はじめに

 国土地理院がまとめた東日本大震災の津波による浸水面積は、総計507平方㌔にも及ぶ。加えて地盤沈下などの影響もあり、がれきに埋まる被災地では水が引かず、いまから雨期を迎える地域で蚊やハエの大発生が予想される。
 このような環境下で避難所生活が長期化する被災者に、腸管出血性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ菌などによる食中毒が発生するおそれがある。6月7~9日に石巻市と気仙沼市を視察した武藤さん(日本環境衛生センター)は「避難所では病原性大腸菌O157を媒介することもあるイエバエが見られた」(6/13、朝日・夕刊)と心配する。春先のオオクロバエに代わり、これから気温が上がるにつれてイエバエが大発生する兆しがあるからだ。
 1996年に堺市の学童7,996名が罹患し、3名が死亡したO157汚染は記憶に新しい。当時O157は世界中に蔓延し、アメリカの医療サスペンス作家ロビン・クックの「トキシン」(ハヤカワ文庫NV)が各国でベストセラーになった。いまドイツをはじめ欧州で流行しているO104も同類だが、当時の日本と同様にスプラウト(カイワレ)が疑われているようだ。
 がれきに巣食う鼠によるサルモネラ菌の媒介にも留意する必要がある。昨夏アメリカで起きた鶏卵のサルモネラ菌による汚染被害は10州に及び、少なくとも1,200人が中毒に陥るという大事件に発展したなども参考にしたい。
 南北500km東西200kmにわたる今次の被災地には、すでにPCOの多面的な活躍が見られる。自治体による生活衛生活動がままならないとき、自治体の防疫担当者になり代わって、被災者から頼りにされ、地域に貢献する感染症の防御者でありたい。(龍)

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