災害地でスイングフォッグはどのように使用されたか

鵬図商事株式会社 足立 雅也

 このたびの東日本大震災では、世界の観測史上4番目のマグニチュード9.0で、その巨大地震と大津波により町は破壊され、多くの方が生活の場を奪われました。この場を借りて、被災された方々とその関係者の皆様に心から御見舞い申し上げます。一日も早い復旧をお祈りします。
 さて、このような災害時に自分はいったい何ができるのだろうか。また、会社として何ができるのだろうか。そう考えた方は多くいらっしゃることでしょう。当社でもいくつもの意見・提案があがりました。そんな中、今年で勤続40年になる当社の中村友三は、台風や梅雨時の大雨による洪水のたびに、煙霧とULVの二兼機であるスイングフォッグのメンテナンスと使用方法の説明のために、被災地での活動経験があります。淡々と語るその経験談を思い出話にしておくのはもったいない。全く経験のない者には十分に参考になる内容と思い、私なりにまとめて、急遽今回のニュースとさせていただきました。

 昭和46年の夏、鹿児島県出水市を集中豪雨が襲った。当時九州営業所に勤務していた中村は先輩の所長から連絡を受け、トラックにスイングフォッグの部品と修理工具、燃料と薬剤、念のため新品のスイングフォッグを数台積んで、土曜日の夜更けに福岡を発ち現地に向った。明け方に着くと大水にのまれた町の姿が目に入った。泥が道路や家屋に雪崩れ込み、瓦が礫れきがそこらじゅうに散らかっていた。そのような光景や上空でヘリコプターがホバリングしている騒がしい状況のせいか、「何かしなくては」と使命感が湧いてくる。
 早速役場の敷地内に設置された災害対策本部のテントの脇で、役場で用意したスイングフォッグが正常に作動するのかエンジンをかけて確認する。吐出の具合などを調整し、作動しないものにはパッキンなどの部品交換をして、数十台のスイングフォッグをメンテナンスするのだ。
 どうにかして台数を確保し、スイングフォッグは救助のために派遣された自衛隊員に渡されるわけだが、初めて手にする者ばかりなのでエンジンの掛け方すら知らない。だから現場で横について回って、一人一人に慣れるまで使用方法の手ほどきをした。
 大水が出たことと、さらに夏ということもあって、ハエや蚊の早急な対処が必要とされる。車両搭載式やリアカー式の煙霧機は機動力もあって、さぞかし便利だろうと思いがちだが、畳や家財道具などが家の前に出されており、車やリアカーが通れない場所も多くあった。そのような時、軽量で肩掛け型のスイングフォッグは足場の悪い状況や、狭い道、あるいは傾斜のあるような場所でも持ち込むことができるのだ。
 時間が経つにつれ、泥や瓦が礫れきを片付ける係りの人が増員されるので、作業の妨げにならないようにできるだけ早い時期に煙霧を終わらせる必要もあった。また、その作業の様子を見ている人たちは、自分のところも散布して欲しいと待っているので、手際よく回らないと、やってくれないのかと不安になるそうだ。そこへ、体つきのがっしりした自衛隊員が、短時間で一気に広範囲を濃い煙霧でもって、水溜りや家屋周囲に吹き付ける様子は、住民に「消毒した」という安心感を与えた。
 話は茨城県龍ヶ崎市にに変わる。利根川の支流に小貝川があり、江戸時代の古くから洪水をおこす「暴れ川」として知られており、昭和に入ってからも台風などの大雨でたびたび川が氾濫した。特に昭和61年8月の台風10号による豪雨では、堤防が決壊して洪水の被害は流域の市町村広域に及んだ。その様子をテレビで見た中村は現地の龍ヶ崎市役所環境衛生課の担当者に連絡をした。ただ事ではない状況ということで緊急の出動要請を受けた。
 小貝川の氾濫は、広い範囲で床上浸水、床下浸水の被害をもたらした。水は1週間ほどで引くのだが、下水も溢れていることから、床下には不衛生な泥が入り込み臭いもひどかった。畳と床をあげて泥を掻き出し、その後クレゾールで消毒をする。このクレゾールの独特の臭いもまた、住民に「消毒した」とう安心感を与えた。それから衛生課や住民による煙霧処理が始まる。この周辺の地域は、自治体や町内会といった単位で、煙霧機を用いた害虫駆除を毎年当番を交代して行っている。だから煙霧処理の手際がよかった。もちろん、煙霧の臭いや殺虫剤を散布するということに抵抗もなく、苦情もなかった。日常からパッキンの交換などのメンテナンスも行っているのですぐに使えた。そういったことで、最低年に1回は整備してほしい。被災直後から、モクモクと白い煙が町のあちこちで立ち上がった。


 さて、ここで海外の事例をひとつ紹介します。記憶にまだ新しいと思いますが、2004年の12月に、インドネシアでスマトラ島沖地震が発生しました。マグニチュード9.3という観測史上2番目に大きな地震で、津波はインド洋に面する世界各地に広がりました。次の資料は被災地でマラリアやデング熱を媒介する蚊の対策に、スイングフォッグが使用されているという現地の新聞記事です。


 さて、東日本大震災関連のニュースを見ていると、何かの役に立とうと全国からボランティアが集まってきています。自分は何ができるか。わが社は何ができるか。真っ先に思いついたのはスイングフォッグのメンテナンスでした。逆にスイングフォッグのメンテナンスができるのは、わが社の社員と数軒の代理店だけです。東北地方には今まで累積で何百台からもしかすると数千台も納めてきました。しかし、ここ数年を振り返ってみると、メンテナンスをした台数はけっして多くないのです。市町村の合併や担当者の交代で、現在どこに何台あるのかわからなくなっているのかもしれません。おそらく役所の倉庫などに眠っているものも多いのではないかと思います。今代理店の皆様と協力して、状況を調べようと準備をすすめています。
 これから気温が上がっていきますが、ハエや蚊が媒介する感染症が心配です。避難されている方々はもちろん、ボランティアや復旧の作業をされている方の健康を感染症から守るためにも、害虫駆除が行われることになるでしょう。そのとき使われるであろうスイングフォッグを、いつでもすぐに正常に作動させるためにも、各地をメンテナンスに回り、使い方も伝えていこうと考えています。このような活動が、少しでも復興のお役にたつのであれば喜んで伺います。

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