建設業者の防虫対策

1.建築物に関わる害虫とその分類

元 (株)竹中工務店 エンジニアリング本部 稲岡  徹

Ⅰ.はじめに
 今回から、建物を巡る防虫をテーマに、建設業者の立場から防虫対策について連載させていただくことになりました。筆者は長年ゼネコンで、主として製造・物流施設(工場や倉庫)における、製品への異物混入を抑制するための防虫対策を担当してきたので、その経験を生かすとともに、本来の専門である昆虫学の知識を動員して執筆したいと考えています。仕事の上で、PCOと協力する機会も多く、記事は害虫管理を業務とされる方々の参考になるような内容にしたいとも考えています。初回は建築的防虫対策の対象となる害虫を紹介します。

Ⅱ.建築的防虫対策のための虫の分類
 防虫対策を考える上で、対象となる虫の生態についての知識が有用であることは論をまたないでしょう。建設業者にとっては、建物およびその周辺における彼らの繁殖と、建物への侵入の仕方がとりわけ重要な情報と言えます。建築物との関わりの中で、防虫対策立案を念頭においた虫の分類のやり方にはいくつかの例がありますが、その中で筆者が最も気に入っているのは、平尾素一博士の提唱された方式です。まずその方式をご紹介しましょう。繁殖のタイプは、屋内繁殖と排水系繁殖、侵入のタイプは飛来侵入と歩行侵入および搬入に分類されています。建築的防虫対策立案のためにもたいへん便利で、建設業者のみならずPCOでも、この枠組みを参考に防虫対策を立案・実施しているところは数多いでしょう。

Ⅲ.各タイプの主な種または動物群
 本来なら、各タイプの虫の全容を網羅的に紹介すべきところですが、紙面が足りないため建築的防虫対策が特に必要と考えられる害虫に絞って解説します。また、これにより、筆者が重要視する虫が明らかになるという側面も出てくると思います。

屋内繁殖害虫
 部屋の隅、天井裏、壁裏、棚の中、工場では製造機械の隙間など埃・粉溜まりになりやすい所、カビの生えやすい所に発生する害虫群で、50種あまりが知られます。特に重要な虫として、食品での異物混入を起こす頻度が抜群に高いノシメマダラメイガ、タバコシバンムシ、コクヌストモドキ、ノコギリヒラタムシ、コクゾウムシ、ヒメマルカツオブシムシなどの貯蔵食品害虫、医薬品工場のクリーンルームでさえ、その生息を完全に防ぐことは難しく、難防除害虫の代表となっているチャタテムシ類(代表種はコナチャタテ科のヒラタチャタテ)、そして、あらゆる意味で害虫としてのインパクトの強烈なゴキブリ類などを挙げるべきでしょう。

排水系繁殖害虫
 すべてハエ目の昆虫で、チョウバエ科、ノミバエ科、カ科等に属す10種ほどが、建物に敷設された排水設備を主な生息環境とし、羽化した成虫が屋内を飛翔して人に不快感を与え、食品工場等では製品に混入するなどの害をおよぼします。重要種としては、オオチョウバエ、ホシチョウバエ、オオキモンノミバエ、チカイエカなどがあります。

飛来侵入害虫
 建物外の緑地や水のある環境で発生し、照明、熱、匂いに誘引されたり、気流に乗って建物に入って来ます。飛来侵入昆虫は数多く、種数は100を突破するでしょう。これら昆虫は異物混入などで問題化しても種の同定にいたらないケースが多く、正確な種数は不明です。建物の僅かな隙間からも大量に屋内に侵入し種々の製品に異物混入事例の多い、ハエ目のユスリカ科、クロバネキノコバエ科、タマバエ科、ショウジョウバエ科、カメムシ目のウンカ科、ヨコバイ科、アザミウマ目、ハチ目(特に寄生蜂類)などは工場などの建築に当たって最も注意を要する昆虫群です。また、イエバエ科、ニクバエ科、クロバエ科は、病原体媒介能があり食品への混入頻度も高いことから警戒する必要があります。

歩行侵入害虫
 徘徊害虫とも呼ばれ建物周辺の緑地などを主な発生源とし、歩いて建物内へ侵入します。コオロギ科、カマドウマ科、ハサミムシ科、アリ科などの昆虫に加えクモ、ムカデ、ゲジ、ヤスデ、ダンゴムシ、タカラダニなど昆虫以外の節足動物や軟体動物のナメクジまで含まれるのが特徴です。やはり種の同定にいたらないケースが多いので正確な種数は不明です。

搬入害虫
 搬入とは、人や物品に付着して建物内に運び込まれることを言いますが、ほとんどすべての虫にその可能性があります。ただし、そのようなことが最も頻繁におこり、かつ搬入後屋内で増殖する害虫こそ最も警戒すべきものと言えます。このことを踏まえて、建築的防虫対策の対象として考えるときは、搬入害虫≒屋内繁殖害虫という立場を筆者は取っています。

 次回からは、それぞれのタイプの害虫に対する具体的な建築的防虫対策を順を追って解説します。

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