建設業者の防虫対策

9.色と防虫

稲岡 徹  元 (株)竹中工務店 エンジニアリング本部

1.はじめに

 いきなりですが、防虫に最適な色とは何色でしょうか。もしそんな色があれば、虫の接近・侵入を防ぎたい建物の外壁などに是非採用したくなります。前回テーマの光と昆虫の関係で述べたように、純黄色蛍光灯や橙色の光を放つナトリウム灯は、他の照明より昆虫誘引数が少なかったことから、色の選択においても黄色や橙色が良いと考えておられる方もいるでしょう。私もかつてはそう思っていました。ところが、実験してみると全くそうではないのです。

2.色による飛翔性昆虫誘引数の違い

 図1は、異なる色の板に飛来する昆虫数を比較するための実験の状況を示しています。板の大きさは縦横45cm、全面に所定の色の塗料を塗り、乾燥後透明のポリエチレンフィルムを貼り、さらにその上に粘着剤を塗って、そこに飛来・付着した昆虫をカウントしました。ポリエチレンフィルムを交換することで、多数回の実験が可能です。毎日午前10:00から午後4:00までを1セットとしました。

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 結果は図2に示した通りです。なお、図中NT-42、43、44と表示したのは、竹中工務店が使っている外壁の色のコード番号です。すべて灰色で、番号により明るさが若干異なります。また木と表示したのは、塗装せず茶色っぽい木地をそのまま使用したことを示しています。

 昆虫の付着が最も少なかった白から、最も多かった黄まで下から順に配列しました。白に比べると、黄・黄緑・橙は2倍前後の値を示し、この三色は昆虫付着数の少ない灰色以下の色に対して、統計的に有意に付着数が多いと判定されました。

 この結果から、黄橙系の色には、他の色より昆虫の飛来が少ないだろう、という予想は完全に覆されてしまいました。黄橙系の色は、他の色よりむしろ多くの昆虫を引き寄せているのです。

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3.防虫に適した色と不向きな色

 結論を出す前に、他の方の報告も紹介しましょう。図3はトーセロパックス㈱におられた布山氏のデータです。黄色の板に最も多くの昆虫が付着した点は、私達の結果と共通し、全体的にも似た傾向ですが、白と黒の順位が大きく異なっています。この違いは、 実験を実施した時間帯の違いに由来していると考えられます。即ち、私達の実験は昼間に限定されていたのに対し、布山氏は昼夜連続して実験された、という点です。

 夜になると、太陽光よりはるかに照度の低い人工照明が主体となり、このような状況では、白が他の色に比べて強く光を反射することが昆虫の行動に大きく影響し、多くの個体を誘引したのではないでしょうか。その結果白の順位が上がったのです。

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 逆に布山氏のデータで黒が最下位なのは、夜間の光の反射が最少だったためと考えれば説明がつきます。

 これらの実験結果から判断すると、建物の外壁、出入り口やその周囲等に、黄橙系や明るい緑と言った色を使うことは、昆虫の飛来や侵入を増加させる結果となり望ましくありません。

 白はおそらく色としては昆虫の誘引は少ないと思われますが、光を強く反射するため、避けた方が賢明でしょう。逆に黒は、昆虫の誘引も特に多くはなく、光の反射は極少なのですが、熱を大量に吸収することによる弊害(夏季の冷房負荷の増大等)が大きく、現実には採用は難しいでしょう。

 最後に防虫に適した色を挙げると、灰、赤、桃、茶、紫ということになります。ただしこの結論は、最適な色を決定したというより、無難な色の選択範囲を、不完全ながらも示したと言う程度の意味合いにとどまります。

 なお、私の後輩の追加実験では、色による昆虫誘引数の違いは、鮮やかな色ほど顕著で、くすんだ色合いにすると、差は小さくなるという結果が得られています。たとえば、くすんだ黄色は、鮮やかな黄色ほどは昆虫を引き寄せません。

4.おわりに

 今回の記述は、人間の可視光領域での色に対する昆虫の反応に限定されていますが、昆虫にとっての可視域は紫外線にまでおよんでおり、彼らは紫外光をなんらかの色として受容しているに違いありません。昆虫と色の関係の理解を深めるためには、紫外光の色を含む研究が必要でしょう。このような実験計画のデザインは難しく、私は実施できないで終わってしまいました。今後、この方面の研究が深化することによって、“色”を防虫対策に利用することに繋がる新知見の発見が期待されます。 

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