ペストワールド2009:ラスベガス大会から‐①

鵬図商事株式会社 顧問 岩本龍彦

会期:10月26日(月)~29日(木)
会場:The Venetian Palazzo Resort-Hotel-Casino, Las Vegas, Nevada

 全米PMP協会の年次大会ペオバマ政権発足後ほぼ1年が過ぎたが、この業界には、往時の活況がまだまだ見えてこない。新政権のグリーンニューディール政策が象徴する化学物質規制の強化などに、この国のPMPたちが必要以上に反応し、萎縮してしまったように、筆者には見えるのだが。
 しかし、そのような状況にあっても、NPMAが時の政府にどのように対応してきたかを語るような、二つの事象が今回の大会にはあった。ひとつはグリーンニューディール政策に歩調をあわせる“グリーン・プロ”育成強化であり、他方はロビー活動の成果ともいえる“ベッド・バッグ・サミット”の開催である。
 詳しくは後述するが、これら二つの課題は、NPMAがいかにそのときどきの政府と歩みを共にしてきたか、または行政にどのように関与してきたかを物語るものであって、我々業界人にとって、大いに見習うべきと感じる大会でもあった。
 27日のCNNは、8月度の対7月度住宅販売価格調査でアトランタ(1%)、ミネアポリス(3.2%)、サンフランシスコ(2.8%)の上昇が見られたものの、他の主要都市では下落もしくは現状維持となったと報じた。筆者が毎回の報告の中で書いてきたように、アメリカのPMPは売り上げの50%以上を一般住宅の防除や管理で得ているのである。この住宅産業の不振に起因する状況の改善を、PMP産業がただ座して待つだけでないことを知るべきだろう。
 こういうときこそ一丸となってよい方向を見つけなければならない。そのような気概の見えるVEGAS2009である。

1.開会式-オープニングセレモニー

 ここ数年にわたって、開会式がどんどん簡素化されている。私としては、これはこれで非常に結構な傾向だと思うのだが、NPMAの長老達にはなんとなくそぐわないらしいのだ。最近は協会のレダラー専務理事が司会者となって、開会挨拶をして、本来なら牧師さんを招いてとり行っていた年間の夭折者の追悼までやってしまう、というワンマンショー(実は経費削減効果絶大なのだが)、などもお気に召さないらしい、と漏れ聞く。
 それでもとにかく26日1時30分きっかりに、VEGAS2009は開会式を迎えるのである。司会者の「皆さんレダラー専務理事の登場です」で、司会をしていた当人が舞台に現れるのだ。それも、B. E. キングの名曲スタンド・バイ・ミーと共に颯爽と登壇するのだ。
 いよいよレダラーさんの今期総括と来期の施政方針演説が始まる。歌の歌詞どおり、♪~きみがいてくれさえすれば、月明かりだけの夜でも心強い~♪と、このところぱっとしない業界だけに、テーマソングの選定にも苦慮したようだ。
 しばらくの間、Stand by Meが映像とともに流れる。それもジャズの本場ニューオリンズの街角から始まり、アムステルダムにとび、フランスのツールーズ、モスクワの裏町、コンゴ、南アフリカ共和国の草原、ベネゼラのカラカス、スペイン、イタリアのピザ、最後にまたニューオリンズにと地球を一回り。演奏者は全て黒人のストリートミュージシャン。さまざまな国のいろいろな有色人種が出演する。初のアフリカ系黒人大統領バラク・オバマ氏への、配慮と見えて実は当てこすりなのかと、これは筆者の勘繰りかもしれない。とするなら大変に申し訳ないことではある。
 レダラー氏の施政方針はいつも彼の信念の吐露から始まる。その軸は決してぶれることがない。鵬図のために書いてくれた原稿と大筋は変わっていない。(「明日に備える」とした筆者拙訳を、小誌Vol. 260 、2002年9月号に掲載しているので、ぜひネットでお読みいただきたい)
 Stand by me(きみが居てくれさえすれば、夜になってあたりは暗く、月明かりしか見えなくても・・・)。レダラーさんが呼びかける、「Stand by each member;メンバーの皆さん、お互いがそばに居てくだされば、この業界にも明るい将来が開けるのです。皆さん、お互いに支えあおうではないですか」
 この不況期を何とか乗り切ろうとの姿勢がありありと見える。今年度の会員数は前年比30%増の7000人を超えました。残念ながらシロアリ防除市場は、住宅産業の落ち込みもあって大幅な縮小を見ましたが、ゼネラルコントロールは前年比増の結果でした。
 て「ところで皆さん、明年はイリノイ州の上院議員選挙の年です。そして、わがPMP協会の重鎮ドルド家のBob(Bob Dold Jr. 38歳、ローズ・ペストコントロールCOO)の共和党からの出馬が決まりました。ここで私からのお願いです。ぜひ、政権奪回に向けて、皆さんのお力をお借りしたい。ついては、当ホテル2001号室でファンド・レイズ(基金集め)をするので、クレジットカードを持参してお集まりいただければ幸いです」NPMAは共和党に大いに肩入れしているのである。なお、今回は67カ国からの支援参加がありました。御礼申し上げます。次回はハワイ大会です。
 次いで、新会長ラリー・ジェンキンズ(ABC Pest Pool and Lawn Services)の挨拶。このNPMA年次大会は「何から何まで揃ったトータル・パッケージです。参加すればするだけあなたの得るものは大きいのです」「2代目世代のNPMA会員であり、PMPとしての私は、このような機会を通じて、親族の中での存在価値やプロフェッショナルとしての公の中での自分を築き上げてきました」
 開会式のスポンサーであるバイエル社が、新製品Quantum®ジェル(ゴキブリ用)を紹介する。しばらくの間、Bayerのコーポレート・アイデンティティCFが流される。
 さて、同社が提供する開会式恒例のエンタメは、お待ちかねのシナトラ一家“ザ・ラット・パック”の登場だ。フランク・シナトラ、ディーン・マーチン、サミー・デイビス・Jrの3人組によるディナーショウ(プログラムから)で、いよいよ今大会のキックオフとなった。
 もちろんそっくりさん達なのだし、いずれ近くのホテルのショーからの出張サービスなのだろう。あの往年の名画「オーシャンズ11(イレブン)」を想いださせてくれた。世界中の国からのお客さんということで、カナダ民謡やイタリアのボラーレまでが披露される。
 随分と盛りだくさんのプログラムのように書いたけれど、これ全部であっという間の1時間。手際がいいんですよ。開会式の入りは上々だった。どうしても業界を明るいものにしたいという、会員の意気込みが感じられる開会式だった。
 このあとエキジビション・ホール(展示会場)のテープカットへと、開会式に参加した約2000人が一斉に向かう。会場ではコッペパンに鶏肉かソーセージをはさむホットドッグ(?)、袋入りスナック、コークやペプシがセットになったランチが引換券で食べられる。


展示会場風景

2. New Products Show Case

 ペストワールド2009プログラムに「PMPがペストワールドに参加する第1の理由は、新製品や新技術の習得でしょう。それにはこの商品説明会は欠かせません」とあるように、さしずめ、メーカー各社の「いち押し商品」説明会といったところだ。演壇には司会者が一人だけ。ABC順に名前を呼ばれた各社の(おそらく営業担当者と思われる)人間が壇上に上がり、それぞれ自社の製品を売り込む。許される時間は3分間だけ。練習不足で終わりまでしゃべられない人も出る。このセッションは2003年の大会を最後に、このところ開かれていなかった。当時は小さな会社の社長さんが、奥さんと掛け合い漫才みたいなことで、製品を宣伝するなどの座興もあって、大会の呼び物行事のひとつだった。今年は約30社が参加。スライドを駆使しながら、玄人っぽいシャベリをする素人もいて、会場の仲間から「いよっ」などの声も掛かる。次に我々の参考になりそうな商品を紹介しておこう
(1)アレルギー・テクノロジー:トコジラミ防除用の製品・Active Guard™ を
(2)BASF:トコジラミ用製剤・Phantom™、家屋周辺のアリ防除にAlpine™
(3)Bayer:ゴキブリ用マックスフォースが25周年を迎えました。マックスフォースQuantum™は空中湿度を吸収しながら、乾きが遅くアリの食いつきが良いので、アルゼンチンアリに最適と
(4)Bed Bug.Com:インスペクションから防除までのシステム化。「ネットで見てね」
(5)Bell Corp.:Protecta™は掃除がしやすいメタル(金属)製のベイトボックス
(6)Bird Gone:鳥類忌避剤
(7)Dow Agro Science:セントリコンのモニター用にRecruit™HDを併用すると効果的
(8)Du’pont Professional Products:デユポンのPMP向け10番目の商品Arilon™は残留噴霧用に。Terrene™Packはプリメジャード包装(1回分ずつ分包)されている
9)FMC Solutions:トコジラミにエアゾル製剤CB-40™を。Topia™も。テルスターの製品ラインにXTRA™が加わりました
(10)HYC Company Inc.:(ハイシーと読む)野生生物の侵入防止にDryer Cover(煙突の先にかぶせる)はいかが
(11)Ovo Control:ハトのバースコントロール剤で、卵を孵化させなくする。薬剤のコンセプトはPlanned Pigeon Hood™(ドバトの群を管理する)だ
(12)Lipha Tech:First Strike™はテイーバッグ様包装の第3世代殺鼠剤。ベイトボックスに仕掛ける
(13)Marathon Data System:ウエブサイト利用のトータルマーケティングに、3Gのような携帯端末を使うPest Pack™ iPhoneはいかが
(14)Micro Spring Int’l:1パックで1ガロンの散布液が出来るなどの小分け分包製剤
(15)Nisus Corp.:アルゼンチンアリに使い捨てベイトステーションTerro Niban™を。ほかにゴキブリ用もあります
(16)Paracrips:蚊成虫用のライトトラップMosquito Eliminatorは12フィートのベルト状カートリッジが特長
(17)Paragon:インスペクションに使い勝手の良い小型懐中電灯をどうぞ
(18)PIGNX Co.:唐辛子液のハト除け剤。ネズミ用にはBio Repellentがあります
(19)Pump Tech:PMP仕様の自動車一体型のポンプ
(20)Quality:IPM用にスマートに着用できるツールベルトはいかがですか
(21)Rockwell Lab:アリ防除用In Tice™。Gelanimo™は外気温の変化にも、固まらない凍らない液体ジェル剤だ
(22)FlySentry:ハエ用ベイトステーション。傘型の積み重ねで雨に強い
(23)T.A.P. Pest Control Instlation:ホウ酸を滲みこませた屋根裏用パッキング剤で、アメリカ本国のターミニックスで試験中です
(24)Pest Sales Training Co:自身のセールス体験をCDにまとめたツール。CDとMP3プレーヤーの組み合わせ販売
(25)Vermont USA:(フェルモントと読む)Rat Blocker(排水路などに仕掛けるネズミ捕獲器)は薬剤要らずのネズミ防除が出来ます
(26)Woodstreem:ジフェナクム製剤のMulti Kill™、ブロメタリン製剤のFast Kill™が出ました

3.エデュケーショナルセッションから

 NPMA大会の催し物の中でも、筆者がもっとも期待するのがこのセッションである。例年、70講座以上にものぼる講演が用意される。筆者が出席したセッションから2、3選んでお伝えしよう。

(1)トコジラミ・サミットから6ヶ月:どんなことがあったろう

 K. J. スイーニー(EPA)
 わが国でも最近になって問題化しているトコジラミ被害だが、アメリカでは一般住宅まで被害が及ぶ状況になっている。
 これを見過ごせないとして、PMP協会はEPAに働きかけ、今年の4月14日と15日の2日間にわたって、首都ワシントンDCでトコジラミ・サミット(Bed Bug Summit)を開いた。このセッションはサミットでは何が討議され、今後どのような対策が実行に移されるかが話された。
 新製品紹介セッションでも(既にお読みいただいたとおり)トコジラミ防除に関する商品がかなりあった。PMPたちの関心はとくに高く、会場は満席に近い。従来は大きな市場だったシロアリやアリ対策が、ご承知のような住宅不況で仕事が減っている。PMPに一条の光がさすとするなら、このトコジラミ対策以外には今のところ考えられないからだ。
 さて、肝心のサミットの話に戻ろう。このサミットはPMP代表者、学識経験者らが招かれ、EPAが主管したものである。

 トコジラミの棲家を嗅ぎわけるスニフ・ドッグ(嗅臭犬)の貸し出し業者:どのポットに入れてもすぐに嗅ぎあてる

□ベッド・バッグ・サミットの目的

何をするためにどうするかを決めてかかるのが、彼らアメリカ的な考えである。

  • 情報の共有化
  • 情報発信と伝達手法の開発
  • 防除法ならびにとるべき手段の確立;研究開発(R&D)手法の研究
  • この計画を実行に移す際の最適化計画の樹立

研究開発(R&D)における課題

  • 政府が果たすべき役割
  • 消費者教育と広報
  • PMPの研修教育;おそらく、このことがもっとも大事とされたと思う
  • 建築物のオーナー(日本の建築物衛生法で言う権原者)と実務の長の役割を決める

政府が行うべき役割

  • インターエージェンシー(行政の横割り)組織を立ち上げ、タスクフォースとする
  • そのための財務面の手当て
  • (とくに消費者向け)EPAウエブサイトの立ち上げ
  • PMPのトコジラミ対策認証(技術/知識);となるとPMPは大変だろう
  • 同じくPMPの研究・教育・トレーニングのための予算計上

と、随分と手厚く保護されているのがPMP業界なのか。

PMPのトレーニングと教育の方向性

国家的標準技術仕様の確立;つまりどのPMPに委託しても少なくとも標準的な防除が期待できることを目指すようだ

  • (そのためには)トコジラミIPMの確立が必要で
  • トコジラミ防除者のライセンス制も考慮のうえ、そのための基金設立を考慮する(と、ここまで来ると、少し腰が引けてきているように見えるが)
  • (この会議の最も重要な部分が)PMPが違法な薬剤や安全性の確かめられていない手法をとらないよう監視する、であろう。

現在進行中の事柄

  • ウエブページ;http://www.epa.gov/oppfead1/cb/ppdc/bedbug-summit/index.htmlが開設された
  • 次のような7つの省庁が参加のタスクフォースが誕生した。EPA(環境保護庁)、USDA(農務省)、DOD(国防総省)、NIH(国立衛生研究所)、CDC(疾病管理予防センター)、ATSDR(毒物・疾病登録局)、HUD(連邦都市開発省)
  • 連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法のセクション18、24c条項適用の可否の検討を継続中
  • CDCとタスクフォースの共同作業で、公衆衛生上の課題解決を急ぐ

となっており、行政府横割りのタスクフォースがすんなりと出来上がるなど、さすがアメリカである。どうやら緊急避難条項の適用(後述)に踏み切るようだが、「古い薬の再活用は環境団体や弁護士らの反論を生むおそれが濃厚だ」とする意見も多いらしい。

セッション終了後の参加者からの質問

質疑時間になって、当然のことながら、「有機リン剤の使用を認めよ」などの声があった。
これらに対するスイーニー氏の回答は

  • コンシューマー用(化学雑貨品)なら(法的には違反だが)許されるかもしれない
  • しかし、PMPがこれらを使うことになれば、ラベル違反で取締りの対象となる。

会場からはボソボソと「DDTを使えればなあ」の声があり、これにもスイーニー氏は「DDTは1970年に禁止したので、ニューai(Active Ingredient:有効成分)を使うほうがまだましだよ」と。
 筆者は小誌No.302 (HOHTO PMP NEWS 09年9月号)巻頭にこのサミット誕生のいきさつについて、ほんの少しだけ触れた。昨秋のこと、このサミットを開催するに当たり、EPAから打診を受けた学識経験者から漏れた話についてである。
 そのいきさつとは、今次のトコジラミの再興は、DDT時代に大流行したトコジラミの復活に違いなく、ほとんどの場合DDT抵抗性である。したがって、いま屋内で使用が許されるほとんど全てのピレスロイドにも抵抗性だ、という事実である。
 ならば、いっそのことFIFRA(連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法)の第18項「緊急避難条項」を適用してはどうか、というものだったらしい。つまり、屋内使用を止めた有機リン剤やカーバメート剤を、緊急避難条項を適用して使用を許可するのが手っ取り早いやり方ではないか、という論理だったそうだ。
 ところが実際にはそうは行かなかった。この案に飛びついたEPAが、農薬各社に問い合わせてみると、いったん使用が中止された農薬など製造しているメーカーが皆無だった。このサミットが開催されたのも、たんにもの(・・)(薬剤)がなかっただけではないらしいことが窺われるのだ。
 NPMAのすごいところは、世界中のPCO(PMP)協会をメンバーにしていることにもある。このセッションの結果、27日の夜にはカナダ、ヨーロッパ、NPMAの3者が集まって、今後の情報交換と技術の研究開発が約されたという。
(次号にはペストワールド2009:ラスベガス大会から‐②として、続編を掲載の予定です)

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