発泡剤の活用方法(1)

ウィリアム・H・ロビンソン
(B&G Equipment Company社 技術部長)

はじめに

 発泡剤に殺虫成分を混ぜ、害虫駆除に利用されるようになってから久しく経ちます。発泡性の薬品を下水管内に流し込んだり、発泡性の消毒薬を病院で使用したり、歯ミガキに抗バクテリア性の泡剤を配合するなど、様々な応用方法があります。(ただし、効果が疑わしい利用方法もある)
 最初に発泡剤を害虫駆除に使用したのは、日本人だと言われています。1990年に日本の住宅の狭い床下スペースにシロアリ駆除剤を施工するのに用いられたようです。(写真は日本の住宅の床下)
 米国では、当初コンクリートの基礎の下を施工するために使用されました。今では、壁の裏側のトコジラミ駆除から木造建築の躯体に住みついたヒラタキクイムシの巣の処理に至るまで広く利用されています。

 壁の裏側や裂け目・割れ目、コンクリートスラブ下部の凹凸のある地面の処理などに発泡剤を使用することのメリットは、殺虫剤メーカーの間では周知の事実です。家庭用の殺虫剤、シロアリ駆除剤や木材保護剤には、泡と混ぜて使用するものも北米では数多くあります。機材メーカーも駆除業者向けに泡を安全且つ効果的に散布するためのツールを発売しています。両者とも泡を凹凸のある面に薬剤を拡げ一般的な液体スプレーでは届かない狭い空間に行き渡らせるのに効果的であると考えているのです。
 ほとんどの害虫駆除業者は発泡剤になじみがありますが、最新の使用方法については、まだ完全には理解していない方も多いと思われます。
 本稿は、1 )泡の基本構造と働き 2 )家庭の害虫駆除における泡使用の利点と注意点の解説を目的としています。
 害虫駆除業者は長年にわたって泡を使用してきておりますが、未だに思い込みや誤った情報も散見され、重大なミスにつながる可能性もあります。そこで、泡の使用に関する誤った情報を正すことも合わせて本稿の目的としたいと思います。

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泡の基礎

  害虫駆除業者は長年にわたって泡を使用してきておりますが、未だに思い込みや誤った情報も散見され、重大なミスにつながる可能性もあります。そこで、泡の使用に関する誤った情報を正すことも合わせて本稿の目的としたいと思います。泡は、普段はあまり意識することなく私たちの生活の中に浸透しています。ビールを飲んだり、エアゾール缶のシェービングフォームやシャンプーを使ったりしたことのある方なら、水性の泡がどんなものか既にご存知なはずです。泡の主な特徴を下に整理します。

●グラスのビールの表面にある泡は小さな気泡の集まりであり、短時間で下部の液体層に溶け込んでいきます。泡を少量とって手に乗せると、泡が消失後に手が濡れた状態になります。気泡が液体(ビール)の一部であることがわかります。

●エアゾール缶のシェービングフォームも気泡でできていますが、この気泡は非常に細かいものです。ビールの泡と異なり長時間持続する泡です。手に乗せてもほとんど消えません。何時間もそのままの状態を保つため、シェービング「クリーム」とも呼ばれます。手にとっても濡れた状態にはならず、ぬるぬるするだけです。水分がほとんど含まれていないのがその原因です。

 泡は生成しやすい反面、コントロールしにくい性質も持っています。しかし、泡を機能させるためにはコントロールすることが不可欠です。気泡の発生と(消えるまでの)持続時間をコントロールしなければなりません。泡の性質を理解することがその第一歩となります。

 泡とは気体と液体の混合体です。石けん成分を少量含んだ液体に気体を注入する事で泡が発生します。専門的に言うと石けんは界面活性剤の一種であり、表面張力を低下させる働きがあります。界面活性剤なしでは泡は存在せず、気体なしでも泡は生まれません。界面活性剤と気体の分量が泡の性質を決めると言えます。

界面活性剤

 自然な状態での水の表面張力はセラミックタイルや金属製のテープルの天面など滑らかな面に落ちた水滴を見ていただければおわかりいただけます。水滴は丸い形となり、平らに流れたりしません。強い表面張力が「表層」を形成し、丸みが維持されます。

 界面活性剤は、希釈された殺虫剤中の水分の表面張力を変化させます。界面活性剤の分子は水の表面で結合することで表面張力による「表層」形成を阻害します。界面活性剤、または石けん成分を含んだ液体は広がり、水滴特有の丸みを形成することはありません。

 シャンプーや台所洗剤、ハンドソープといったものには、害虫駆除業者が使用する泡と同様の成分も配合されています。そのひとつが界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウムです。お使いのシャンプーやシェービングフォーム、または歯ミガキにも配合されているかもしれません。皆さまご存知のようにシャンプーは泡を多く立てるように作られていますので、大量の界面活性剤が配合されております。

 気体が液体に混ざって気泡を生成する際には少量の界面活性剤が必要となります。水で希釈された殺虫剤が界面活性剤の働きに影響を与えることがあります。現在北米で市販されているほとんどの殺虫剤は界面活性剤と相性が良く容易に発泡します。しかし、ひとつ注意点があります。ジェネリックの殺虫剤には界面活性剤の働きを抑制する性質のある溶剤を使用しているものもあります。こうした薬剤を発泡させるのは困難です。(日本では希釈時に泡立たないようにするための、界面活性剤が含まれている殺虫剤があります。発泡するか否かを、殺虫剤ごとに確認する必要があります。)

●界面活性剤は水の表面張力を変えて泡を発生させますが、混合する発泡剤の量には限度があります。水の表面に存在できる界面活性剤分子の数に限度があるからです。表面積に対して界面活性剤の量が限度を超えて多くなると、界面活性剤の分子は表面に影響せず、発泡量も変わりません。

 発泡剤を加えれば加えるほど泡が生成するという誤解があるため、この点は非常に重要となります。泡の生成に対する発泡剤の影響には限度があります。スプレーボトルに発泡剤をやみくもに加えても発泡量が増えるとは限らないのです。

気体

 液体に気体を注入するのは泡の生成において非常に重要です。気体の量によって「ドライフォーム(乾式泡)」になるか「ウェットフォーム(湿式泡)」になるかが決まります。

 ドライフォームとは大量の気体が液体に注入されて生成されます。泡のほとんどが気体でできており液体成分はほとんど含まれていないことからドライと呼ばれます。

●エアゾール缶のシェービングクリームの泡が典型的な例です。缶の中にはごく少量の液体しか入っておらず、ほとんどが加圧充填されたガスです。液体が缶から出る際にガスが膨張し泡を生成します。シェービングクリームにはほとんど液体は含まれておらず、基本的に石けん成分でできた泡です。シェービングクリームの用途はカミソリが皮膚の表面を滑らかに動くようにすることだけです。

●駆除業者が殺虫剤を施工する際にドライフォームを使用してもほとんど意味はありません。この種の泡には液体はごく少量しか含まれないため、泡で処理した箇所にほとんど殺虫剤が残留しないためです。 ウェットフォームとは少量の気体を液体に加えることで発生します。液体の量が多いためウェットと表現されます。

●台所洗剤や洗濯洗剤、そしてシャンプーの泡がウェットフォームの一例です。大きな気泡の働きで洗浄成分が布の目または密生した髪の間に入り込み汚れを浮かせます。

●ビールの泡もウェットフォームです。小さな気泡はすぐに液化し、消失します。

液体

 どんな液体も泡立てることはできますが、泡立ち易いものと泡立ち難いものがあります。殺虫剤の処方はそれぞれ違い、生成される泡も異なることを留意してください。例えば、ピレスロイド系の殺虫剤にはいくつも種類がありますが、同じ種類であってもメーカーによって少しずつ処方が異なります。一般的には、処方こそが泡の生成に影響を与えます。

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