“提案しつくす”態度こそ重要になります。
 大切なことは次の3つです。
1)顧客に提案書や報告書の重要性を日頃から伝えておくことです。そうしておけば提出した資料に目を通してもらうことができます。顧客に聞く耳を持ってもらうことです。
2)分かりやすい報告書、提案書を作ることです。先にも書きましたように、読む人は他人です。分かりやすい報告書、提案書に仕上げて下さい。
 難しい言葉を並び立てることが良い報告書ではありません。いかに読みやすく、分かりやすく顧客に伝えるかが重要です。
 分かりやすい提案書、報告書のヒントについては、現在までホートPMPニュースの「モニタリングの現場から」で、お伝えしてきました。是非、参考にして、いろいろな工夫をしてみて下さい。
3)顧客にきっちりと渡して下さい。先程書きましたように、手渡すだけではなく、その場で説明をする、さらには、情報徹底のために説明会まで企画することです。
 環境的対策の多くは、顧客にとって耳の痛いことが多いです。このことを忘れてはいけません。顧客は「できるだけ聞きたくない」と思うかも知れません。PCO(担当者)は「顧客には伝えにくいな」と思うかも分かりません。その様な状況では、伝わるものも伝わりません。
 顧客との関係は、日頃のコミュニケーションが大切です。顧客との会話一つ一つを大切にして下さい。
 最後に、分かりやすい図面を参考に載せてみました。
 記号は下記の通りです。
△:顧客からの聞き取り調査もしくはアンケートで、ゴキブリを多く見かけるという所、
▲:PCOが現場に入って事前調査をした時に、ゴキブリを見かけた所、
■:PCOが現場に入って事前調査を した時に、糞やローチスポット、卵鞘を見かけた所、そして環境的対策が必要な所です。
 ▲、■の所で、写真があるものをいくつか載せてみました。
 顧客がゴキブリをよく見かけると言った場所(△)では、PCOが調査時にゴキブリを見つけている(写真1~3)こと(▲)が分かります。そしてその付近には、ローチスポット(写真4)、整理整頓のできていない所(写真5)、食材の管理ができていない所(写真6)、排水溝の汚れがめだった所(写真7)等があったこと(■)が分かります。
 それらを一つの図面に合わせますと、記号の位置が相互に関わっているのが分かります。そして、どの様にして、トラップの位置を選んだのかが分かります。
 以上、報告書に添付する図面の例を、簡単に作ってみました。実際の現場で試し、工夫改善して使用して頂ければ幸いです。
 これからのPCOの仕事では、報告や提案が重要になります。
 PCOは顧客である建築物維持管理権原者や当該地区の管理者や利用者に対して、アドバイザー的存在になる必要があります。
 多くのPCOの方が、“伝え”上手になって、顧客との信頼関係を築いて、良きアドバイザーとして、IPMの効果をあげていただくことを期待しています。
 「モニタリングの現場から」は、IPMのお役に立てていただくことを目的に、分かりやすい報告書の書き方等を特集してきました。「建築物における維持管理マニュアル」の通知で、IPMの流れは加速するでしょう。今までの内容が何かのヒントになれば、これほど幸せなことはありません。

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