PMPのための微生物制御とビジネス化のヒント(4)

生物医学研究所・PCJ研究会 代表 青木 皐

カビと日本人の生活

 松茸・しめじ・エリンギ・黒カビ・イースト・青カビ・水虫。それぞれ全く違う世界の生き物のように感じますが、実は同じ仲間です。微生物学では「真菌」に分類されます。微生物の中では高等な部類に属し、生物学的には「真核生物」に属し、細胞の構造は人と同じです。
 キノコを食べる民族は多く見られますが、なかでも日本人は多種のキノコを食べています。日本の気候条件は高温多湿の期間が長いため、多種のキノコが採れ、食文化の中でキノコは絶対はずせない素材になっています。その気候条件のため、住まいは「風通し」をよくすることと湿度をコントロールできる建材を使って住居を造ってきました。食品でも、味噌・醤油に代表される発酵食品は常温で繁殖しやすいコウジカビを使っています。日本酒もコウジカビで米澱粉を糖化してイースト(コウボ)でアルコール発酵させます。また、世界に誇るうまみ成分の固まりともいえる「鰹節」はカビを付けることにより完成します。最近ではチーズに白カビや青カビを発生させたカマンベールチーズやブルーチーズも日本人の食卓を飾っています。このように生活の多岐にわたり「真菌」とうまくっき合って生活していました。ところが生活環境を見ますと、カビの多い地域の住まいという旧来の考え方からはなれ、風通しを無視しだし、省エネに重きが置かれたため「カビ被害」が各所で起きています。すなわち建物に「風通し」がなくなったということです。本来「畳」という床材は藁とい草だけなので、呼吸できる素材です。室内の湿気を床下に排出していました。今ではコンパネを床板に使用するため呼吸はできません。ましてや畳の裏にビニールを貼り付けたものは畳とはいえません。また部屋の窓や出入り口はサッシで密閉され、壁はビニールクロスで密閉状態、すなわち「魔法瓶化」した家屋になっています。障子や襖はビニール素材が使われ吸排湿効果はゼロです。これでは住環境でカビに繁殖してくださいといっているようなものです。
 カビ繁殖の条件は、湿度・温度・栄養源の3つです。カビはほとんどの有機物を栄養源にすることができます。塗料はもちろんビニール製の壁紙でも畳でも、もちろん木材もです。人の快適生活温度域はカビにとっても快適です。すなわち、カビ制御のために、栄養源と温度をコントロールすることは困難だということです。残るは「湿度」です。いかに湿度をコントロールするかが「カビ制御」のポイントです。これは、一般家屋だけでなく、食品工場、病院でも同じことです。

カビ被害

 カビは建物内だけで繁殖しているわけではありません。前述の条件が揃った場所ならどこでも繁殖します。ということは繁殖場所から「カビ胞子」が飛散して、空中には普遍的に存在しているということです。この胞子を吸い込み人によっては気管支炎を起こします。気管支喘息の患児のIgE抗体を調べると7~21%の子供達が陽性(カビ胞子が抗原)だったというデータもあり、カビ胞子は喘息患児の「敵」のひとつです。この胞子が肺に達すると肺アスペルギルス症などの肺真菌症や肺ムコール症など重篤な疾病を引き起こすこともあります。特に白血病患者を「無菌室」で治療するのは、細菌やカビ胞子を吸引させないためです。(余談ですが、女優・夏目雅子さんは白血病が重症化し免疫不全状態になり真菌症で亡くなったと聞きます)カビ胞子が食品に付着し繁殖するといわゆる「腐敗食品」です。昔は、お鏡餅にカビが発生しても削って食べていましたが、カビの種類によりカビ毒:マイコトキシンが産生されることが分かってきたため削っても有害だといわれています。カビ発生が認められた工業用米が食用に流通し社会問題になりました。これも問題はカビ毒です。
 いわゆる発酵食品用として使用するカビ以外は危険だと認識すべきです。腐敗は食品だけでなく家屋の木部や畳にもおよんでいます。家屋を魔法瓶化したため多湿環境になっています。北海道などでは床下から熱が逃げるのを避けるため基礎に通気口がなく床下全体が魔法瓶化して木材腐朽菌繁殖により木部劣化を起こしています。
 室内のカビ繁殖は高温多湿の梅雨時期だと考えられますが、冬季も多くのカビ発生が室内で起きています。それは結露によるもので、ガラス面の結露は除去してもサッシの溝に水分が残っているためここでカビ繁殖が起きています。低温だからカビ発生がないと考えるのは間違いで、好冷性真菌は-5℃でも発育条件に入ります。冬場の室内浮遊カビ胞子の発生源はサッシだそうです。因みに高温性真菌は41℃以上でも繁殖可能です。その他、人の体に繁殖する「水虫」や「しらくも」もカビによるものです。鶏やハトの糞に繁殖するクリプトコックスも深在性の真菌症の原因になります。
 いずれにせよ、有用カビ以外は健康だけでなく劣化被害を招き、適切な制御が求められます。カビ制御の基本は「除湿」「乾燥維持」につきそうです。

食品工場とカビ

 食品工場のカビ発生は商品にダメージを与えるので適切な管理が求められます。食品工場内の多くは製造区域で水を多量に使用します。そのため室内が多湿になります。できるだけ湿度を早く排出したいのですが、飛来虫侵入防止のため窓は閉じられていて、乾燥状態を維持することは大変難しく、多くの工場内各所でカビ発生が見られます。
 まず、原料倉庫のパレット類は入れ替わることが少なく、いつも荷物がおかれていることから風通しも悪くカビ発生が見られます。原料の農産物や粉が床にこぽれて隅の方で固まりになりカビの栄養源になっているところも見られます。
 加工区域では熱による水蒸気、結露が天井から壁におこり、これら広い範囲でカビ発生が見られます。これら熱を使う加工域は、熱がこもらないよう天井を高くしているため、日常清掃管理もできずカビによる変色をきたしています。広い面積の場所ばかりでなく、ラインの裏側や台車の裏側、あるいはコンテナにまでカビ発生を見ることがあります。また、小麦粉を使用する工場では、小麦粉が壁面や天井に付着しカビ発生を助長しています。小麦にはカビ胞子が必ずといっていいほど混入しています。夏に食パンを常温で保管していると2・3日で黒色のカビが点々と発生することがありますが、その原因はスライサーに付いた小麦粉が原因です。工場内の気流により小麦粉が加工区域のいろいろな場所に流れていることに対応することが大切です。
 食品工場で昆虫のチャタテムシが多発することがよくあります。徘徊性チャタテムシだけでなく有翅のチャタテムシも発生し、商品に混入して異物混入事故となることがあります。チャタテムシは食菌昆虫に分類され、カビ胞子を栄養源にしています。チャタテムシはカビ胞子を食べるだけでなく、体表に胞子を付着させ移動するため、広範囲でカビ発生を誘発しています。食品工場でチャタテムシを検出したら、カビ発生を疑って調査することです。工場壁面の表面だけでなく壁の空洞部内にカビが発生していてチャタテムシが繁殖することもあります。壁の隙間・割れ目などの詳細な調査が不可欠です。空調機の配水ドレンホース内にカビが発生し、そこにチャタテムシが繁殖したこともありました。チャタテムシはカビ発生の指標昆虫にもなります。そのほか食菌昆虫としてはヒメマキムシがいます。

カビ制御は5Sから

 整理・整頓・清掃・清潔・習慣(躾)が5Sといわれる、環境品質マネジメントの基本です。カビ発生の大きな要因は、湿度です。湿度がたまりやすい場所は空気の流れにくいところです。整理・整頓することにより不要品を除き、少しでも風の流れやすいレイアウトにします。そして、目に見える衛生行為として清掃します。単にゴミや埃を取り除ききれいにするだけでなく、カビの栄養源になる有機物をいかに除去するかを、科学的考察を加えて行います。微細な有機物を物理的に、あるいはケミカルを用いて化学的に除去する方法を駆使し、マニュアル化(習慣)し、一定の出来栄えを共通の概念にします。その後、清潔行為である、殺カビ処理をします。殺カビに用いる薬剤は食品衛生に悪影響を及ぼさないケミカルを選定します。そして、カビ発生の少ない環境を維持し続けること(L型管理)です。カビ胞子の多い食品加工場で製造された製品は 「商品」ではありません。「異物混入商品」です。製造時間帯なら(朝でも昼でも、月初でも月末でも、夏でも冬でも)いつでも同じレベルのカビ清浄度を維持してこそ環境品質マネジメントができたといえます。製造工程上、どうしても結露しやすい箇所は、その場所にスポットで風を送ることにより結露を防ぐことができます。終業後、床面の排水を早く除去し室内を乾燥させ維持すること(keep dry)がカビ制御の基本です。

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