建設業者の防虫対策

10.捕虫灯の使用法

稲岡 徹
元 (株)竹中工務店 エンジニアリング本部

I.はじめに

 今回は捕虫灯を取り上げます。製造・物流・商業施設等で、広く用いられる重要な防虫対策の一つですが、使い方によっては昆虫の侵入を増加させる可能性もあります。以下にその使用に際しての留意点を解説します。
 ところで、捕虫灯は、ライトトラップ、紫外線捕虫器、光学捕虫器、あるいは単に捕虫器とも呼ばれています。どれを使っても良いのですが、ここでは、三文字で光を使って虫を捕獲することが表現できる「捕虫灯」を採用しました。

II.捕虫灯の種類

 捕虫灯にはいろいろな機種がありますが、紫外線ランプで飛翔昆虫を誘引する機能は共通しています。異なるのは誘引した昆虫の捕獲方式で、表1のように整理できます。粘着紙をセットして虫を捕獲する粘着式が、使用上の利便性が高く、最も頻繁に使用されています。吸引式は40Wの紫外線ランプを備えた強力なものが多く、高い捕虫能力を持っていますが、昆虫監視(モニタリング)にはあまり適していません。電撃式は推奨しません。この小文では、主として20W紫外線ランプを備えた粘着式捕虫灯の使用を想定して解説します。

表1 捕虫灯の種類と特徴

捕獲方式 粘着式 吸引式 電撃式
捕獲能力 ○(標準的) ◎(優れている) ○(標準的)
監視適性 ◎(最適) △(やや不適) ×(不適)
推奨度 ◎(あらゆる用途に適応) ○(大量捕獲に適す) ×(推奨しない)

III.捕虫灯の昆虫捕獲能力

 これについては、平尾素一博士の報告があります。窓を開け放った部屋で捕虫灯を一晩中点灯し、その間に飛来侵入した昆虫の内、捕虫灯に捕獲された割合と、翌朝まで捕獲されず、かつ生存していた昆虫の割合を調べたものです。実験に使用された部屋の広さは53㎡、捕虫灯の紫外線ランプは20Wです。結果は表2に示されています。捕虫灯1台使用で捕獲率は55%、2台で63%、3台で74%、また、侵入昆虫の翌朝までの生存割合は、捕虫灯不使用時の6%台から、使用時は2%台に低下しています。
 竹中工務店の防虫実験施設での実績でも、一晩での捕虫灯による昆虫捕獲率はほぼ常に50~60%で、平尾博士の報告と類似しています。これらの成績から、捕虫灯を上手く使えば、明かりに誘引されて室内に飛来侵入した昆虫の半分以上を捕獲できると期待されます。ただし、部屋の広さ、捕虫灯以外の照明条件、侵入する昆虫の種によって捕獲率は変化しますので、その点は注意する必要があります。

表2 捕虫灯の捕獲能力(捕獲率)と捕獲による昆虫生存率の低下

捕虫灯数 0 1 2 3
捕獲率 0% 55% 63% 74%
生存率 6.5% 2.5% 2.2% 2.0%

平尾(1999)より引用

IV.捕虫灯の設置数と設置場所

 何人かのPCOの方と、工場での捕虫灯の必要個数について議論したことがあります。一般的な20W紫外線ランプを備えたタイプで、100~200㎡に1個が適切という意見が多かったと記憶します。概ね妥当と思いますが、これは工場全体に均等に配置するのではなく、場所の特性に合わせて適切に設置した結果、この程度の数に収まると考えるのが現実的です。
 捕虫灯は色々な建物に設置されていますが、中でもその必要性が高いのは、食品・医薬品等の製造施設です。そこでこのような製造施設を念頭に置きながら、捕虫灯の適切な設置場所について考えてみましょう。

 まず、外部に開口する搬出・搬入口、玄関、通用口、ゴミ搬出口の近傍には絶対必要です。特に大きな開口部を持つ搬出・搬入口には、重点的に配置します。このような場所では、たとえば、50㎡に1個の割合で設置しても、過剰ではありません。
 次いで、見逃されがちですが、空調器の吹き出し口の近傍にも取り付けることをお勧めします。ここに捕虫灯があれば、室内に供給される外気に混じって侵入する昆虫を、速やかに捕獲・発見できるからです。
 また、虫の侵入が許されない製造・充填室等にも、設置する必要があります。製造室や充填室に設置された捕虫灯の目的は、捕獲によって昆虫を減らすというより、その存在の監視です。この場合は一部屋1~2個で十分で、面積当たりの個数に拘る必要はありません。

 建物内の通路や準備室といった、高い清浄度が求められておらず、昆虫の侵入口にもならない箇所では、200㎡当たり1個より少ない設置で十分と思います。
 捕虫灯の設置数が多いほど、コストおよびメンテナンスの両方で工場に負担をかけます。私が設計に参画した工場では、設置目的を明確にして必要最少限に絞り込むよう心がけ、多くの場合200㎡に1個より、さらに少ない個数に抑えています。
 
 最後に、捕虫灯を設置してはならない場所を挙げておきます。まず、捕虫灯が外から見える位置に付けてはいけません。昆虫の侵入数が却って増加してしまうからです。建物の外部に付けることも止めるべきです。昆虫の無用な大量殺戮を招くからです。また、製造施設では製造ラインの真上も避けるべきです。昆虫が製品に混入する危険を増加させるからです。

V.捕虫灯の設置の高さ

 捕虫灯を取り付ける時、頭を悩ます問題の一つが床からの高さです。虫の捕獲効率を考えると、床すれすれの低い位置が良いのですが、フォークリフトの走行や床清掃の邪魔になるなどの理由で、次善の策として人間の身長より少し高い位置に付けるのが普通です。昆虫の中でも、羽アリやチョウバエは床に近いほど捕獲されやすいという傾向が強いですが、ユスリカ、クロバネキノコバエなど個体数の多い飛翔性昆虫には、高さの影響はそれほど顕著ではありません。
 

VI.おわりに

 今回をもちましてこの連載も最終回となりました。お読みくださった方々には心から御礼申し上げます。僅かでも皆さまの参考になれば幸いです。また、10回もの連載の場を与えてくださった鵬図商事様に衷心より感謝の意を表します。

編集係りより

 稲岡先生の「建設業者の防虫対策」の連載は、今回で最終回です。建物を巡る防虫をテーマに、建設業者の立場から防虫対策について連載していただきました。
 食品への異物混入のニュースが絶えない現在に、解決策のヒントがいくつもございました。読者の方には、ぜひ参考にしてくだされば幸です。
 稲岡先生のこれから益々のご活躍を期待しております。ありがとうございました。

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